それぞれの戦い
その頃悪鬼の軍団と戦っていた赤帝竜達は突然のサハラの撤退に困惑する。
「貴様サハラに何を言った! 事と次第によっては貴様の命はないと思え!」
サハラの近くにいた赤帝竜は話した内容までは聞こえなかったものの、一部始終を見ていたためログェヘプレーベに解いた出していた。
「私はただ部下がレフィクル様を裏切ったと言っただけでやがりますよ」
「それだけでサハラがあれ程顔色を変えてどこかに行くはずがないだろう! 答えろ! サハラはどこに向かった!」
ログェヘプレーベは目の前にいる燃える様な赤毛の女がまさか赤帝竜とは夢にも思っていない。
「おそらく王宮だと思いやがりますよ。 部下がこっちと分けた様でありやがりますからね」
赤帝竜は今のサハラが強くなっていることはわかっていたが、どこまで強いかまではわかっていない。
「なら、こっちをサッサと終わらせねばならん様だな」
言うなり赤帝竜が先程とは比べ物にならない速度で残る身近なグレーターデーモンに向かって無防備に飛びかかっていった。
「まったく、無茶をしやがる人……だ……」
ログェヘプレーベがそう言い終える前に赤帝竜が飛びかかったグレーターデーモンの首を力任せにブチリと引き千切り、既に次のグレーターデーモンに向かいだしている。 しかもそこに行くまでに通り抜けた場所にいた小柄な悪鬼達は、腕につけたリストブレードで全て切り刻まれた死体の道が出来上がる。
巨大なグレーターデーモンの拳の直撃をもろに受けたかと思えば、リストブレードを引っ込めた赤帝竜の拳がグレーターデーモンの拳を砕いて片腕を粉砕してしまった。
「あれは……人なのでありやがりますか……」
ログェヘプレーベは暴走する赤帝竜を見て、ただただ呆然とするしかなかった。
セーラムは焦っていた。 今までどの様な相手であっても己の紡いだマナによる槍で倒せなかった魔物などいなかった。 けれど今相手をしている、ゆうに5メートルはある青白く筋肉質でコウモリを思わせる羽を持ち、羊のようなツノを持つグレーターデーモンには一切通用しない。
グレーターデーモンのブン殴りは回避したり盾で受け止め、擬似魔法は反発する魔法で相殺して防いではいるが、同時にセーラムの攻撃も無力化されていた。
セーラムの無尽蔵なマナの内包量が無ければ今頃あの筋肉質な太い腕で殴り殺されているか、擬似魔法で凍らされていただろう。
幾ら槍を紡いで魔力をのせてもグレーターデーモンの体に到達する直前で消滅してしまっている。
セーラムにも薄々魔法障壁に気がついていた。 そしてそれを突破するには不死王に教わった原初の魔法しかない事も。 だが先程不死王の原初の魔法の反動を見て決心がつかないでいた。
……もうあれしかこいつを倒す方法はないよね。 パパ、私に力を貸して!
セーラムは覚悟を決めて紡いだ盾を手放し、不死王に教わった原初の魔法の複雑な身振りや印を組んでいき、ランスの様な槍を紡いでそこに乗せる。 発動はこの槍がグレーターデーモンに刺さる瞬間で、もし原初の魔法に失敗していれば倒れるのはグレーターデーモンではなくセーラム自身だ。
「我にもたらすのは絶対なる勝利!
投げる槍は稲妻を帯び、一度我が手を離れれば必中し敵を貫ぬかん!
ぃいっけぇぇぇぇえっ!
リルガラドエステル グロールオルン (輝く光の希望 金色の樹)!!」
セーラムが槍をグレーターデーモン目掛けて投げつける。
セーラムの手を離れた槍は稲妻を帯びてグレーターデーモン目掛けて光の矢の如く真っ直ぐに突き進んでいった。
槍がグレーターデーモンの体に到達する直前でパリーンと何かを割る様な大きな音をさせて身体を貫き、すさましい放電をして辺りを明るく光り輝かせ、光が消えるとグレーターデーモンは消し炭になっていた。
「やった……やったよ! 倒せたよパパ、私、原初の魔法が使えたよ!」
消し炭になったグレーターデーモンだったものを見つめてセーラムは勝利に酔いしれ、次の新たな敵に向けて飛翔した。
「シリウス卿! この化け物に聖剣が効果がない! このままじゃ殺られる!」
そしてここに別のグレーターデーモンと対峙する7つ星の騎士団達がいた。
頼みの騎士魔法による攻撃も魔法障壁により効果がなくなり、剣が届いても肉にまですら到達することはなかった。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
シリウスが助走をつけてバネの様に走り突き進んだが、手にした剣は刃先が僅かにめり込むだけだった。 そしてその捨て身の様なシリウスの攻撃は大きな隙を生んでしまい、グレーターデーモンの手に捉えられてしまう。
握り締められ全身の骨が砕けそうな激痛にシリウスが苦痛の声をあげた。
ヴァハハハハハハハハハ
何も訴えない伽藍堂の目を細め、グレーターデーモンの口からそんな声が漏れた。
「クソッ、あいつ楽しんでやがる! 何としてもシリウス卿を助けろ!」
7つ星の騎士達が一斉にシリウスを掴んでいる手に集中して攻撃を加えるが、やはり剣が食い込む事はない。 それもそのはずで、7つ星の騎士団の扱う剣は基本的にごく普通の市販の剣で、騎士魔法で補う事で戦っている。 それが魔法障壁の前には仇となり、魔力を持たない武器ではグレーターデーモンを傷つける事すら出来なかった。
「このままではシリウス卿が……」
7つ星の騎士達から絶望感を感じとったのか、グレーターデーモンはシリウスの片腕を掴むと引き千切り、それを7つ星の騎士達の目の前で食べだした。
引き千切られた痛みと、その自分の腕を食べている姿を見たシリウスが、目を見開いて口から悲鳴が上がる。
それ以上はさせまいとアラスカやキースが我が身をかなぐり捨ててシリウスを助けようと、剣をテコにして手から解放しようと必死になるがビクともしない。
「皆さん離れてください!」
声が聞こえるが早いか細い炎の様なものがシリウスを掴むグレーターデーモンの手に伸びていき、その腕がいとも簡単に切断され、同時に人影が走り抜けてグレーターデーモンの手から片腕をもがれたシリウスを助け出して抱き抱える。
「我が一族の力、見せてやる!」
パーラメントが怒りを露わにして鞭を一振りすると……一振りだったはずの鞭が9本に分かれてグレーターデーモンに叩きつけられた。
バラバラバラ……という表現が適しているだろうか。 グレーターデーモンが縦に10切れになって崩れ落ちた。
明日明後日はお休みさせていただきます。
楽しみにしてくれている方達には申し訳ありません。
次回更新は来週月曜日の夜までに投稿します。
今回はちょっとサハラ視点から、それぞれの戦いに場を移してみました。
多少は力量差が描けたかなとは思います。




