悪魔の行進
ログェヘプレーベは最初に言ったのは信用の方で、呪いだろうがなんであろうがかけてもらっても構わないと言ってきた。
そして、メリットはレグルスの陣営について話すということだった。
これは俺にとっても絶好のチャンスで、これ以上の気違いじみた戦争を止める機会でもあり、信じるか非常に迷うところとなる。
「ならばお前の言う様に呪いの魔法をかけさせてもらうぞ?」
「ええ、もちろん抵抗はしやがりませんのでどうぞ……と言いたいところですが、一つだけ条件をいただきやがりたい」
「条件? 一応言ってみろ」
そう言うとログェヘプレーベは俺に顔を向けてきたが、その顔は非常に憎悪に満ちたものだった。
「私が恥をしのぎやがってまでこうする理由は、単にレフィクル様の奥方の仇を討つ為でやがります」
「アロンミットの事か?」
驚いた表情を浮かべながらログェヘプレーベが知っていたのかと聞いてきた。
名前を伏せて薬師達から聞いた事とノーマから聞いた事を言うと頷いてきた。
「アロンミットを倒すのは私だという条件さえ聞いてもらえれば、後で全てを話しやがりましょう。 今は……」
そう言って立ち上がると、激戦を繰り広げている方へ目を向ける。
「あちらが優先でやがりましょう」
そう言うとログェヘプレーベは何処からか禍々しいルーンが刻まれた短剣を手にしている。 かなりの至近距離だったにも関わらず、その短剣で攻撃をしてこなかったところから少し信用してもいいのだろうかと思う。
どうするとばかりに周りに目を向けた後、アルの所で止める。 アルは悩んでいる様ではいたが、現状が優先と判断した様で手にした弓を悪魔や悪鬼に向けた。
「今はログェヘプレーベに時間を掛けてありんす場合ではありんせん。 嘘でなければこなたの後でじっくりと聴かせてもらいんしょう」
この言葉で話しは決まり、俺達も戦いに向かう事に決める。
「ウェラは戻っていてくれ」
「わかりました、サハラさんご武運を」
そう言うが早いか詠唱するとエラウェラリエルの姿が消えた。
「主よ、急いだ方がいいぞ。 少しばかり劣勢の様だ」
「わかった。 ログェヘプレーベ、もし嘘偽りでないのならこの後で俺達のところに来い!」
一気に暗闇の中見える範囲を縮地法で飛ぶ様に移動しながら修道士特有の呼吸法や感知と予測を使い、悪魔や悪鬼と交戦している場所まで辿り着くなり贖罪の杖で殴り倒していく。
一番数の多い小柄な悪鬼は正直オーク程度の強さでしかなく、杖の一撃で次々と頭が潰れていく。 だがーー
“余裕見せてるとやられるぞ!”
フェンリルが氷の壁を作り出して小柄な悪鬼の擬似魔法を防いでくれていた。
「フェンリル助かった!」
“あおういえ!”
わけのわからない返事が返ってきて、フェンリルも凍てつくブレスを吐いたり、噛みついて倒していく。
“はいはーい! ちゅうもーく! 俺っちだっていいとこ見せちゃうよぉ! よぉよぉよぉ!”
キモいおっさん姿のイフリートが、火の塊の様に全身を燃え上がらせ、薙ぎ払う様にガタイの大きな1匹の悪鬼を炎で薙ぎ払う。 炎に包まれた悪鬼は断末魔を上げながら見る見るうちに消し炭になってしまった。
“ウホッ、燃えたろ?”
少しばかり決め台詞が違うが、色々な意味で怪しいセリフを吐く。
イフリートに関しては本当に気にしない様にした方が良さそうだ。 だが、初めて見るまともなイフリートの攻撃の火力の凄さに、コイツはやはり炎の最上位精霊なのだと改めて思えた。
そして俺とそう離れていないところでは、喜びに満ち溢れ歓喜の表情を浮かべながら、両手にはめたリストブレードで次々と薙ぎ払い、噛みちぎり、手で引きちぎって戦うルースミアさんの雄姿があった。
「わはははは! 我に殺される事に光栄に思うがいいぞ! 」
……うん、コイツの事も触れないでおこう。
少し後方では紡いだ目立つ黄金鎧姿のセーラムが、紡いだ黄金の翼を広げて宙に浮きながら、次々と槍を紡いでは魔力を込めて投げつけている様で、槍を受けた悪鬼達の体に電気が走り抜けた様にブルルと身を震わせながら黒焦げになっていっている。
正直なところ無双しまくっている様に見える俺達だが、完全に包囲されまくり、自分の周りの悪鬼を倒すので精一杯で、逃げ道を失った冒険者が悪鬼に捕まってそのまま捕食される姿や、何処かに攫われていく者を救うだけの余裕まではなかった。
レドナクセラ帝国の騎士の亡霊も善戦している様ではあるが、悪魔や悪鬼の攻撃にはゴーストタッチ能力もある様で、殺られている姿もちらほら見える。
「クソッ! 対して強くない癖に数が多すぎだ!」
「当然でやがります。 一応私の元軍団なのでやがりますからね」
俺が愚痴をこぼすと、それに応える様にいつの間にかログェヘプレーベがすぐ側で戦っていた。
「お仲間じゃないのか?」
「今ではスッカリ敵視されている様でやがりますよ?」
そう言いながらログェヘプレーベは攻撃を仕掛けてきた悪鬼を、ルーン文字がビッシリと刻まれた短剣で切り裂いてみせると、傷は浅そうだというのにも関わらず一撃で倒していく。
「随分強力な武器を持ってるんだな?」
戦いながらもその武器のすさましさが気になりログェヘプレーベに聞いてみる。
「そりゃあこれは退魔の剣でやがりますからねぇ」
「悪魔が退魔の剣を持つとは、どういった皮肉だ?」
「私達を悪魔に仕立てやがったのはどちら様でやがりますかねぇ?」
確かに言われてみれば勝手に悪魔に仕立てたのは、悪ノリした俺に責任があるのかもしれなかった。
ここにきて俺と創造神とでレフィクルの事を悪魔王呼ばわりする様にした事を軽率だったと失念する。
「後で詳しく聞かせろ」
「生き延びれたら……でやがりますけどね。 そろそろ本隊が来やがりますよ?」
ログェヘプレーベが言う様に、前方から今までよりも大型でまさしくよく知る悪鬼らしい、青白い体躯に筋肉が盛り上がり、何も訴えない様な黒い空洞の様な瞳と頭には山羊を思わせるツノが生え、コウモリのような翼を持つ姿が何匹も現れだした。




