死極の住人に贖罪を
ルースミアが狙わない1体がいたため、わざと残した相手なのだろう。 そしてその相手を見て俺より先に声を上げたのがアリエルだった。
「……遺跡の領主トーターク」
「知っているんですか?」
「少し、ね。 でもおかしいわね、なんであいつまでもがあんなに必死になってあたし達を襲ってくるのかしら?」
アリエルの声が聞こえたのか遺跡の領主だったトータークがわめきだした。
「ここから抜け出すために決まっとるわ! 貴様ら生者を殺せば儂はここから出れると聞いたんだ! だから大人しく儂に殺されろぉぉぉ!」
トータークがポケットに手を突っ込んで小瓶を取り出したところで嫌な思い出が甦る。 あれが割られればアリエルとエラウェラリエルはもちろん、ドラゴンにも効くと謳っていた媚薬だ。 3人が媚薬にやられたら守りきれそうにない。
「フェンリル! イフリート! どっちでもいい、あの瓶を割らせるな!」
“それなら俺っちにお任せ〜”
どんなマジックを使ったのか、地面に叩きつけようとした手には小瓶はすでになく、代わりにイフリートが持っていた。
“サハラ、俺っち役立つぅ! さぁ見直してくれyoyoyo!”
「わかったわかった、見直してやるからそいつをなんとかしてくれ」
イフリートが小瓶を指差し口を指差しだし、あーんっと口の中に入れてしまった。
“焼却開始〜、はいスイッチポン”
ブッシューと音がなったかと思うとイフリートが8体に分身して「しょ」「う」「きゃ」「く」「か」「ん」「りょ」「う」1人づつがドレミのテンポで言葉を発する。
……見なかったことにした。
小瓶を失ったトータークがおのれおのれおのれぇと叫び出す。そんなトータークの目を俺は断罪するために覗き込んだ。
……罪の大半が女絡みで、手に入れるために選ばぬ非道な行いが見て取れた。
「おい豚。 権力ふりかざして強引に気に入った女を片っ端から好き放題しやがって!」
「ブホッ! そんな証拠など何処にもないぞ?」
ブホッとか言うなよ。 少しはらしくやってやるか。
「我は創造神の執行者にして世界の守護者サハラなり、貴様の犯した罪は既に我が断罪した……
己の行為に後悔するがいい!!」
杖をトータークに向けると、ぎょええぇぇぇぇと声を上げだし、玉が……竿が……俺には見るに耐えられないどころか、俺自身を思わず手で抑えてしまうような贖罪が起こった。
アリエルはオエッと吐き気を催し、エラウェラリエルは何故か手で押さえる俺を心配そうに見つめ、ルースミアは何度でも蘇ってくる魔物を相手にしつつ横目で見て爆笑している。 その油断で攻撃を受けていたようだが気にしている素振りを見せないところはさすがだ。
そしてトータークが完全に沈黙するとパンッと何かが破裂したような音とともにその場から姿を消し、甦ることはなかった。
「先ほどの破裂音のようなものはおそらく魂が破れた音かもしれませんね」
魂、とされているが、所謂その後新たに転生した時に形成するために必要なものの事らしく、それが破れた今トータークは転生する事なく完全に消滅した事を意味するらしい。
転生しても記憶が無いのならたいして違いは無さそうに思うのだが……
「どのような術を講じようとも還ってくる事ができないって事だよ、サハラさん」
アリエルが自身の心臓辺りに片手を添えていて、それで気がついた。 アリエルもエラウェラリエルも一度は死んでいるが、助力などのおかげだが2人共俺の元に戻ってきている。
もしマナの結晶化をしていたら……いや、あれも結晶化はしているが消滅はしていないか。
「サハラ、グエェェ……頼む、ぐふぁぁぁ……ルースミア、ルースミアを止めてゴフッ……」
スレイドが何度も殺されながらも必死に俺にルースミアに止めてもらうよう叫んでいる。
ルースミアとフェンリルとイフリートが頑張ってくれているおかげで俺達には考える余裕がもらえていた。
改めて見る死極の世界は空は赤暗く、不毛の大地であり、またとてつもなく広い空間である事が見て取れる。
「これはもう一つの世界と言ってもよさそうだな」
「この中から探しだすのは大変そうね。 あたし達を狙ってくる奴らも……増えてきてるようだしね」
「急いだ方がよさそうですね。 休める場所が見つかるとも限らないですから」
つまりここに詳しい奴が必要だった。 いない事はないが、と今もボロカスのように蘇ってはルースミアに殺されているスレイドを見る。
「信用するの?」
「信用できなくても情報だけは聞き出せるかもしれない」
「サハラさんがそれでいいのならいいですけど……」
ルースミアに言ってスレイドをこちらに来させる。
「持つべきものはダチだなぁサハラ」
「俺はお前をダチとも仲間とも思わない」
「そう言うなって、あんときゃ欲に目が奪われただけなんだ」
「十分過ぎるクズね」
「そうですね、こんな人を尊敬していた時期があった自分が恥ずかしい限りです」
さすがに2人にここまで言われるとスレイドもむかっ腹でもたったのだろう。
「いくらなんでも言い過ぎだ。 サハラの連れじゃなけりゃ何をされても文句を言えねぇぞ」
ドスを効かせた声でスレイドが2人に脅すように言うが、当の2人は呆れた顔を見せただけだ。
「はぁーー、ほんっとうにクズね。 いいかしら? あたしは【自然均衡の神スネイヴィルス】の代行者アリエル。 それでこちらは【魔法の神】のエラウェラリエルなんだけれど、その2人相手に何をしようというのかしら?」
それを聞いてスレイドは驚いた顔を見せたが、冷静になって聞き返してきた。
「そっちこそ脅しにしちゃ嘘が下手だなぁ、ぁあ?
【自然均衡の神】の代行者はサハラだろうが! それにそっちのエルフだってあん時の冒険者だろう?」
アリエルがため息をついてバトンタッチとでも言うように俺に後を任せてきた。
「スレイド、あれから100年ぐらい経ってるんだ」
「まだ100年かよ!」
そうか、死極の時間だと……もっと長いのか。
「今アリエルが言ったのは本当だ。 なぜなら今の俺は創造神の執行者、世界の守護者だからな」
懐かしい人たちが出てきてます。
スレイドに至っては、すっかり悪人になってますね。
それはさておき、想定ではもう間もなく最終章が近づいてきていたりします。
これが終わったら狂王レフィクルを書き上げて、一気にアップする予定です。
……たぶん。




