レクチャー
そう言えば、と思い出したように【守護の神ディア】がどうなったのかを事を尋ねてみると、スネイヴィルスが静かに首を振った。
死んだという事なのだろうか……それ以上は聞きにくく【守護の神ディア】の話はやめておくことにした。
場の空気が悪くしてしまい、慌てて話をすり替える様に創造神に俺は聞く。
「そういえば死極にはどうやって行くんですか? まさか死ぬとかじゃないですよね」
話題を変えようと冗談を交えて聞いてみると、【死の神ルクリム】がハァ? とでもいうような顔を見せてきた。
「サハラさん……死極の門の事忘れちゃったの?」
あ……そういえばそんなのあったなぁ。 いや待て、そうなると死極の門の鍵が必要になるんじゃ……
その心配はアッサリとジャラッと鍵を手渡されて終わってしまう。 まるでさっさと行けとでも言わんばかりだった。
「世界の守護者のサハラよ。 其方に鍵は託す」
ははは……これはもう行くっきゃないな。
念の為俺と契約しているフェンリルとイフリートはどうするのかを尋ねると、一緒で構わないが死極では精霊力はほとんど働かないから、活動自体が制限されほとんど具現化できないだろうということらしかった。
俺が鍵を受け取ったことで了承したとみなされ、【死の神ルクリム】が死極での注意点を説明し始める。
まず門から侵入した場合最初に待ち受けるのが、死極から戻れなくしようとする力が働くという。 これは個人差があるらしいが、本来の目的を忘れさせて留まらせるものらしい。
「それを防ぐための3人です」
この時はその意味がよくわからなかったが後々助かることになる。
そしてそこを抜けると死極の内部になるらしく、死極に生きる生物がウヨウヨといるらしい。 もっともそれはレフィクル達が閉じ込められる前のため、今はどうなっているかわからないそうだ。
「肝心の戻り方ですが……」
死極からの戻り方は至って簡単で、手渡された鍵には戻るための扉を開く鍵とそれを開ける鍵があって、それを使えば抜け出せるらしい。
「なんか簡単なんですね」
「だから鍵が重要なのです」
「そもそも死極とは一体なんなんですか?」
俺が一番の疑問に感じたことを聞くと創造神が答えてきた。
「其方にわかる様に言えば、我の持つホールディングバッグの様なものにして、創造した失敗作を詰めてある場所だ」
創造神が創造して失敗した凶悪な生物や、品々がそこに詰められてできたもう一つの世界の様なものらしいのだが……要するにゴミ箱だ。
「鍵を無くせば戻れなくなります。 決して失くさない様になさい」
「えーっと、もし無くなっても鍵は別にあるんですよね?」
「その鍵は複製できないのでありません」
……とんでもねぇな。
他にも一通りレクチャーを受け頭に叩き込むと、最後に創造神が俺を見つめながらレグルスの侵攻が始まるまでに戻れなければ、最悪以前同様大洪水で全てを無に還す可能性もあると話してきた。
俺は頷いて答え、早速行動に移すことにする。
ラーネッドに掛けたローブはエラウェラリエルとお揃いのもののため、鞄から別の物を渡して返してもらい俺達は創造神達と別れたのだった。
こうして俺はブリーズ=アルジャントリーと【自然均衡の神スネイヴィルス】の代行者となったアリエルを連れて階段を上って戻る。
神官は1人増えたというのに気にもせず頭を下げてきただけだった。
日の光が出ている明るい王都に出て改めてアリエルを見つめる。
「サハラさん何? 」
「いや、あまりにも夢のようで今いるアリエルが……うっ!」
……唇を奪われてしまった。
「これで信じた?」
「お、おう」
ニコニコと見つめてくるアリエルを見つめ返していると、ブリーズ=アルジャントリーが呆れた様な目を向けてくる。
「わっちもいるんでありんすからあまり見せつけありんせんでくんなまし。 それにこなたの後サハラ様はお2人にも説明しないといけありんせんのを忘れていないでありんすね!」
ブリーズ=アルジャントリーに言われてハッとなり3人を思い浮かべる。
負けん気の強いアリエルはイチャイチャ大好きな美人。 お淑やかでエルフスキーな俺には勿体無いぐらい美人のエラウェラリエル。 そして好意は寄せてくるが猫のようなどちらかと言えば美人より可愛い赤帝竜。
その3人共俺の恋人達だと思うと、イヤでも顔がにやけてくる。
「サハラさん顔がスケベーになってるよ」
「嫌か?」
「うううん、……好きー」
ウガーーーッ! とブリーズ=アルジャントリーが隣でキレているのを尻目にイチャコラしながら王宮に戻っていった。
「主! 戻った……か……ぁあ!?」
最初に出会ったのが赤帝竜で、俺にベッタリと抱きつくように歩くアリエルを知らない赤帝竜は、その光景を見て即座にブチ切れた。
「き、き、き、貴様誰だ! 直ちにサハラから離れろっ! さもなくば、容赦せぬぞ!」
すっかり気の抜けていた俺は赤帝竜の怒声で我に帰り、危機的状況に気がつくのに遅れてしまう。
お互い初めて顔を合わすため、アリエルは目の前で叫ぶ女が赤帝竜だとは思ってもいないはずだ。
アリエルがスッと俺から離れ、赤帝竜の方に向かう。 やめろと思ったが間に合うはずもなく、俺はただ天に祈るしかなかった。
「はじめまして、あたしサハラさんの妻のアリエルって言います」
そう言って左手の薬指にはまった真円の指環をワザと見えるように撫でてみせる。
アリエルお得意の牽制だ。
「くぁwせdrftgyふじこlp!!」
声にならない叫び声を赤帝竜が上げ、愕然とした顔で俺を見つめてくる。
そんな赤帝竜の後からエラウェラリエルも姿を見せ、挨拶してきたよーとばかりに俺にへばりつくアリエルを指差し叫んだ。
「くぁwせdrftgyふじこlp!!」
早いですが、本日の更新分です。




