エラウェラリエルの覚悟
いつの間にかいなくなっていた赤帝竜達が戻っている。 その中には驚いたことにレグルスが含まれていた。
「サハラさん危ない!」
アリエルの声で縮地法で距離をとってギリギリ躱すのが間に合う。 教えてくれたアリエルも俺が目を奪われていた場所を見て目を見開いている。
「レグルス! テメー!!」
怒り任せのヤクザキックでゼロを一度転ばせてから、レグルスの前まで縮地法で移動して贖罪の杖を振りかぶる。
「待って、待ってくださいサハラさん! 私が連れてきたんです!」
信じられないことに【魔法の神エラウェラリエル】がレグルスの前に立って盾となった。
「ウェラ、洗脳されたか!」
「洗脳されていたら今頃ここには来てないです!」
「サハラさん!」
アリエルの声で振り返ると立ち上がったゼロを不死王が攻撃らしい攻撃を仕掛けずに躱すだけで食い止めてくれていて、「先に話をつけるといい、集中できなかろう」と声を上げてきた。
不死王に感謝しつつ【魔法の神エラウェラリエル】とレグルスの方へ顔を戻す。
俺の横には同じ様に怒りの籠った表情のアリエルが来る。
「洗脳じゃないならどうしてレグルスを連れているのか、納得する理由を説明して貰うわよ、エラウェラリエル!」
「待つのじゃ、ゼロを倒すためにレグルスの持つ武器を使う条件に、監視下の元で生かしてやることにしたのじゃ」
【魔法の神エラウェラリエル】の代わりに【自然均衡の神スネイヴィルス】が理由を説明してくる。
「そんなもんそいつをぶっ殺して奪えばいいだけだ!」
チラとレグルスを見れば、俺達と神2人のやり取りに顔をニヤつかせながら楽しそうに見ている。
「サハラのあの時のあんな姿を見ていてよくそんな取り引きをやろうなんて思ったよね!」
セーラムも我慢しきれなくなったのか俺のそばまで来た。
ぶわっと目に涙を浮かべた【魔法の神エラウェラリエル】が聞こえないぐらい小さな声で違います違いますと口ずさんでいるのが見えた。
「いくら洗脳されたとは言え、愛している人を強制的に裏切らされたあたしの気持ちわかる? サハラさんの気持ちわかる!?」
“あの時のサハラは復讐が終わったら自害でもしかねなかったんだぞ”
アリエルとフェンリルも加わってくる。 特にフェンリルはアリエルが死んだ時からの俺を一番間近で見てきていたから尚更なのだろう。 今にも飛びかかりそうだ。
ここまで言われた【魔法の神エラウェラリエル】は、唇から血を滲ませながらキッと俺を見てくる。
「こうなる覚悟はしていました。 それでも……私は……私はサハラさんを失いたくない!!」
俺以外の面々が何を言っているんだ? という顔をみせる。 いや、【魔法の神エラウェラリエル】以外の今この場にいる神達はわかっているはずだ。
「どういう事だ【魔法の神エラウェラリエル】」
赤帝竜が聞いてないぞとでも言う様に【魔法の神エラウェラリエル】を睨みつける。
「確証はありませんが、たぶんここにいる前回戦った神々、それとサハラさん自身もわかっていると思います。
……サハラさん、ゼロを止める方法を知っていますよね? そしてそれがたぶんサハラさんの命に関わる事も」
慌てるそぶりを見せない様にしながら俺は首を傾げてみせる。
「誤魔化さないでください! 【旅と平和の神ルキャドナハ】に過去を見せられてからサハラさんの様子がおかしい事に私はずっと気づいてました!」
何も言い返せず俺が黙っていると、アリエルも俺に本当か尋ねだす。
そんなところにブリーズ=アルジャントリーが俺に声をかけてきた。
「前に一度言いんしたが、レグルスは寿命で亡くなりんす……つまり……」
それ以上は言わなかったが言いたい事は十分わかった。 要するにレグルスを許す代わりにゼロが倒せるという事なのだろう。
俺はどうしたらいいかわからなくなってきてアリエルを見つめる。
「あたしは、サハラさんがいてくれればレグルスなんかどうだっていい」
つまりアリエルは許すという事の様だ。 次いでフェンリルも見てみると微妙な雰囲気だ。
“あの後のサハラの事を知っている俺は、正直あいつを凍りつかせたい。 だけどサハラとアリエルがいいというのなら大人しく身を引く”
そんなに俺酷い状態だったのか……いや、フェンリルに八つ当たりもしたかもしれないな。
「……わかった」
俺のその一言で緊張が解けたようだ。
というのにもかかわらず、せっかく沈静化した雰囲気をレグルスが台無しにする。
「さっきからゴタゴタやってるけど、俺は神と交渉してここに来たんだ。
つまり俺を殺そうとするなら神と戦う事になるんだぜ?」
わかってんのか? とでも言わんばかりの態度だ。
その態度にカチンときた俺が杖を向けると、またも【魔法の神エラウェラリエル】が間に入り必死に首を振る。 レグルスは勝ち誇ったように俺を見てきた。




