想定外の事態
王宮に辿り着いた俺はすぐに女王達がいる場所に通された。
部屋の中にはグランド女王とキャスの他に、心配そうな顔をしたアリエルもいた。
「遅くなってすいません。リバーシに熱中して遅くなってしまいました」
あははと笑いながら、申し訳なさそうに頭を下げた。
「サハラ、洗脳されてきてない?」
「何いきなり言ってんだよ」
「サハラさん、レグルスと2人きりになったんでしょう?」
「なったけど、別にリバーシで打ちのめしてやっただけだよ」
「これは……末恐ろしい事になったわね」
訳が分からないが、3人に俺が洗脳されていると思われているようだ。
「勝手に洗脳された様な事を言っているみたいだけど、俺は俺のままなんだけど」
「じゃあ聞くけど、サハラはレグルスをどう思っているの?」
「どうって神殿に連れて行くんだろ?」
3人が何か悩んでいる様な様子で俺の事を見つめてくる。その視線が嫌で話を変えてみる。
「そういえばグランド女王、アリエルの洗脳の方はどうなったんですか? 俺次第とか言ってたはずですが……」
「今はやめておきましょう。それとおそらくアリエルさんはもう大丈夫でしょうから」
グランド女王がよくわからない事を口にする。
「それでアリエルなんだけど、今のまま明日には学院に戻すけど、洗脳はされたフリをして貰わないといけないんだ……」
「ええ、いかに上手くアリエルさんがレグルスを騙せるかが重要になるわ。気づかれでもしたらまた洗脳されてしまう可能性も否めないのよ」
「そう、ですか……俺が、何とか防いでみます」
「あとは麻薬の方なんだ。一応アリエルに説明はしておいたけど……」
「手渡されたら断れない、か?」
「おそらく」
「あたし、耐えてみせる!」
そこで俺はある事を思い出した。俺は修道士の能力で精神的な攻撃や毒物は効果がない。そしてアリエルも従属化してゴッドハンド担った時点で精神的な攻撃はほぼ効かなくなっているはずだ。
その事を話すとキャスが想定の話をしてきた。
「それはたぶんだけど、この世界の法則に従っている場合だけなのかもしれないね。
麻薬も洗脳もこの世界にはないものでしょ?」
「そんなもんなのか?」
「サハラの修道士なんか良い例だよ。僕から見て異常な力じゃない」
言われてみればそうだ。今の俺と戦って勝てる相手はそうはいない。
“サハラはもっと己を知れ”
今まで黙って聞いていたフェンリルが口を開いた。
「うるさい、この肉しか頭にない犬が!」
“犬っていうな! 犬って!”
しかしここまで分かっているのなら、いっそ強制的に取っ捕まえればいいんじゃないかと思いグランド女王にその事を聞いてみたのだがーー
「レグルスが何かしましたか?」
「え? だって洗脳してアリエルを俺から奪い、麻薬だって……」
「アリエルさんの事は男女のもつれ、他の人は仲が良い友達ですよね? 麻薬って何かしら?」
そう返され呆然となる。確かにはたから見ればグランド女王の言う通りだろう。
「だから次の長期休日で学院から出ている時が勝負所になるんだよ」
「そうか、分かった」
「サハラ様、魔法をかけ直したら戻ってください。アリエルさんは明日、ここから魔道兵に連れて行かせますから」
魔法をかけ直して貰い、すぐに女体に戻ると俺は縮地法を使いアラスカの待つ部屋へと戻った。
王宮に残った3人が話し合う。
「サハラもやられちゃったみたいだね」
「アリエルさんの事全く見向きもしませんでしたものね。アリエルさん、気を確かにしてくださいね。こうなるとアリエルさんが頼みですから」
「はい、あたしが洗脳された時のサハラさんの気持ちを思えば、この程度……」
「一応効果があるか分からないけれど、強力な精神抵抗の魔法を掛けておくね」
「ありがとうございます。あたしが必ずサハラさんを守ってみせます!」
部屋に戻るとアラスカがまだ起きて待っていた。
「お帰りなさい。それでいかがでしたか?」
俺はアラスカに言えるだけの話をして聞かせる。アラスカはなるほどと頷きながら聞いていた。
「それでしたら、明日からは私が迎えに参ります」
「そんな事して疑われたりしたらいけないので大丈夫ですよ」
「そうですか、分かりました。それではもう遅いですからサハラ様はお休みください」
「アラスカさんはまだ寝ないんですか?」
「サハラ様が眠りについたら休ませてもらいます」
「そういうのはやめてくださいよ」
俺が頼むとそうですかとつぶやくと、おもむろに外套を脱ぎ始め、服も丁寧に脱ぎ始めた。
慌てる俺を他所にアラスカは平然と下着姿になると、服を綺麗にたたみ寝着に着替える。
綺麗な肌をしていて、エルフ特有のスレンダーな体型をしていたが、腹はバキバキに割れていて少しだけ引いたのは内緒だ。
俺も寝着に着替えると明かりを消して眠りについた。