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無能に生きる価値はない

 俺が誤解を解いている間にレフィクルの方も話がついた様だ。


 主要な人物を全員呼び集めて作戦を説明しはじめた。



 まず公爵領が現在どうなっているかはわからないが、モリス侯爵が最後に見た時はまだ健在だった。

 そうなれば敵が既に占領しているかも不明な状況であり、無闇に攻め込むわけにもいかないのは当然だ。

 そこでルベズリーブがレフィクルに内緒で作ったという秘密の抜け道を使って内部を調べることになる。

 もし敵に占領されていればそのまま戦いになる為、潜入する人員は最小限にしなければならない。 そして抜け道を知っているルベズリーブは必然と潜入の1人に決まる。



「あの大戦から100年は経つが残っている可能性はあるのか?」


 俺のそんな心配はとうに議論されていて、ルベズリーブが絶対に大丈夫だと言い切ったらしい。

 それならばと潜入が決定したわけだ。



「レフィクル様には兵を率いて貰わねばなりませんから残っていただき、後はガウシアンの民か敵か見分けられる人物が必要、というわけですが……」

「何度も言いますが、今はウィンストン公国です!」


 このルベズリーブの要求する人物の選定が難航した様だった。 結果決まったのは顔をあまり知られていないフィリップが選ばれたというわけだ。

 残るは接近戦になった際の護衛としてスエドムッサが選ばれた。



「今回は特に潜入であり隠密行動が重要。 となれば姫の最も得意とするところですね」

「必ずやお父様の期待にお答えいたします」


 スエドムッサはこの作戦を知っていた様だ。 というよりは俺達と会話をしながら聞いていたのだろう。


 ……それで無視している様に聞こえたのか。


 そして選ばれたもう1人のフィリップはというと……超震えている。



「ち、父上、俺には無理ですよ。 なんで他の人ではダメなんですか」

「お前はウィザードになりたいと言ったから魔導学校にも通わせてやったのだ。 今度はお前がそれに応える番だ。 それにお前はモリス家の後継だぞ」


 潜入はあくまで占領されているかだけの確認だけだが、迅速に行わなければ全員がワームホールからでてしまう為いつ見つかるとも限らない。

 もし無事であればローラ姫を先頭にして戻るだけだが、占領されている様であれば一気に攻め落とす方針だということだった。



「占領されていた場合は皆殺しにする。 ただし、武器を持たぬ者抵抗しない者を手にかけた者は、余がその者の首をはねる」


 なんの感情もこもらない声でレフィクルがそう宣告する。


 この言葉に俺は意外に思ったが、思い返せばレフィクルは敵対した者以外を攻撃したことがなかった様に思う。



 最終的にエグエグ泣き出したフィリップに業を煮やしたレフィクルが他の者を選定する様に命じた後、突然フィリップに斬りかかった。



「神の制約……か」


 その場にいた誰もが驚いていた。 いや、ルベズリーブ達は当たり前のように平然としている。

 当のフィリップは突然首元を短剣を突きつけられて小便を漏らしてしまっていた。


 神の制約により人種を殺害することはできないというのが、相手にダメージを与えられないというのがこういうことなのかと初めて目にしたことになる。

 もっとも前任の【闘争の神】がレフィクルと戦ったことがあるところからみて、条件を満たしている場合はその限りではないようだが……



「何をするか!」


 モリス侯爵が叫び声をあげてフィリップを引き戻し、抱きかかえるのを見たレフィクルが冷酷な眼差しを向ける。



「出来ることすらやろうとしない無能に用はない。 なんの役にも立たぬ貴様に生きている価値などない」


 さすがにこれはマズイだろうと俺が止めに入ろうとするとルースミアが止めてくる。



「主よ、奴の言い分、我には分かる」


 ルースミアがまさかそんな事を言うとは思いもしなかった俺が驚いていると、ルースミアはわざとこの場にいる全員に聞こえる様に理由を説明する。



「まだ何も出来ぬ赤子は親が守らねばならん。 だが大きくなっても無能のままではその後を生き抜けぬのだ」

「ルースミアが言っていることは弱肉強食の自然界でのことだろ。 人は助け合って生きていくものだ」


 だがそれをルースミアは一蹴する。



「助け合うというのは互いが互いを助けることだ。 一方的に助けられるというのは助け合いとは言わん」


 辺りがシーンとなる。 誰も言い返す言葉が見つからなかった様だった。



「わかったよ! やってやる! 無能じゃないって事を証明してやるよ!」


 今のルースミアのでフィリップが勇気を振り絞ったのかやると言いだした。 だがレフィクルは見向きもしない。



「もう遅いのです。貴方は既にお父様に見限られています」


 スエドムッサがレフィクルの代わりに答えると、フィリップの顔から生気を失いガックリと膝から崩れ落ちる。 そんなフィリップを俺には放っておくことはできなかった。



「レフィクル、時間の無駄だしフィリップに挽回のチャンスを与えてやれよ。 確かにお前の考え方もわからなくもない。 だけど人間は失敗を繰り返して成長するもんじゃないのか?」

「奴は逃げ出そうとしただけであろう」

「その逃げ出す事を繰り返さなければいいだろ?」


 フム、とレフィクルが頷きフィリップを見つめる。



「次は無い」


 レフィクルの言葉に顔を上げたフィリップが力強く頷いた。 その顔つきは学生時代に見たようなものとは違い、確固たる意志を感じさせるものに変わっていたように思う。



「無駄に時間が過ぎた。 全軍進軍開始」


 そういうとレフィクルはさっさと馬に乗り先に進み始め、慌てて俺たちも後を追った。



 フェンリルの背に揺られながらレフィクルがなぜ狂王と言われるようになったのか俺は考える。

 おそらく今まで生まれながらにして地位を持った、何も出来ないで威張り散らす連中が今のように処刑されまくったのだろう。

 だとしたら……



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