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サイコパスの手口

 レグルスが俺の言葉でハッとなり、慌ててアリエルの手を離した。


「変な言い方はやめてください。別に怒ったりするつもりじゃなくて、ただ一旦サーラさんからアリエルを離れさせた方がいいかなって思っただけですよ」

「そ、そうでしたか……早とちりをしてしまってごめんなさい。レグルスさんは心優しい方なんですね」

「レグルス君、あたし、もう大丈夫だから」


 レグルスがアリエルを見つめ、その後俺をジッと見つめてくる。それがまるで見透かされているように思えて不安がよぎった。

 フッと口元を緩めレグルスは笑顔に戻る。


「それは良かったよ。

サーラさん、少し僕とお話に付き合ってもらえませんか?」



 ここで予想外の展開が起こった。まさかアリエルではなく、レグルスは俺を誘ってきたのだ。


 どうする? ここは乗っておくべきか、それとも断るべきか……とりあえずここでは言えない話なんですかとでも聞いてみるか。


「ここでーー」


 そこへドゥーぺが割って入ってきた。


「アリエルさんは放ったらかして、今度はサーラさんか?」

「嫌だなぁ、俺はただ侍女をやっていたサーラさんに色々と話を聞いてみたかっただけだよ」

「それならここでも出来るだろう? 君は何故しょっちゅう2人きりになろうとしたがるんだ?」


 ドゥーぺにそう言われた直後、レグルスの態度が豹変したかのように逆ギレを起こした。


「うるさい! なんでお前にそんなこと言われなきゃいけないんだよ! ああそうか、俺がサーラさんと2人きりになろうとしてんのが羨ましいんだろ! 堅物のお前じゃ誘ったりなんか出来ないもんな!」


 この豹変にはドゥーぺも驚き言葉を失ってしまう。


「オイオイ、それはちょっと言い過ぎじゃないかぁ?」


 そこにデノンが割って入り、その後ろにはビクターとアリオトがついてきている。

 そしてこの騒ぎで周りで観ている生徒達も頷き出した。



「な、なんだよ。俺がサーラさんと2人きりになろうとしたのがそんなに悪い事なのかよ。ただちょっと話がしたかっただけだっていうのに、それなのにアリエルの事まで持ち出されて言われ放題なんて……」


 レグルスがまた一変し、悔しさからなのか目には涙を浮かべ出す。


「い、いや……レグルス、私も少し言い過ぎた。謝るよ」

「もう……いいよ、同じクラスメイトにそんな風に見られていたなんて思いもしなかったよ」


 そう言うとレグルスは1人で食堂を出て行こうとする。


「レグルス待って!」


 アリエルがレグルスの後を追うと、アダーラやサルガス、ウェズン、シャウラも後に続いて追っていった。


 えーと……俺はどうしたらいいんでしょうか?


 レグルスが去った事で騒ぎも治まったが、離れていく生徒達の中にはボソッと、確かにちょっと言い過ぎだよなとか、あれはキツイねーなどの声も聞こえてきた。

 ドゥーぺは、そんな声を聞いてか俯いてしまっていた。


 俺はとりあえずドゥーぺに頭を下げて、レグルスの、アリエルの後を追った。


『アリエル何処にいる?』

『今まだ移動していて、向かっている先はたぶん、訓練場かしら』

『分かった。俺も今から向かう』


 廊下を歩いていき訓練場に出る。学院の地図が書かれた羊皮紙を取り出し、それを見ながら1人学院内を散策している様にしながら歩いていると、アダーラが俺に気がつき声をかけてきた。


「サーラさん? どうしたのこんな所に」

「あ、はい。休憩時間の間に少しでも何処に何があるか知っておこうと思って見て回ってます。

ここが訓練場ですか、凄く広いんですね」

「誰かに頼まなかったの?」

「先ほどのあの状況では少しお願いしにくかったもので……」


 苦笑いを浮かべる。視界にアリエル達が集まっている姿が見え、レグルスがジッとこちらの様子を見伺っているようで、目が会うと笑顔を見せてくる。



「待ってて、私が学院内を案内してあげる」


 そう言うとアダーラはレグルス達の方へ戻っていき何か話をしている。そうするとアダーラではなく、レグルスがこちらに向かってきた。


「サーラさん、俺が案内するよ。お話しもしたかったからちょうど良かった」

「皆さんはいいんですか?」

「うん、なんか気を使ってくれたみたい」


 あははと笑いながら言ってくるが、これはこれでまずい状況になったんじゃないだろうか。しかしこの状況、先ほどより断りにくくなってしまっている。仕方がなくレグルスにお礼を言って案内を頼む事にした。



「じゃあサーラさん俺についてきてね。

その地図はしまっちゃいなよ」

「はい、お願いします」


 レグルスが俺の手を掴んできて驚くと、ダメだった? と言わんばかりの顔を見せるので諦める事にした。

 訓練場を出て、あちこちを案内し始める。こうしているだけなら、本性を知らなければ凄くいい奴に見えるんだろう。



「ねぇ、サーラさんって何処で侍女をしていたの?」


 案内をしながらそう聞いてきた。なので最悪融通が利く場所である、マルボロ王国と伝えると、レグルスが凄く驚き、そして褒めてくる。


「凄い! 確か英雄王と呼ばれた人が作った国ですよね! そんな国で侍女として働いていたなんてとても凄い事だと思いますよ!」

「あ、いえ、侍女と言っても未だ見習いでしたから、大した事ではないですよ」

「そうなの? 侍女になるのって大変なんじゃないの?」

「侍女になるのは難しくはないです。ただ、なってから一人前になるまでが凄く厳しいところです」

「そうなんだね。でもどうしてここに?」

「侍女は警護も任されます。警護ができない様だと一人前にはなれないので、私の場合は魔法を選択しました」

「へぇ〜、なんか資格みたいだなぁ」

「しかく?」

「ああ、何でもないよ、こっちの話」


 そこで休憩時間の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。


「休憩時間終わってしまいましたね。案内してくれてありがとうございます」

「今日は学長が授業無しって言ったし、さっきの事もあって教室には戻りにくいから、サーラさんさえ良ければこのまま案内を続けるけど……」


 上目遣いで俺を見てくる。女なら効果があるのかもしれないが、俺には気持ち悪いだけだ。


「どうしましょう……親睦を深めるようにと授業を休みにしたんですよね。でも案内して貰えるのは嬉しいし……」

「じゃあ良いじゃないか。親睦ならいつでも深められるけど、案内出来る時間なんて今後取れるか分からないよ!?」

「そう、ですか?」

「そうだよ! 俺ももっと君の話聞きたいし」

「それが目当てですか?」

「バレたかー、なんてね」


 レグルスの正体を知らなければ、こいつは本当に良い奴だと思えてしまうのだろう。アリエルなんかはこういう接し方をされると弱いはずだ。サイコパスの末恐ろしさを俺は感じ取った瞬間だった。


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