出発前の騒動
本日3話目、土曜日分の更新です。
「サハラ様わっちをお忘れでありんすか?」
レフィクルの後を追う俺にブリーズ=アルジャントリーが声をかけてくる。 レフィクルはブリーズ=アルジャントリーのことには触れていない。
「アルも一緒に来るか?」
「喜んで!」
彼女の事だから何かあるのかもしれないと思い一緒に来るかを尋ねたが、即答で返事が来た。
レフィクル達に追いつくと馬が準備されている。 もちろん俺は乗馬なんかできやしない。 昔使った魔法の幻馬を使えば問題はなかったのだが、かなりの間魔法自体の記憶はしていなかった。
「貴様は馬にも乗れないのか」
呆れた顔で言われた。 それはレフィクルだけではなく、ルベズリーブやナータス、ログェヘプレーベ、そしてローラ姫まで驚いた顔をみせる。
「主よ、我も馬は乗れぬ」
おお! ここに仲間がいた!
「馬が怯えるからな」
そっちですか……
そんなわけで俺とルースミアはフェンリルに出てきてもらい、乗せてもらうことにした。
“久しぶりの出番と思ったら馬代わりか”
「しょうがないだろ。 一応奥の手だったんだからさ」
“しかも赤帝竜も乗せるのか?”
「問題あるのか?」
“ないけどある”
どうやらがっつき氷狼は対価を要求しているようだった。
「仕方あるまい。 きさまにこれをくれてやるから我をおとなしく乗せろ」
そう言って俺の鞄からルースミアのホールディングバッグを取り出して、その中から牛丼の入った容器を開けて1切れの肉を投げつけた。
「お前そんな物を持ってきてたのか!」
「あっ牛丼!」
「まさか牛丼ですか!」
「えらい美味しそうな匂いがしんす」
匂いにつられてフェンリルがその1切れの肉に喰らいつき、食べる。
“もっと!”
千切れんばかりに尻尾を振りながらお代わりをねだる。 ルースミアはそれを見てニヤリとさせ乗せるかと尋ねる。
“オッケー!”
……チョロい、チョロすぎる。
そしてルースミアもルースミアで、もう1切れ肉を放り投げると蓋をして、またホールディングバッグにしまっていた。
セコい、セコすぎる。
なぜルースミアが牛丼なんかをというと、あの奇跡のような前の世界に行けた時、俺が仕事で会社に行っている間ずっと部屋に閉じ込めておくわけにもいかないため、3人にはお小遣いをあげていたのだ。
それでアリエルやエラウェラリエルは服、特に下着をいつの間にか沢山揃えていて、シャンプーやボディソープも買い貯めておいたのだろう。
……嫌な予感が過ぎり、3人を、特に持ち物で変わったものがないか順に見ていくと、サッとアリエルが何かを隠した。
「アリエル今何か隠さなかったか?」
「え? た、ただの水筒だよ?」
見せてみろと言うとおずおずと見せてくる。 いたって普通のマグボトルだった。
……マグボトル!?
「アーリーエールー!」
「だってだって、これずっと冷たいものは冷たいままなんだもん!」
まだ他には何かないかよく見ると……いつも通りポニーテールに束ねてあるが、赤いリボン状に止めているいつもの髪留めではなく、シュシュで縛ってあるのに気がつく。
まさかとエラウェラリエルのおかしいところはないかとよーく観察すると……
「ウェラさんや」
「何でしょうかサハラさん?」
「神である身でありながら、ネイルアートしてんじゃねーー!」
ウェラの爪には綺麗なネイルアートが施してあった。 当然アリエルもしてあり、まさかと思いルースミアの爪もみたがルースミアはしていなかった。
「お前ら少しはルースミアを見習え!」
そう言うとアリエルとエラウェラリエルが揃ってルースミアを指差してくる。 指の指し示しているだろう腰のベルトを見ると……ネズミーマウスのキーホルダーがぶら下がっているのに今更気がついた……
「ルースミアー……」
「主よ! これを我から奪うというのならそれ相応の覚悟がいるからな!」
……頭痛い。
そばで見ていたブリーズ=アルジャントリーは珍しそうに、また羨ましそうに眺めている。
「サハラ様、わっちも欲しいでありんす」
「ない! あってもダメだ!」
この調子だとまだまだ他にも沢山ありそうだ。
後で創造神に何て言えばいいんだ……まさか処分しないなら殺れとか言わないよな……
次回更新は日曜日からまた行います。
ゴールデンウィーク期間の5月3〜6日、まだ不確定ですがお休みをいただくか、纏めて4話分を当日分を入れて5話を2日に更新するか、なんとか毎日更新するかのいずれかを取らせていただきます。
楽しみにしてくれている方たちにはご迷惑をおかけします。




