死極の門を越えて
第11章最終話
……ここはどこだ?
そうか、俺は死んだんだな……
しかし頭はとても柔らかい感触があり心地よく、そして口は塞がれていて息苦しいが決して嫌ではない……
「サハラさん着いたよ、起きて起きて」
目を開けるとそこには死んだはずのアリエルの姿が見え、俺が目を覚ますとどこかに向かって「起きたよー」と声をかけている。 目を戻すと覗き込むエラウェラリエルの顔があって、俺の頭を撫でてくる。
……ここはどんな天国だ。 そう思った直後、頭が覚醒して状況がはっきりしてエラウェラリエルの膝枕から身体を起こす。
ニッコリ微笑むエラウェラリエルに感謝の気持ちで口づけした。
「主、この後は水中なのだろう。 早いところ準備しないと遅れるぞ」
赤帝竜が何か巨大な爬虫類のような生物を噛み締めながら言ってきた。
……たぶんあれってTレックスだよなぁ。
全く魔法の記憶をしてない俺にアリエルが水中呼吸を使ってくれて、翼をピッタリと体にくっつけて超弩級の赤いイグアナのようになった赤帝竜の頭に乗り込んだ。
地面を這うようにして湖に入り込むと、身体をくねらせながら泳ぎだしたかと思うと一気に潜り込んだ。
水中ではそこまで速度が出ないのか、湖底まで辿り着くと這うように進んで行った。
「赤帝竜さん、頭上から何か来ます!」
嫌な予感が過る。 まさかな……
そう思っているとそのまさかで、巨大なホオジロザメ……メガロドンが向かってきた。
本能的にヤバいと思った次の瞬間、乗っていた赤帝竜の頭が上を向いたため振り払われてしまい、咄嗟にアリエルとエラウェラリエルの手を掴む。
バクゥッ!!
あれだけ巨大に見えたメガロドンも赤帝竜の前ではただの餌に過ぎず、一噛みで10メートル以上はあるメガロドンの腸部分だけを食べた。
「臭くてあまり美味くないな」
モッシャモッシャゴキュっと飲み込んだ赤帝竜が言う。
身体が浮いていくのを防ぐ為に湖底から生えている草にしがみつきながらその様子を見て、少しだけメガロドンが哀れに思えた。
そのまま湖底を進むと縦穴があるところまで辿り着き、その縦穴を降りると真横に伸びる長い横穴のある場所が見える。更にその非常に長い横穴を進むと上に向かう縦穴が見え、そこを少し上に向かうと水中から出れて洞窟の内部に出る。
赤帝竜もそこで人型に戻らせて服を渡すと、着替えながら「ここにこんな場所があったとはな」とキョロキョロしていた。
「この先で魔導王バルロッサ……今は【死の神ルクリム】の代行者だったか、が死極の門を守っているはずだよな」
「なんだか懐かしいね」
アリエルに頷き返しながら、ちゃんと門が守られているのか不安を覚え、また守られていたとしてバルロッサの兵でもあるアンデッド達が襲って来やしないかと心配になる。
洞窟を進むとバルロッサと最後に別れた巨大な広さの縦穴に辿り着く。 眼下には巨人でも通れそうな巨大な扉があり、そしてその周囲には大量のアンデッド達の姿があった。
「凄い数ですね……まるでこの間の悪鬼の軍団ぐらいはいるんじゃないですか?」
以前来た時にアリエルが言ったようなことをエラウェラリエルが言う。
「さて主よ、どうする? あれを突破するのは容易ではないぞ?」
ルースミアの言う容易ではないは、おそらく時間がかかるという意味だろう。
確かにこのまま行けば、間違いなくあれらと戦うことになりそうだ。 その為少し観察していると、掘っ建て小屋のような所からボロボロのローブ姿が出てきて、その後から思い切り見覚えのある姿を目にする。
「なんでここにセーラムがいるんだよ!!」
思わずそう叫ぶとボロボロのローブ姿のバルロッサとセーラムが俺たちの方を向いて、セーラムが手を振りながら叫び返してきた。
「サーハーラー、随分遅かったねー! どこか寄り道でもしてたのー?」
……なんかどっと疲れが出てきたよ。
下まで降りた俺たちをバルロッサとセーラムが迎えに来る。 エラウェラリエルはバルロッサと初めて会うからか緊張しているように見えた。
「なんでセーラムがここにいるんだよ」
「んー、だってサハラはあの時以来ここには来てないから、絶対お爺ちゃんのアンデッド殺すでしょ?」
「つまりお前はここには何度か遊びに来ていて、馴染んでいるわけだな?」
「正確には違うぞ小僧。 セーラムは金竜のガキから逃げ回った時にここに転がり込んだのだ」
そこで俺はバルロッサに挨拶するのを忘れていたため慌てて挨拶をする。
「お久しぶりですバルロッサ師匠」
「まぁ師である事は確かかもしれないが、今じゃ小僧は世界の守護者だろう。 小僧が随分と偉くなったもんだなぁ!?」
「ぁあ? 我のサハラに随分と態度がデカくはないか? バルロッサよ」
「お、あ、いや、これはただの馴れ合いだ! なぁサハラよ!」
「まぁそういうことにしておきますね」
相変わらずルースミアの前では魔導王と言われたバルロッサもタジタジになってしまっている。
「それで今日ここに来た理由は……」
「セーラムから聞いているぞ。 死極の門をぬけるんだろう?」
頷いて答える。
骸骨から覗く赤い瞳が俺をジッと見つめ、ルースミア、アリエルと見ていき、エラウェラリエルを見る。
「ふむ、小僧一つだけ約束しろ。
……必ず帰ってこいよ」
「はい!」
こうして【死の神ルクリム】の代行者バルロッサ、セーラムと別れ門の前に立つ。
「戻れなくなるかもしれない。覚悟はいいか?」
「サハラさんがいるならどこにでもついて行くわ!」
「私も、サハラさんと一緒にいられるならそれだけで十分です!」
「主は我の拠り所よ。どこまででもついて行くぞ」
鍵穴のない門に鍵を近づけると、巨人でも通れそうな門がゆっくりと開きだす。
門の先は艶も何もない暗黒で、まるでブラックホールのようだ。 そんな中に一歩踏み出そうとした時後ろから声が聞こえた。
「パパ、絶対、絶対に戻ってきてね! 絶対だからね!」
涙を流しながら叫ぶセーラムに笑顔で応え、門の中に飛び込むように入ったのだった。
第11章でした。
色々と過去の話がたくさん絡んでいて、覚えていないとわからなくなるところも増えてきているかもしれませんね^_^;
次回から第12章に入ります。
いきなり驚きの展開になると思いますよ。
だって、書いている本人が一番驚いてますから……
もっとも本当はすっ飛ばしてもいい話なので第12章はおふざけ的な話だと思ってください。




