想う者の為に
その頃ウィンストン公国では迎撃する為にルベズリーブ指揮の元、準備を整えられていく。
「【闘争の神レフィクル】よ」
椅子に座り肘をついていたレフィクルの前に【自然均衡の神スネイヴィルス】が姿を見せた。
レフィクルが返事をするでもなくスネイヴィルスを目だけで見たのを確認すると、スネイヴィルスが女性の手を引いて行けという様にレフィクルに向かって押し出す。
「レフィクル様!」
「此度の一件、我ら神々の失態じゃ。 そして愚かにも裏切り者であるアロンミットとニークアヴォを何としても処断しなければならない。
だが我らはゼロを優先せねばならんのだ。 そこで主にアロンミットとニークアヴォの処断を託さねばならん」
「それでラーネッドを先に手渡した、と」
ラーネッドはレフィクルのそばまで行き、胸に飛び込んできたスエドムッサを抱きしめながら懐かしげにレフィクルを見つめている。
「ニークアヴォはついでとなるが、アロンミットは元々余の敵よ」
側にいるラーネッドをチラと見た。
スネイヴィルスはレフィクルの回りくどい言い方が好きになれなかった様だが、今はレフィクルに頼るほかない状態だった。
「……つまりやってくれるのだな?」
「余の楽しみの邪魔だ。 さっさと世界の守護者のところにでも行け」
素直じゃないなとスネイヴィルスは思いながらもレフィクルを信じてこの場を離れようとする。
「待て……アレはどうなる?」
スネイヴィルスは残念そうにため息を吐いて首を振っただけで姿を消した。
「アレとは何ですか?」
「お前らは気にしないほうがいい」
レフィクルが気遣う様な言葉を使うのをほとんど聞いたことのないラーネッドとスエドムッサが驚くが、レフィクルが気にするなと言った以上2人は無用な詮索はやめたようだった。
「【闘争の神】よ、我らは敵の人種の殲滅でいいのだな?」
指示が出されないでいた忘却神の1人であるブリゼが確認する様に聞いた。
「それ以外に何ができる」
リネだけケタケタと笑い、ブリゼとデセは何の反応も見せないままだ。
しばらくするとこちらに撤退してくる男爵率いる軍の姿が見えたと報告がくる。
ブリゼ、リネ、デセの3忘却神が出向く為に移動しようとしたところでレフィクルが声をかけた。
「貴様らはゼロを知っているのか?」
「何もない」
「模倣の事ねぇん」
「虚無」
3神が答えて部屋を出て行った。
「レフィクル様、一体何のことでしょう?」
レフィクルは何かを考え、思い立った様にラーネッドに問うた。
「未来でゼロは現れたのか?」
ラーネッドが驚いた顔をみせる。 なぜならあれだけ未来の話を聞きたがらなかったレフィクルが聞いてきたからだ。
「その名前は聞いたこともありません。 それと……」
言いかけてラーネッドは口を閉ざす。 聞かれたこと以上の余計な話はレフィクルを怒らせるだけだと知っていたからだ。
だが……
「続けろ」
驚いたことにレフィクルが続けろといってくる。
「未来が見えません。 見えなくなりました」
ブリーズ=アルジャントリーと同じく、変わり過ぎた未来は既に存在しなくなり、ラーネッドもまたブリーズ=アルジャントリー同様世界の理から外れた存在になっていた。
怯えた様な表情をみせるラーネッドをレフィクルが優しく頭に手を乗せてくる。
「余とムッサがいるここがお前の居場所だ」
レフィクルの優しい言葉には驚かされてばかりだが、ラーネッドは「はい」とだけ返事をするだけに押し留めた。
「おそらく……余が神となり、アレがいなくなるから、か」
「お父様、先程から言動がおかしくありませんか? それとアレとは何のことでしょう?」
レフィクルがスエドムッサをじっと見つめて静かにそのアレを口にした。
スエドムッサが驚き声を上げたが、それ以上に声を上げたのはラーネッドだった。
「サ、サハラ様が! そんな……その様なこと」
「貴様はアレと親しかったか」
「いえ、親しいというよりは私達を導く偉大なリーダーでした」
既になくなってしまった未来の事を過去にしてラーネッドは口にする。
そんなラーネッドを見つめたレフィクルは立ち上がり部屋を出て行こうとする。
「アロンミットとニークアヴォを始末したらアレの元に急ぐぞ」
背中を向けたままレフィクルはそういうと足早に出ていった。




