新たな【自然均衡の神】の代行者
創造神がここまで妥協してくれたところ申し訳ないが、理不尽なルールの中に飛び込む勇気がはっきり言ってない。 加えてレグルス達をほったらかせる状況でもない。
「1人で行けとは言わないですよね?」
「それはもちろん。 こちらが選別した3人で行ってもらう」
「これは強制ですよ」
創造神の後をついて【死の神ルクリム】が凄い冷たい眼差しで言ってきた。
「拒否権が無いのであれば仕方がないと思うんですが……まぁわかりました。
ただそうなるとレグルス達が黙って待っていてくれはしないと思うのですが」
すると今度は【死の神ルクリム】が目を細め裏手で口を隠し含み笑いをする様に答えてきた。
「ご安心なさい。死極での時間の流れは、1年いてもこちらでは1時間程度しか経たない」
……こりゃ確かに永遠の苦しみって奴だわな。
「それと1つ頼みがあるんですが……始原の魔術を使える方が便利だった気がするんで使える様にしてもらうなんて事は……」
実は創造神の執行者、世界の守護者になってから思っていた事で、確かに断罪と贖罪の力は強力だ。 だがあまりにタイマン用過ぎるし、何よりも断罪する度に俺の脳が狂いそうになる。
今回のような戦争には始原の魔術である自然の力の方が役立つ気がしたのだ。
だが、無情にも創造神からの返事は却下されてしまう。 既に自然均衡の神の代行者が決まってしまったのだと言ってきた。
「それじゃあ仕方がありませんね。
それで同行する3人は誰なんですか?」
それを聞くと待ってましたと言わんばかりに【死の神ルクリム】が答え出す。
「まず1人は赤帝竜、もしサハラが交渉に失敗してくれれば大惨事を死極に封じれます」
……ずいぶん悪どい考えだな。
「次に【魔法の神エラウェラリエル】。 もしサハラが交渉に失敗して死極から戻れなくなったりした時、また泣きつかれては面倒なので」
……これまた酷い言われようだな。
「最後に……こちらに来なさい」
そう言われて1人の人物が姿を見せる。 その姿を見た瞬間、俺は夢でも見ているんじゃないかと思った。
「この【自然均衡の神スネイヴィルス】の代行者アリエルの3人を連れて成し遂げなさい。 世界の守護者のサハラ」
【死の神ルクリム】が間の抜けきった俺の顔を見てフッと鼻で笑う。
「あ……アリエル……なのか? 本当に?」
「うん、うん、そうだよ、サハラさん」
「だってあの時……」
すると咳払いが聞こえスネイヴィルスの爺さんと【闇の神ラハス】が入ってきた。
「大変じゃったのだぞ、儂等3人掛かり神威の大半を使い切ってアリエルを引き戻したんじゃからな」
「しかし仕方がなかろう。 今回の事は全て我々神々のミスだ」
それでさっきから【死の神ルクリム】がキツく当たってきていた?
という事は目の前にいるアリエルは本当に本当の……
「サハラさん! サハラさん! サハラさん! 逢いたかった、逢いたかった……うわぁっと!」
赤帝竜と比べれば薄く淡いボリュームのある赤色の髪の毛、今は束ねられていないためボサボサにも見える。 気がつけば俺は走り寄ってアリエルを強く抱きしめていた。
「アリエル! アリエル! ずっとずっと逢いたかった!」
「えぇっとぉ……」
拍子抜かれた様なアリエルを気にせず、その温もりを確かめる様に抱きしめた。
「な、なんか、その……照れちゃうな」
“サハラはな、アリエルが死んだ後レグルスに復讐するっていってそりゃあもう大変だったんだぞ”
「そうなんだ……フェンリルも久しぶりだね?」
フェンリルもアリエルと出会えて嬉しいのか飛び出してきて、尻尾をちぎれんばかりの勢いでブンブン振りながら余計なことを口走った。
ひとしきり抱きしめた後、俺は首から下げていたアリエルの髪を結んでいたリボンと、それに通していた真円の指環を外してアリエルに手渡す。
「ずっと持っててくれてたんだ」
「当たり前だろ」
慣れた手つきで髪の毛を縛ると懐かしい見慣れたアリエルの髪型になり、もう1度アリエルの指に指環をはめてキスをした。
「もう効果はないだろうけど……」
「えへへ、そんなのどうでもいいよ」
そんな俺とアリエルの姿を覗き見ていたラーネッドが「いいな」とこぼす。
「ラーネッド、安心しろ。 必ずレフィクルを連れてきてやるからな!」
「サハラ様!?……なんか雰囲気が私の知っているサハラ様と違いますね?」
ラーネッドの言っているのは未来の俺の事だろう。 遠い未来でどんな俺になるのかわからないが、今は今の俺が俺だ。
しかしと疑問に思った事をアリエルを抱き寄せたまま聞いてみる。
「でもなんでなんですか?」
「其方への我からの感謝の気持ちだ。 其方は異世界人の身でありながらこの世界に来て、わがまま一つ言わず我(世界)に尽くしてくれたからな」
そう言って創造神は【自然均衡の神スネイヴィルス】と【闇の神ラハス】と【死の神ルクリム】を嫌味のある目で見つめると、3神は頭を下げてしまっていた。
「ありがとうございます、創造神。 本当に、本当に感謝します!」
「だがもしあの時、真円の指環を外していなければそれも叶わなかった」
創造神はそう言ってニコリと笑みを見せた。
外すかどうかの選択を急かしたのはシャリーだ。 今回の事もあの人はまるでわかっていた様に思える。 本当に何者なのか気にはなったが、聞いても秘密なんだろうな。
どちらにせよ後でシャリーさんにも感謝しに行かないといけないな。
アリエルを抱き寄せながらそんな事を考える。 アリエルが見つめていて……そんなアリエルにそっと耳元に囁いた。
「もう2度と手離さないからな」
「……うん」
アリエルファンの方お待たせしました! アリエルの復活です。
この展開は書いている本人も予想外でした。 ヲイ!
これにより、『凡人の異世界転移物語』から赤帝竜が、『始原の魔術師』からエラウェラリエルが、そして『TS修道女の受難』『始原の魔術師』からのアリエルと全ヒロインが集結しました。
えらいこっちゃ……
しかし彼女達のおかげでなかなか描き進まなかったストーリーが、ものすごい勢いで描き進められ第11章が既に描き上がってしまいました(;^_^A
現在第12章の下書き中なので、安定した毎日更新ができそうです。




