奇襲
お待たせしました。
戦場の少し手前、最初に待ち構えていたあたりの場所に1人の男が裸で立っていた。 首だけになっていた不死王だ。
「ふむ、やっと再生したか」
落ちている自分のマントを纏い裸体を覆い、燃える様な真っ赤な瞳で視線の先を見つめると、巨大な悪鬼と交戦している姿が映った。
不死王も戦線に向かおうとした時、こちらに向かってくる人影があった。
何者だと近づくのを待つと、それが【旅と平和の神ルキャドナハ】だと気づく。
「ああ、不死王さん再生したんですね。 いやはやこんなに走ったのは生前以来ですよ」
息を切らせながら立ち止まり笑顔で答える。
「何かあった……ん、なるほど、別の場所から城に直接攻め入ったか」
「話が早くて助かります。 救援にと思ったんですが、どうにも私では間に合いそうにありませんので……お願いできますか?」
苦笑いを浮かべながらルキャドナハが言う。 普段神界にいる時であれば神界経由で向かいたい場所にすぐに行ける神々も、追放された今は移動魔法が使えなければ人種同様走らねばならなかった。
「我に任せろ。貴様は後からゆっくり来ればいい」
不死王はそう言うなり飛行の魔法を使い夜空を城に向けて飛び去っていった。
「魔法が便利で羨ましい限りです。 頼みましたよ不死王さん」
ルキャドナハはそう言いながらも城に向けて走り出した。
マルボロ王国の王宮では、サハラ達が戦場に出た後も昼の戦いで傷ついた兵士達の治療をして、少しでも兵力の回復に勤しんでいた。
「婆様少し休んだらどうだ?」
「ちょっとヴォーグ、その婆様ってやめてもらえないかしら? こう見えて愛と美の女神なのよ」
「世間ではそうでも、俺にとってはやはり婆様に変わりないさ」
「っもう! それよりベネトナシュちゃんはどうなの、ん?」
「毎晩下げ荒む様に見つめてくれるぜ?」
「そうじゃなくて……っ! ヴォーグ!」
その時兵士の1人が駆け込み報告してきた。 それは王宮中庭に突然 悪魔が数匹現れたと言うものだった。
「急いで兵を集めろ! 婆様はベネトナシュ達を連れて秘密の通路から脱出してくれ!」
「ヴォーグ、貴方はどうする気よ!」
「戦うに決まってんだろう! 兵士達だけに戦わせて国王が逃げたとあったら、親父と爺様に会わせる顔がねぇ! さっさと行ってくれ、それにあいつの腹には俺のガキがいるんだ!」
たかだか数匹であればすぐに鎮圧するだろう。 レイチェルは素早く行動に移し、ベネトナシュの他にキャスやグランド女王などの、要となる人物を連れて秘密の通路に向かう。 そこでエラウェラリエルに戦場にいるルキャドナハに数匹の悪魔急襲を伝え、援軍を頼んだ。
幸運にも【鍛冶の神】の2人とポット親子は武器と薬品の生産で、ソトシェア=ペアハに行っていた。
「さぁ皆んな急いで! ベネトナシュ、貴女は特にね、ん?」
「……はい、お、お、お……お祖母様……?」
「レ、イ、チェ、ル、よ、 レ、イ、チェ、ル」
「……はい、レイチェル……お祖母様」
……チーン。
まだこの時は誰もそこまで深刻な事態だとは思わず、グランド女王ですら悪魔の主力が乗り込んでくると思っていなかった。
ヴォーグは宝剣アルダを持って兵を率いて迎え撃つ。 中庭から既に城内に入り込んできているため、ベネトナシュ達を逃がすために謁見の間から離れたホールで待ち構えた。
「いいか、絶対にここから先は通すなよ!」
オオ! と声が上がり勢いづく。 それが現れるまでは……
最初に姿を見せたのは甲冑姿の男だ。 堂々と歩いてこちらに向かってくるその手に持つ剣は、血で真っ赤に染まっていた。
そしてその後をズシンズシンとついて歩く大柄な4体の異様な姿をした悪鬼が姿を見せると、兵士達の口からバケモノだと怯える声が上がりだした。
「怯むな! たかだか1人にバケモノ3匹だけだ! 数で圧倒してやれ!」
ヴォーグの鼓舞でオオ! と兵士達も勢いが戻ってくる。
先頭を歩く男はその様子を見てフンと鼻で笑う。
「お前が殺れ。 我らは先を急ぐぞ」
中でも一番巨体な4本の腕を持つ悪鬼が頷くとヴォーグ達の方へと向かいだした。
ガタイのせいか動きが鈍く兵士達もこれならと攻撃を一斉に仕掛けたが、兵士達の持つ武器ではほとんど傷を与えることはなく、1人また1人と着実に倒されていく。
唯一ヴォーグの持つ剣、宝剣アルダのみが普通通りに切り裂くことが出来るのがわかると、率先して立ち向かいだしたその時だった。
「……邪魔だ」
男が残る3体の悪鬼を引き連れて真正面から向かってくる。 そしてその男は懐から何かを取り出すとヴォーグ達に向けて取り出したものを投げつけてきた。
昼の戦場で見聞きしていたヴォーグはそれが爆発する物だと気づき、「離れろ!」と声を上げて回避しようとする。
直後、爆音とともに爆発し、ヴォーグは爆風で壁まで飛ばされ、その後全身のあちこちに何かが刺さってくる痛みが走った。
痛みを堪えながら立ち上がろうとするヴォーグを無視して、男と悪鬼3体は何もなかったかの様に悠々と通り過ぎていく。
かろうじて立ち上がったヴォーグが目にしたものは、爆発でバラバラに吹き飛んだ兵士達だった者と、全身に鉄欠片で切り刻まれて苦しむ兵士達だらけだった。 そんな中ヴォーグ同様立ち上がってくる兵士達もいたが、その数はもはや僅かしかいない。
その様子を残った悪鬼があざ笑うかの様に顔を歪め、残りを処理するかの様にゆっくりと襲いかかってきた。
ヴォーグは先に行った男と悪鬼を直ぐにでも追いたかったが、自分のことを優先して傷ついた兵士達を見捨てるわけにもいかず、先に目の前の悪鬼を倒す事にした。
「戦える者は戦え! 負傷者は無理をしないで離れていろ!」
そう言って見回してみると、戦えそうな兵士は僅かしかいなかった。
前話に引き続き、サハラ以外の場所の話になります。
爆薬や火薬については多少なり調べましたが、よくわからなかったのでこれに関してはいい加減な設定になっているのでご了承ください。




