地獄のコースター
エラウェラリエルは【魔法の神】となって詠唱速度が速くなったのと同様に、記憶する速度も速くなったらしく、俺とブリーズ=アルジャントリーが神殿から戻るまでの短い間で既に再記憶を済ませてあった。
「まさか移動魔法を使う事になると思わなかったので、1回分しか記憶してありませんでした」
「その1回で間に合うから大丈夫だ。 むしろ助かったよウェラ」
髪を撫でながら答えると嬉しそうな笑顔を見せ、早速詠唱に入るとその速さに魔法学院で勉強したアリエルが驚いていた。
「その詠唱速度はソーサラーに匹敵するんじゃないかしら?」
「詠唱自体必要ない我と比べれば劣るな」
「あら、あたしだって必要ないわよ?」
なぜか比べ合いが始まる2人がいる。 ふとアリエルのマナ保有量はどうなったのか疑問に思い聞こうと思ったが、それより先に門が現れたため、聞くのをやめて俺を先頭に扉を抜けるとそこはもうヴァリュームから少し離れた場所だ。
本当はヴァリュームの妖竜宿に寄って、シャリーに礼を言いたかったが先を急がないといけない旅の為、全てが終わってからにする。
「感知の範囲には誰もいないな。 フェンリル、お前の鼻ではどうだ?」
“最近俺の出番こういう時だけか……ん、いないぞサハラ”
“フェンリル、お前なんかまだいい。 俺っちなんかお呼ばれもしない”
イフリートと契約していた事を知らなかったアリエルは筋肉ダルマを見て驚いていた。
「サハラさんイフリートとも契約していたんだ」
「そういえば言ってなかったな」
「氷と炎の最上位精霊2種と契約なんて凄いね」
“凄くないぞ! 最近サハラは全く相手をしてくれなくなったんだ!”
“姉さんからもちょっくらビシッといってやってくださいよ〜”
「な、なんとなくわかった気がする……」
フェンリルとイフリートの愚痴に思わず苦笑いを浮かべ、今度美味いものを食べさせる約束でなんとか機嫌を直してもらい、それぞれ宿っている場所に戻ってもらった。
「ルースミア頼む」
「うむ」
そういうとルースミアがおもむろに着ていたローブやらを脱ぎだし俺に渡していく。
理由をわかっている俺は、真っ裸になっていくルースミアから当たり前の様に服を受け取り次々と鞄に詰めていくが、知らないアリエルは驚いた表情をしながら聞いてきた。
「ルースミアさん、なんで裸になんかなってるの?」
「そりゃ元の姿に戻ったら服が破れるだろ」
とはいえ明るい場所でこれだけはっきりとルースミアの裸を見たのは初めてかもしれない。
全てを脱ぎ終わると素っ裸のままテクテクと歩いて距離を取り、次の瞬間超弩級サイズのドラゴンに姿を変える。
「うわ……ルースミアさんって本当に赤帝竜さんなんだ」
「当たり前だろ、何を今更なこと言ってるんだアリエルは」
「えへへ」
赤帝竜が小型トラックぐらいの頭を下げてきた。
注.『凡人の異世界転移物語』の頃から軽トラと小型トラックを勘違いしていました。 頭部だけで6メートル程あると思ってください。
「急ぐのだろう、さっさと乗れ」
赤帝竜の頭に乗れるのが嬉しいのか、アリエルが1番に乗り、続いてエラウェラリエルが乗った。
「どうしたサハラ?」
「い、いや、俺は縮地法でついていくから遠慮しておくよ」
それを聞いたエラウェラリエルが余計な事を思い出したのかクスクスと含み笑いをしだす。
「え? なになに? なんかあったの?」
「実はですね……昔サハラさんが霊峰のゴールドドラゴンに乗せてもらって降りた後、顔真っ青にしちゃって……サハラさん風に言うとリバース? しそうだったんですよ」
「そういえば我と共に住処から出た時、雌の様にキャーキャー騒いでいたか?」
「へーーそうなんだぁーー!!」
ニマニマさせながらアリエルが俺を見てくる。
「な、なんだよ」
「サハラさん、かぁーわいぃーい」
「うっさい! 人間誰にも得て不得手ってもんがあんだよ!」
エラウェラリエルまでそんな俺を見てニコニコしている。
「我とはぐれられても困るからさっさと乗れ」
「ぐ、ぐぬぬ……覚えておけよ。 我慢しきれなかったら遠慮なく赤帝竜の頭に撒き散らしてやるからな!」
そんなわけで嫌々ながら赤帝竜の頭に俺も乗っかる。
「行くぞ! しっかり捕まれよ、人を乗せて飛ぶのはこれが2度目だ!」
「赤帝竜! 後生だ。 安全飛行をたのっ……!」
俺が言い切る前に赤帝竜はドシュン!! と垂直に飛び立ちやがった。 間違いなくワザとだろう。
「ぃいやあぁぁぁぁあ! 死ぬ死ぬ死ぬっ! 落ちて死ぬぅぅぅぅぅっ!!」
「ひゃぁーーきぃっもちっいぃぃっー!!」
「とっても楽しいですねー!」
こうして俺は地獄のコースターに1時間も乗せられ続けるのだった。
本日後ほどもう1話更新します。
次の話で第11章が最後になります。
そして第12章は当初外伝にしようか迷った話で、びっくりするほどガラッと内容が変わりますよ。




