模倣(もほう)と破壊
マルボロ王宮に戻った俺達はすぐにヴォーグの元に向かう。 ヴォーグの寝室……王の寝室にはレイチェルとベネトナシュがヴォーグを心配そうに見ていた。
「サハラ! 来てくれたのね!」
「……アルナイルどうして……」
レイチェルは俺に顔を向けて涙をポロポロこぼし、ベネトナシュはアルナイルに驚いた、んだと思う。
とりあえずヴォーグの容体を見ると、一見元気そうに見えるが片足が膝から下を失っている。
「治らないの、治せないの。 どうして、どうしてなの!?」
俺もドルイド魔法で再生を試みたが、やはり何も起こることはなかった。
「やはり……これは戦っている相手の所為だ。 受けた傷が普通なら記憶に残るから治癒した際に再生する。 けどあいつの攻撃は元からそうだったような状況になって、元には戻らなくなるらしいんだ」
つまり傷を受けた本人の脳の記憶的には元々片足だったと誤認するため、治癒をしても無いものは無いままなのだ。 傷だけは塞がるが、失った部位までは治らなくなってしまう。
「……治せ、ないの?」
「奴を倒せば治せるようになる。 我も昔片腕と翼を持って行かれたからな」
理由がわからない2人に過去にもゼロと戦ったことがある事を話し、今戦っている相手がどんな相手かも教えた。
「ヴォーグ安心しろ、必ずその足を治るようにする」
「頼むサハラ。 それと済まない、俺はレフィクルより劣るのを認めるのが悔しかったんだ……」
わかってはいたが、ヴォーグ自身の口からその言葉を聞けて俺は内心嬉しかった。
「ヴォーグ、お前はお前でいいところがある。 お前はレフィクルじゃないんだ」
「そう、だな」
自身の失った足を見ながら悔しそうに歯を食いしばっていた。
ベネトナシュとアルナイルを見ると、アルナイルがベネトナシュを慰めているところで、ヴォーグにアルナイルをベネトナシュのそばにおいてあげて欲しいとだけお願いして、急いでセーラムや不死王達が戦っている場へ急ぐことにした。
キャスの案内で向かった先では前回同様に爆弾のようなものを使って投げつける敵兵に対して、魔導兵と動く城壁が手を組んで防ぎながら防衛しつつ、7つ星の騎士団が感知と予測などを駆使して戦っていた。
その中で鬼神の如く戦う姿が目に入る。 手には7つ星の剣が握られているその姿はアラスカだった。
……わだかまりがなくなったのか。
「サハラ! あっちは大丈夫だから……」
キャスが急ぐようにと急かしてくる。 おそらくキャスが爆弾などの対策を講じたのだろう。
そして向かった先には不死王とセーラム、金竜2匹がいて、何者かと応戦しているようだ。
“マジでゼロだよぉ! サハラマジで戦うんだよな?”
「会話でどうにかなる相手か?」
「彼奴が何を求め何をしたいかはわからん。 だがわかることは倒さねばならない存在だという事だ!」
イフリートが怯えていっているのかと思ったが、いつものふざけたおっさん姿ではなく炎に全身包まれた正に炎の精霊の姿で、ルースミアも敵意を露わにし、前回の恨みをはらさんとでも言わんばかりの怒りの表情だ。
「わかった、とりあえず無理はするな。 初めて戦う奴は相当注意してくれ」
言ったそばからルースミアが突進していった。 邪魔する木などはリストブレードで斬るか、そのままへし折っていっている。
後に続くようにイフリートとフェンリルも躍り掛かって行こうとしたが、俺との契約範囲外には出られず振り返って見ている。
「アリエルは代行者とはいえ生身だ。 できれば後方支援に徹してくれ。 ウェラもウィザードなんだから白兵戦に持ち込まれないでくれよ」
「足手纏いにはならないようにするわ」
「一応【魔法の神】ですよ?」
「はは……そうだったな」
気をつけてはいたが、つい2人をジッと見つめてしまう。
「何サハラさん?」
「顔に何かついてますか?」
「何でもない、つい見惚れただけだよ」
アリエルは「もうっ!」と言いつつ笑顔を見せて、エラウェラリエルは……
「サハラさん、何か隠してませんか?」
勘の鋭いエラウェラリエルが俺が隠していることに感づいてしまう。
「サハラ、急いだ方がいいです。 貴方が行くだけで最上位精霊も加わるんですからね」
ルキャドナハが気を使ってくれたおかげでアリエルとエラウェラリエルも怒られた子供のような仕草を見せた。
残るキャスとブリーズ=アルジャントリーにもくれぐれも無理はしないように注意してから、修道士特有の呼吸法、予測、感知で準備を済ませて戦闘の真っ只中、ゼロ目掛けて縮地法で飛んだ。
全く予想だにしなかった距離からの縮地法という名の瞬間移動。 そこに贖罪の杖でフルスイングで脳天めがけて叩きつけ、フェンリルがくるんと回転して飛び蹴りの様に後ろ足で蹴り、イフリートも炎を纏わせずに殴りつけてすぐに距離を取る。
フェンリルもイフリートも本来の精霊らしい力は使わない。
「我が友来たか!」
「パパッ!」
不死王が欠損させられた腕を再生させながら振り返り、セーラムはその背後に立ちつつ攻撃を行っていたようだった。
「不死王、腕大丈夫なのか!?」
「我は不滅だ。 欠損などあり得んが再生は少し遅くなる」
「あいつにまったく攻撃が通じている気がしないの!」
セーラムに言われてゼロを見る。
「AAAGHHHHHHHH!」
どう見てもぶっ飛ばされた頭を両手で押さえ、アメリカンに悶絶している様に見えるが少しすると収まった様で何事もなく打撃を与えた俺の方を向いてくる。
過去のゼロとの戦いを見た俺にはわかるが、ゼロの姿は2メートルあるかないかといった高身長で、全身が薄く青い金属の様なもので出来た全裸の人の姿をしているが、性別を判断する部分はない。 顔はファラオの仮面の様な表情がなく、目は黒目を書き忘れた様な完全に白目で、口に該当する部分には半開きした薄気味悪く笑っている様なものが描かれている様な口がある。
武器の類は持ってなく……いや、ゼロが自分の手を見つめると俺の持つ杖とそっくりな形状に姿を変えた。
これでなんでこんな奴が存在するのかがわかった。 創造神が光であればゼロは影、つまり創造神が創造を司るのであれば、ゼロは模倣、破壊または虚無を司っているのだろう。
「あいつああやって受けた武器の形に変えてくるのよ!」
セーラムが教えてくれたが、手から生えていては杖術の様には使えない。
俺が杖で攻撃に行くと杖に変えた手で攻撃を受けようとしてくる。 だが直前で杖を引っ込めて握り返し突きを叩き込んでやる。
「OHH!」
モロに突きの直撃を受けたが、貫通もしなければ吹き飛びもせず、ただその場で突き入れた箇所を手で押さえて声を上げ、まるで今のは何だとでもいう様に俺を見つめてきた。




