予期せぬ情報
俺の名前はサハラ、この世界である事情から生まれ出た悪魔絡みの始末をして暮らしている。
相棒は恋人にして従属する金髪の美女アリエルと、今は大型犬ほどのサイズだが氷狼の精霊のフェンリルを連れている。
「やっぱり憑依されると助けることは出来ないわね」
「憑依される時点で契約を結んでしまっているからだろうな」
“ただより怖いものはないというのに人はバカが多いな”
「お前精霊のくせにそんな言葉よく知ってるな?」
“凄いだろ? 褒めてくれサハラ”
ほれほれと頭を近づけてくる。面倒臭いが頭を撫でてやると嬉しそうな顔を見せてくる。
「お前さ……すっかり犬だよな」
“ぶ、侮辱だ! 俺を狼扱いならまだ許せても、自然を捨てて人と生きる道を選んだ犬と同列で見るな!”
「狼なら良いのね?」
“がふ”
もうこのやりとりも数十年やってると、ただのお決まりでしかなくなってきていた。
俺は神により不老の力を与えられ、神の代行者となり、寿命と老いがなくなっているため、もう長い年月27歳の姿を変えず生き続けている。そしてそれは俺の従属化しているアリエルも同じで、20歳のピチピチのままだ。
フェンリルは精霊のため寿命というもの自体がないようだ。
悪魔絡みの解決を済ませた俺たちは今、大陸中央部に位置するウィンストン公国の首都にいる。次の悪魔絡みの情報を得るためだ。
そこで入手した新たな情報は悪魔絡みでは無かったが、俺の興味を持たせるものだった。
キャビン魔道王国に天才児が現れ、今まで見た事もないような物を作り出したという。そしてその天才児が通常10歳から入学できるキャビン魔道学院に、なんと8歳で入学するというものだった。
「アリエル、前にいつかキャビン魔道学院に行こうって言ったよな。少し気になる奴がいるし、良い機会だから俺達も入学してみるか?」
「え! 本当? うん、行く行く!」
“サハラ、サハラ、俺どうすんだ?”
「フェンリルは氷の最上位精霊だから、使い魔なんて絶対にありえないよなぁ」
「なら喋らないで今まで通り、氷狼で良いんじゃないかしら?」
“それでも良いから、俺も一緒にいたい”
「なかなか可愛いこと言ってくれるじゃないか?」
“肉うま〜”
「そっちが御目当てみたいね?」
「そういう奴だよな」
キャビン魔道学院は入学に最低必要年齢は決めてあるが、それ以上の年齢に制限はない。俺も魔法は微妙に使える程度だったため、ついでに勉強してみることにし、アリエルは全ての系統の魔法を覚えてやると嬉しそうだ。
「それじゃあ、キャビン魔道王国に向かうか?」
「悪魔絡みの方はどうするの?」
「まぁ7つ星の騎士団に任せるさ」
「そうね、ならキャビン魔道王国に行きましょう」
「そうだな、久しぶりに転移装置を使うか」
“お、歩かないで済んだ”
7つ星の騎士団またはナイツオブセブンスターは、英雄セッターが作り上げた独立組織で、国も持たずに自活しながら世界平和のために力を費やす騎士達のことで、彼らだけが扱える騎士魔法による戦いは、3倍以上の実力で同等とまで言われている。
最も、俺とアリエルは7つ星の騎士ではないが騎士魔法を使う事ができるが、それは騎士魔法とは一時的に神の力を借りる事であり、神の代行者である俺とその従属化しているアリエルはごく普通に扱える。一部の人以外には秘密にしているが、今も生きている人がどれだけいるかまでは分からない。
話も決まり、騎士団だけが密かに使える転移装置が設置されている酒場へと早速向かうことにした。
酒場に着いて転移装置のある場所へ向かおうとした時、不意に声がかけられる。
「サハラ様! やっと見つけました!」
声のする方へ顔を向けると、黒い外套に身を包んだ7つ星の騎士がいる。凄い美人のエルフの女性であるが、実はハーフエルフで英雄セッターの娘のアラスカだ。
「これは懐かしいですね」
「サハラ様、アリエルさん、お久しぶりです!」
「ここにいるということは、今はもう正式な騎士になれたんですね」
「はい! サハラ様!」
「サハラさん、あれからどれだけ経っていると思ってるのよ」
「そ、そっか、そうでしたね。ところで俺を探していたような口ぶりでしたが……」
はい! とアラスカが見習いから正式な騎士になって、平和の為に自由活動が可能になった時に7つ星の騎士団の評議員達にあるお願いをしていたそうだ。
それは亡き父、セッターのように俺を見つけたら一緒に行動を共にしたいと言うもので、了承を得たまでは良かったけれど、俺の居場所が一向に見つからず今に至るそうだ。
それを何故かアラスカは少し照れたように答える。
「アラスカさん、残念だけどあたし達これからキャビン魔道学院に入学するつもりだったのよ」
「そうでしたか! では私も共に向かい、サハラ様の身辺警護をさせてください!」
ええぇ……とアリエルが意味ありげに俺を見つめてくる。
「身辺警護は必要ないけれど、評議員達の許可を得てずっと俺を探して来たというのなら別に良いんじゃないか?」
「何言ってるのよサハラさん! キャビン魔道学院は完全寮生よ? しかも例え王侯貴族であっても付き人は禁止なんだからね?」
「そうなんだ。じゃあ入学したらアリエルとも部屋は別々になるんだな」
俺がそう言うと嬉しそうに照れたような顔を見せた。
「寂しい?」
「そりゃあな」
「お取り込み中失礼ですが、キャビン魔道学院へは何故入学するのでしょうか?」
「ん、ああ、そうですね、アラスカさんになら話しても良いでしょう」
俺達がキャビン魔道学院に入学する理由である、天才児の素性調査とアリエルの魔法の習得のためであることを話すと、アラスカは驚いた顔を見せた。
「アリエルさんは神官でありながらウィザードにまでなろうとしているのですか!」
アラスカにはアリエルが人々から畏怖されるソーサラーと言う、生まれ持ってのマナの使い手であることは話していない。ただアリエルの場合はそのソーサラーとも少し違いがあるのだが。
そうは答えたが、アラスカの残念そうな顔を見ると可哀想になってくる。のだが……それは残念そうな顔ではなく別の事を考えていたようだった。
「では、私もその潜入捜査をお手伝い致します!」
「へ?」
「はい?」
引くことないその押しの強さに、俺とアリエルの口から驚きと呆れのような声が漏れる。
“ウシャシャシャシャ”
「な! 今その狼、笑いませんでしたか!?」
その光景が面白かったのかフェンリルが我慢しきれなくなったのか笑いだした。
「「笑ってないです!」」




