小便の君
城内に通され謁見の間のような場所に通される。 そこには石造りの椅子に座り肘をついて待ち構えるレフィクルがいた。
俺たちの姿を見てもなんの反応も見せず、ただ目を向けただけだ。
もちろん俺達は頭を下げたりなどせず、立ったままでいる。
その様子を見ても気にする様子は見せずにゆっくりとその口を開いた。
「赤帝竜が余に何の用でこんな死極の果てまで来たのか?」
俺達には目もくれず、赤帝竜を一目で見極めて言った。 そして当然赤帝竜も怯むこともなく胸を張って先ほど同様「我は用は無い!」と言ってのけた。
そこでやっと俺達に気がついたかのように目を配り、唯一男である俺に声をかけてくる。
「では貴様か?」
心臓を射抜くような鋭い視線が突き刺さる。 あの時女体化していなかったらどうなっていたことかとホッとしたのもつかの間、レフィクルが思い出そうとでも言うのか俺をじっと見つめてくる。
「貴様は……見覚えがある」
見事なまでに隠れて覗き見ていた時と、初めてレフィクルと戦うことになった時を思い出してくれました……
「あの時の腰抜けと、その時一緒にいた連中の1人のエルフか」
ついでにエラウェラリエルも思い出したようだった。
腰抜けと呼ばれたのが気に入らなかった俺ではなく、赤帝竜がギロリとレフィクルを睨みつけ、今にも襲いかからんと言わんばかりに姿勢を低くしている。
「訂正しろ。 サハラを蔑む事は我が許さんぞ!」
あらやだルースミアさん素敵すぎ。 じゃなくて好戦的になるのやめよう。
「確かにあの頃はそうだったが、今は違う」
「……どう違うと言うのだ?」
レフィクルが立ち上がり試すかとでも言わんばかりに腰の漆黒の短剣を抜き放った。
それをみすみす放っておくルースミアではないし、アリエルもエラウェラリエルも身構えた。
「フン! 女に守られなければ何も出来ないか?」
交渉するだけの価値ある相手かを秤にかけているのかもしれない。 そう思った俺は3人に手で制して杖を身構えた。
俺だってあの頃とは違う。
レフィクルがニヤリとさせた直後ブレたように見え高速移動で切りかかってきたが、今の俺にもはっきりと見える。 騎士魔法の予測のおかげもあって、かなりの余裕を持って次々と繰り出される斬撃を躱し、受け、捌いていく。
明らかにわざと鍔迫り合いになる。
「避けるのが精一杯か?」
「……倒してもいいのか?」
それを聞いたレフィクルが力を抜いて短剣を引っ込め、大笑いしだした。
「大した自信だ! しかもどうやら嘘ではなさそうだ。 聞いてやる、要件を言ってみろ」
「レフィクル様、よろしいのですか?」
「よい」
ここで初めて俺は自分が創造神の執行者で世界の守護者であると明かす。 というよりやっと自己紹介できた。
レフィクルは創造神の名が出ると顔が怪訝になったが、続けろと言わんばかりに首をあげる。
そこで一つ深呼吸をしてから、【勝利の神アロンミット】の勝手な行動に気がつかず、誤解したまま悪魔王とした事の謝罪から入った。
「謝罪されたところで余は既に死んだ身だ。 まさか神は殺しておいて許せと言えばいいと思っているのか? それは傲慢にもほどがあろう!」
……だよねー。
なので条件を提示する。
「生き返らせるという事は出来ないため、創造神はあんたを【闘争の神】として迎え入れると約束すると言った」
「貴様! レフィクル様に向かって……」
「よい!
で、余を神に迎え入れそれでなかった事にしろと言うつもりか?」
やっぱその程度じゃ俺だってフザケンナだもんな。
「【闘争の神】となった暁には、レフィクル、あんたにアロンミットを処断する権限を与える」
「……ほう」
これには流石のレフィクルも喰いついてきた。 この場にいたルベズリーブとナータスも好条件と感じた様だ。
「レフィクル様、良い条件だと思いますよ」
「ふむ……」
「私もそう思います、お父様」
そこに猫獣人が姿を見せる。 確か名前はスエドムッサだったか? 以前ガウシアン王国で見たとき同様、この世界ではかなり珍しい露出の多い服装で、胸はさらしのようなものを巻いた上にくびれまで届かない短いベスト、下半身には布を巻いて結んだだけのような完全に腰のつなぎ目までスリットの入った長いスカート姿で、ほっそりした綺麗な片脚が覗かした格好だ。
レフィクルの元に近づいて俺の顔を見てふと足を止めた。
「貴方、以前どこかで会いましたよね」
あちらさんも何故か俺を覚えていた様だった。 ここで嘘をついても仕方がないだろう。
「ハリケーンに見舞われたガウシアン王国で1度」
「ああ、そうです! あの時の!」
「ほぉ、では彼奴が以前お前が一度だけ会っただけという想い人だったか?」
「いっ! ちょっ! お父様、そう言うのは本人の前で言わないでください!」
ちょっと待てーー!! 会話らしい会話どころか、ションベンの話だけしかしてないというのに、何処に惚れられる要素があると言うんだ!
しかもなんか背後から刺さる様な視線まで感じられる。
「はぁ……相変わらずレフィクル様はムッサ姫にだけは甘いですな!」
話の流れがすっかり変わった気がする。
この調子が続いたら俺の身が危険に晒されそうな状況に変わってきていた。




