勝利と敗北
第10章最終話
ライレーブが死んだことで王宮にすぐさま引き返した俺達が目にしたのは、傷まみれの兵士達と座り込んで、和気藹々としているヴォーグの姿だった。
だが俺達の姿を見るなり立ち上がってベネトナシュの元に体を引きづりながら近寄り抱きしめた。
「無事でよかった! 心配したぞ」
「ねぇヴォーグぅ、私とかは心配じゃなかったのかしら、ん?」
「ローラとグランド女王の事も一応心配したぞ?」
「私は!?」
「人外や神である婆様を心配する必要ないだろう?」
それを聞いたレイチェルが「神様だって死ぬんだからね」とキーキー怒り出していたが、俺にはヴォーグが満身創痍である事が見て取れた。 周りの兵士達を見てもどれだけの激戦があったか想像できる。
「【愛と美の女神レイチェル】さんも手伝ってくださいよ。 まだまだ大勢いて治療魔法が追いつかないんですから」
【旅と平和の神ルキャドナハ】が必死に治療をしながら泣き言を言うように叫んだ。
レイチェルはヴォーグに続きは後でと言って治療を手伝いにいった。
「激戦だったみたいだな」
「ああ、でもまだ外で戦っている者達がいる。 こんな所でノンビリはしていられないさ」
「そんな体でどうする。 後は俺達に任せてゆっくりしていろよ」
ジッと俺を見つめてきてからヴォーグが頼むと返事をした。
少し変わったなと思いながら動けそうな者を探してみたが、また先ほどのような事が起こることも想定して俺1人で向かうことにした。
「不死王は残ってここを守ってほしい」
「わかった、任されよう」
心配そうに見つめてくるエラウェラリエルの頭を撫でてから王宮を出て戦場に向かった。
辿り着いた先はグレーターデーモンの姿はなく、敗走する悪鬼達の姿だった。
声をはりあげるログェヘプレーベを見つけ、俺が近づくのに気がつくなりすがるようにしがみついて訴えてきた。
「サハラ! ちょうどいいところへ! 早く女達を止めやがってください! このままじゃ部下が皆殺しにされやがります!」
言われる先を見ると確かに暴走する1人の女の姿があり、リストブレードで斬り刻み、殴り、掴んで引き千切り、喉元に食いついて引き裂いたりと、身体のありとあらゆる箇所を使って無双殺戮しまくる姿があった。
「ログェヘプレーベ悪い。 今ルースミアに近づける勇気が俺には無い……」
「それならあっち! あっちなら止めやがれますよね!?」
そう言って指差す方向を見るとセーラムの姿が見え、大量の槍を紡いでは射出してあちこちで爆発しまくっている。 おそらく紡いだ槍に火球を乗せているのだろう。
「さっきからログェヘプレーベは俺を殺したいのか?」
もはやあれはレグルスの爆弾となんら変わりが無いように思える。
気がつけば俺の側に霊峰のゴールドドラゴンとオルの姿があり、ブリーズ=アルジャントリーも来ていた。
「なぁお前達、あれ……止めれるか?」
「サハラは私に死ねと言うんですか?」
「今のセーラムは僕って気がつかないで殺しかねないですよぉ」
「サハラ様が命令するのであれば従いんすが、その際は今生の別れになると思いんす」
俺と同じように止めれる自信はやはり無いようだ。
「というわけでログェヘプレーベ、諦めてくれ」
ンノーーーーーーーーっ! と頭を抱えて叫ぶ声が辺りに響いた……
悪魔でも部下を大事にするもんなんだな。
それから半時ほどすると、悪鬼の大半が死ぬか、命からがら逃げ切ったらしく、辺りを見回して俺を見つけると笑顔で走り寄る赤帝竜と、飛翔し手を振りながら近づくセーラムだったが、その2人が戦った辺りは酷い惨状となっていた。
「主!」
そう言って飛びついて顔を擦り付けてくる赤帝竜は可愛く、後手に手を組んで頭を撫でてもらおうとしているセーラムの頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細める姿も可愛らしかった。
「そこ! ちょっと何和んでやがるんですか!!」
「ぶー!」
「貴様邪魔立てする気か?」
哀れログェヘプレーベは2人の睨みで黙り込んでしまう。 黙り込むしかなかった。
俺が手を出さないよう言ってあるため、悪魔であるログェヘプレーベが無事でいられるようなもので、もしこれで戦いになろうものならログェヘプレーベは間違いなく2人……いや、赤帝竜に瞬殺されるどころか朝食にでもされかねないだろう。
「ログェヘプレーベ、こっちも聞きたい事があるし愚痴は後で聞いてやる。
とりあえず城で待つヴォーグ達を安心させてやろう」
こうして俺達は深夜の進撃も食い止める事に成功した。 だが、この戦いが後々の戦いに様々な影響を及ぼす事になってしまう。
7つ星の騎士団のシリウスは城に戻ってすぐに喰われた腕を再生で治療したのだが、グレーターデーモンに捕まれ、腕を引き千切られ食べられるところを目の当たりにした、あまりの恐怖で髪は真っ白になってしまい、精神的に不安定な状態になってしまう。 魔法がいかに便利であろうとも精神的に受けた傷までは癒す事ができず、シリウスは7つ星の騎士団の脱退を余儀なくされた。
そんなシリウスを見捨てられなかったパーラメントは、献身的に彼女の面倒を見るようになり最前線から離れると言ってきた。
また、臨時兵である冒険者達の大半は仲間の誰かと死に別れ、戦意を喪失して戦いの場から離れていく者達もかなり出てきたが、ヴォーグはそれを愚痴なども言わず「今日までありがとう。 仲間を失うような事になってしまい済まなかった」と1人1人に頭を下げていた。
「なぁサハラ、今回、戦いには勝ったが俺達の完敗だな」
そう呟くようにヴォーグが言った。 その目には薄っすらと涙が浮かび上がっていて、悔やんでいるようにも見えた。
「そうかもしれない。 だけど戦いはまだ終わってないぞ」
「わかってるさ」
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