人を裁く辛さ
スレイドが目を見開いて俺を見てくる。
「ありえねぇ……」
「信じる信じないは勝手だが、事実に変わりは無い」
「ならなんでここにいんだよ」
「人を、探しに来た」
俺がそう言うとスレイドは顔をニヤつかせながら、ここから出す権限もあるのか聞いてくる。
「創造神の執行者ですからね、【死の神ルクリム】に命じれば可能だと思いますよ」
俺の代わりにエラウェラリエルが答えた。
すると予想通り道案内するからここから出すように要求してくる。
「サハラさん、やっぱり期待するだけ無駄だったわね」
「全然変わってないなスレイド」
そう言った瞬間、スレイドが恨めしげに睨みつけると俺に斬りかかってきた。
「テメー何様のつもりだ!!」
しかし既にそこに俺の姿はなく、スレイドの真横に移動して足を引っ掛けて転ばせる。
何が起こったのかわからないスレイドは、倒れたまま俺を見ると懲りもせず剣を振りつけてきたが、杖で軽く受け止め見下ろした状態になる。
「お前が、お前があんな腕輪を見せつけたりしなきゃ、俺はお前の腕を切り落としたり、レイチェルを攫ったり、ルースミアを刺したりなんかしなかった!
みんなお前が招いたんだ!」
「スレイド違うだろ。 お前は俺と出会う前からそうやって生きてきた。 だからお前はいつだって1人きりで仲間がいなかった。
レドナクセラ帝国の危機をガウシアンに情報を流したのもお前だ。
よくそんな事が言えたもんだな」
俺は既にスレイドの目を見つめてを断罪していた。 結果わかったのはスレイドの生き様で、不死身の禿鷲と二つ名は持っているが、まさしくコイツらしかった。 仲間に誘われ、うまそうな話であれば手を組み、仲間が死ねば死肉を漁るように持ち物を奪っていく。
場合によってはその時手を組んだ仲間すら手にかける、そんな奴だった。
「そんな証拠でもあるってのか? 適当な事ふかしてんじゃねぇよ」
この状況でもスレイドはシラを切ってきた。
「スレイド、俺はな、俺の目にはその相手の罪を見る力があって判決を下す力があるんだ。 そしてこの杖にはその相手に罪を贖わせる贖罪の力がある。
お前にとって最も適した贖罪を与える事もできるんだ!」
見下ろしたままそう言うと、スレイドは平然と俺を見てくる。
「ならやれよ。 こんな場所からおさらばできるなら、どんな消え方しようとラッキーってもんだぜ」
……本当にバカな奴だ。
俺は杖をスレイドに突きつけて言い放った。
「スレイド、己の行為に後悔しろ!」
そう言って杖を引いて、黙って見ていたアリエルとエラウェラリエルの元まで戻っていく。
「何も起こらねーじゃねぇかよ! はっ! 脅すだけ脅してそれか!」
今回の断罪で俺にはどのように贖罪が成されるのかが見えた。 慣れてきているのかもしれない。
……こんな事慣れたくはないけどな。
立ち上がったスレイドがなおも懲りずに背中を向けている俺に向かって斬りつけようとしてきた。
「お、重てぇ!? 剣が持ち上がらない!?」
そう言うと剣を離して今度は殴りかかってくる。 だがその拳が俺に当たっても全く痛みを感じる事はない。
「お前はこの死極でその無力のまま暮らせ!」
スレイドの贖罪は身体能力の低下だ。 戦って逃れるだけの力もなくなり、逃げるだけの体力もない。 それは死極において常に貪られ続ける事を意味する。
その事を悟ったスレイドは今後未来永劫続く自身に起こる状況愕然とした表情になり、今度は必死にここでこんな状態だとどれだけ大変かを訴えてきた。
「なら1つだけ尋ねる。 レフィクルがいる場所を教えてくれたら……なんとかしてやる」
「マジか!? ガウシアンの国王ならこっからあっちの方角にずっと行ったところに居を構えている」
「嘘じゃないんだな?」
「本当だ。嘘じゃねぇ」
……本当にどうしようもないな。
当然俺の断罪の力はスレイドから新たな罪の判決が下されていた。 つまりそれは今言ったことが嘘だという事だ。
「アリエル、ウェラ、ルースミア! 次に殲滅したあと甦るまでにあっちに向かって一気に離れるぞ!」
「わかったわ」
「はい!」
「うむ!」
俺が向かうといった方角がスレイドの差した方角と違い、しかも俺が無視している事で悟ったようだ。
「わ、悪かった! サハラ、お前の言う事がが本当かどうか試しただけなんだ!」
だが無情にも……
「主よ、ゆくぞ!」
粗方殲滅し、ルースミアが声掛けをしてきた。
「じゃあなスレイド」
一言それだけを告げて縮地法で一気にその場から離れた。
何か叫ぶ様な、悲鳴の様にも取れる声が聞こえた気がしたが、既に俺はその場から遠く離れた場所まで移動していた。
すぐ後からアリエル、エラウェラリエル、ルースミアも俺の元まで辿り着いて俺の顔を見て心配そうに見てくる。
「創造神の執行者として裁きを与える権限を持たされたけど、確かにスレイドが言ったように俺って何様なんだろうな……」
「ここは死極で、罪人の中でも特に罪深い者が送られて封じられる場所なのですから、サハラさんがそんなに気にやむ必要はないと思います」
「彼奴が我や主にやった事から考えれば、そこまで気にやむ必要もないだろう?」
「まぁでもさ……」
アリエルがエラウェラリエルとルースミアを見てから言い放った。
「サハラさんのその優しさが好きになったんだけどね」
「そうですねぇ」
「……うむ」
慰めてくれているのだろうことはわかるが、人が人を裁く辛さを感じた瞬間でもあった。




