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ワームホール行軍

 レフィクルを先頭に隊列を組んで進んでいく。並走してフェンリルの背に乗って進んでいる俺を時折見ては冷めた眼差しを向けてきていた。



「さっきから一体なんだよ」

「馬にも乗れぬ情けなさと、乗っている姿に呆れているだけだ」


 わかってる、俺だってわかっているさ。 今の俺は熊の背にまたがる金太郎のようなもんだ。




 レフィクルの進軍速度は速い。 休憩が必要ないとなれば尚のようだった。



「しかしこれは便利なものだな」


 レフィクルの言う便利なものとはブリーズ=アルジャントリーの使う時空魔法のワームホールと吟遊詩人(バード)の事だ。

 通常の移動魔法と違い、一瞬で移動するわけではないが大群での移動が可能となる。

 魔導門(ゲート)では扉が開いている時間に制限がある上に、せいぜい2人横並びが精一杯の広さしかない。 それに対してワームホールはトンネルの大きさはある程度自由が効くらしい上に開け閉めも詠唱者が行うため、このような軍隊であっても隊列を組んだままトンネルに入れ、入りきったところで出発地点のほうの入り口を塞げばいい。



「アル、これって閉め忘れとかないのか?」


 『疲れ知らずの曲』を折り畳んだ弓に弦を張った楽器で奏で続けているブリーズ=アルジャントリーに確認してみると、やはりあるらしいそうでまれに気がつかずワームホールに入り込んで見知らぬ場所に辿り着いてしまう、なんて事件チックなことも噂で聞いたことがあると話してくれる。


 末恐ろしい噂話だな……



 ワームホール内部では魔物も出ないため、非常に安定した速度で目的の場所近くまで到着し、最後の休憩をワームホール内で取っている。



「まずはここを落とす」


 そうレフィクルが地図を指差したのは公爵が治める領地だ。



「いきなり公爵領では敵に囲まれるのではないですかな?」


 それに対してモリス侯爵が批判的に意見を述べ、ローラ姫の意見を聞こうと顔を見つめる。



「私には戦争の事は全くわかりません。 なのでこの中で私が最も頼れる方の意見で決めようと思います。 それでよろしいでしょうか?」


 レフィクルはサッサとしろとでも言いたげな顔を見せ、モリス侯爵はウンウンと頷いている。



「サハラ、貴方ならどう致しますか?」


 自分の名が呼ばれるとばかり思っていたのか、モリス侯爵は「え?」といった顔を見せ、ローラ姫のオッドアイの目は俺を見つめている。



「お、俺ぇ!?」

「はい」


 なぜかいつの間にか俺はローラ姫の頼れる存在であったようだ。 そして案の定アリエル、エラウェラリエル、ルースミアから冷たい視線が向けられ、モリス侯爵からも何でお前がといった目で見られてしまう。 いや、もう1人スエドムッサもなぜか冷たい視線を向けていた。



「ローラ、俺は戦術はからっきしで……」

「はあぁぁぁ!? ロォーーラァァァア?」

「一国の姫君を呼び捨てるとは随分親しい間柄なんですねぇ、サハラさん?」

「次は公女か?」

「待て待て待て! 違うぞ! ローラの父親のウィンストン三世に頼まれただけだ!」

「へぇぇ、それだけで呼び捨てしあう間柄になったっていうわけ」

「痴話喧嘩は後で勝手にやれ。 どちらにせよ貴様を頼ったのは事実だ」


 このやり取りに耐えきれなくなったレフィクルが殺気を込めて静まらせる。 後が怖いがとりあえず今は言うべきことを言うべきだろう。

 俺は一度深呼吸をした後……



「まず理由が聞きたい」


 レフィクルに公爵領を最初に選んだ理由を尋ねると、今回の進軍は奇襲であり、敵には悟られていない。 ならば他の貴族領を取るよりも先に公爵領を優先すべきだ、というのと公国全体の作りはガウシアン王国がベースに残っている、となると公爵領はガウシアン王国時代の王都になるという理由だった。


 同様にモリス侯爵にも理由を聞くと、むざむざ囲まれてしまうところを攻めたら、退路がなくなってしまう。それならばマルボロ王国よりの領から取っていくことが上策だと言った。


 2人の理由をこれでみんなに聞かせた事になる。



「俺には戦術とかは全くわからない。 だがこういう時、平和的な解決方法は知っている」


 この場にいる主要な面々を見つめた後ーー



「ここは民主主義にのっとり、レフィクルのウィンストン公爵領を最優先にする者と、モリス侯爵の言うように他から攻める方法のどちらがいいか、多数決で決めようと思う」


 全員が呆気にとられる中、ルースミアが爆笑しだした。



「愉快! 実に愉快だ。 主らしいぞ」

「その言い方はなんかバカにされている気もするがまぁいいか。

2択だ。 レフィクルの案に賛成の奴は手を上げてくれ」


 今この場で理由を聞いていたのはレフィクルとモリス侯爵を除いて、ルベズリーブ、スエドムッサ、ナータス、ログェヘプレーベ、ローラ、伯爵、子爵、男爵、俺、アリエル、エラウェラリエル、ルースミア、ブリーズ=アルジャントリー、ヴェジタリアン以上の14人だ。



 俺の合図でバラバラと手が上がっていく。

 レフィクルの案に賛成した人数は10名、ルベズリーブ達4人と俺を真似て手を上げたアリエル、エラウェラリエル、ルースミアの4人とブリーズ=アルジャントリー、そしてローラ姫だった。



「ローラ姫! 何故ですか!」

「頼れるサハラに私は合わせただけです」


 ぐぬぬと睨む勢いで俺に理由を聞いてきた。



「敵には神算鬼謀の【商売の神ニークアヴォ】がついている。 今ここにいる面々の中で実際に戦争をしたことがある経験者の案が一番頼れると思ったからだ」


 俺の理由が決め手となったようで、完全にとまでいかないものの納得したようだった。



レフィクルが神になった事で、サハラの出番が少し減ってしまっていますが、まぁもう1人の主人公のように思ってあげてもらえると助かります。



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