存在の意味
第15章最終話
縮地法で一気に詰め寄った俺は、ゼロのその虚空の目を見つめる。 断罪ではない。 ゼロには裁かれる罪を持たない。 何故ならゼロだから。
何もない、存在しえない、だから存在させることが唯一の対処法だ。
ゼロも何かを思い出したのか、模倣した武器で先程よりも激しい抵抗をする様になってきた。
その攻撃を杖術で捌きながら【闇の神ラハス】、【死の神ルクリム】、【自然均衡の神スネイヴィルス】3神がかりで抑えられたルースミアを覗き見る。
初めてこの世界に来て彼女と出会ってなければ、俺は今頃どうなっていただろうか?
仮に吹っ飛ばされてきた場所が町中であったとして、死にかけていて言葉も通じない俺は、そのまま見捨てられるか奴隷商人に売り飛ばされるかしていたかもしれない。 それどころかもし町中でなければ、無残に魔物に殺されていたかもしれない。
俺がこの世界でここまで生きてこれたのはルースミアのおかげ以外の何物でもない。
……感謝してるよルースミア。
次いで【旅と平和の神ルキャドナハ】に押しとどめられているウェラを見る。
俺のこの世界で出会ったの初めてのエルフで好きと言われて恋人になった。
エルフスキーな俺を受け入れてくれ、偶然とはいえ死してなおその強い思いから魔法の神とまでなっても俺を好きでいてくれる最高の恋人だ。 結構冷たい態度をぶつけてしまったけど、それでも俺をいつでも第一に考えてくれていた。
……最後に謝っておきたかったな。
【闘争の神レフィクル】に何か言われた様で涙をこらえながら俺を見ているアリエル。俺に憧れた女の子で女体化していても変わらぬ気持ちで接してくれた。
10年間たった1人取り残されたかの様に待たせたけど、思いを変えずにいてくれた最高の俺の最初の嫁さんだ。 ……もっとも、夫婦らしい生活は何一つしていなかったな。
他にも出会ってきた仲間達の事を思い出しながら、この夢の様な世界を旅してきた事を思い返していく。
もちろん本当ならこんな自己犠牲みたいな事はしたくもないし柄でもない。
だけど、ああ……約束したんだ。 寿命や心半ばにして亡くなっていった仲間達に。
この世界は俺が守るって。
だからゴメン。 俺はそんな世界を、ルースミア、ウェラ、アリエルの居場所をなくすわけにはいかないんだ!
「お前さえ出てこなきゃこんなエンディングを迎えずに済んだんだ!」
【旅と平和の神ルキャドナハ】の見せてくれた俺の先代の世界の守護者が使った、世界の守護者にだけ与えられた力を行使する。
創造神の執行者、いわれはいいがそれはただ単に創造神の代役だ。
対となる存在を封印するという事は自身をも封印しなくてはならない。 その為ほぼ同等の権限を持たせた世界の守護者と呼ばれる存在に、ゼロが現れた時に封印の代用をさせることもそこに含まれている。
創造神はおそらくこの事をも予想していたのではないだろうか。
……ふざけてやがる。
全て茶番だったわけだ。 だがそれも全て俺の願いを叶えてくれているから文句も言えない。
ウェラもアリエルも死なずに済ませてくれた。 だったら俺もその恩に報いるべきだろう。
……夢の終わりって奴だな。
ゼロの目を見つめた後、俺の杖が振動し始める。
封印の準備ができたのだろう。 先代はゼロが強くなりすぎて、この準備をする時間を稼がすために神々達が一斉に攻撃を仕掛けたのだ。
バシィッ!
一撃を入れ、二撃目、三撃目を入れる。
最後にもう一度だけ3人の姿を見てこの目に焼き付けた。
「喰らえ!」
最後の一撃を叩き込むと俺の身体がゼロと同化する様に吸い込まれていきーーー
ーーーそして真っ暗な何もない世界が俺を包み込んだ。
次話から最終章に入ります。
凡人の異世界転移物語から読んでくれている方はお分かりかと思いますが、これでサハラが終わるわけではないのでご安心ください。




