残された戦力
敵が近づく報告が入り一気に緊張が高まる。
その時アルが俺のローブを引っ張り出して何かを見せてくる。 それは懐中時計の様なもので、中を開くと魔法陣のようなものが描かれていて薄く青白く光っている。
「悪魔が来んす。 次の敵は悪魔と悪鬼みたいでありんす」
悪魔と悪鬼が接近すると距離に応じて色の濃さが変わるらしい。
その距離は未来で扱っていたアルにはおおよそはわかるという。
「ほぉ、やっとそいつらを血祭りにあげられるのか?」
ルースミアが俺から聞いていた悪魔と悪鬼と相見えることに喜んでいるようだ。
「私も悪魔や悪鬼なら神の制限なく魔法が使えますね」
「今回は私も戦いましょう。 本来、人を守る立場なのに迷惑しかかけていませんからね」
エラウェラリエルとルキャドナハも神の制限を受けない相手のため勢いづく。
ルキャドナハが戦いに加わるのは少し驚いたが、どちらにしても神2人が加わってくれるのは心強い。
あまり時間はないみたいだが、少しでも敵の攻撃手段などを教えておいた方がいいだろうと、俺が今まで戦ってきた限りの悪魔と悪鬼の説明しておくことにした。
「悪魔も悪鬼も基本的には似た様なものだが……」
基本的に奴らは魔法に対して強い抵抗力を持っているため、ウィザードにとっては脅威となる。 だがだからといって全く効果がないわけではなく、一部の魔法系統にのみ強いというものだとアリエルが言っていた。
また、元の世界同様に聖水をかけることでかなりの苦痛も与えるため、撒き散らすだけでも効果がある。
「それ以外には特殊な攻撃をしてくる。 それは様々すぎて一概には言えないが、パーラメントが持っている鞭も奴らが使っていたものだ」
武器であるため興味を示したスミスとトニーが早速見せてもらっていたが、以前一度俺が見せていたものだと気がついて興味がなくなったようだ。
そして付け加える様にアルが足りなかった部分を説明していく。
それは俺も知らなかったことも含まれていて、悪魔も悪鬼も擬似魔法を使える奴も中にはいて、そして闇夜の戦いでも彼らには昼間同様に見えている。 しかも騎士魔法の感知の様に隠れても気がつかれてしまうというものだった。
そして大半の悪魔は人種の身体を乗っ取っているが、救う事は出来ない事も付け加えていた。
「つまり、元から夜目が効くか、赤外線視線か感知がないと、明かりがないこの夜の戦いでは不利というわけか」
ヴォーグがそんな事をつぶやいて考え込みだしていた。
昼の一戦が相当堪えているのだろう。
確認した限りの損失はマルボロの兵力は3分の1は爆発する矢で死亡し、生き残った兵力も半数近くが今も必死に神官たちによる治療魔法によって治癒されている最中だ。
頼みの臨時兵である冒険者達は、勘が鋭い者が仲間にいた為か、かなりの数が生き延びていた。
また7つ星の騎士団は怪我はしたが、死亡者なしとさすがだ。
ヴェジタリアン率いる世界樹のエルフの兵は弓兵だった為被害は全くなかったそうだ。
そして動く城壁と言わしめたロメオ・イ・フリエタのドワーフ達は最前線で身構えていた為、爆発の直撃を受けかなりの重傷者が出たようだが、頑強な盾と防具、そしてドワーフならではの頑強さで死んだ者は殆どいなかったと言うのは正直に驚いた。
ローラ姫……率いたのはモリス侯爵だが、ウィンストン兵達も前線に立っていた者は大半が死んでしまったらしく、ローラが責任を感じて今もドルイド魔法による治療魔法で1人でも救おうと奮闘していてこの場にはいない。
最後にキャスが率いていたキャビン魔導兵達は、空中にいた事と魔法の神の代行者の指示に従っていた事もあって全員無傷だった。
だがウィザードゆえの欠点でもある、魔法の再記憶のため、今は全員休む必要がある。
話し合った結果、悪魔と悪鬼の相手をするのは俺たち特攻隊である、俺、ルースミア、不死王、セーラム、フェンリル、イフリートとエラウェラリエル。
そして旅と平和の神であるルキャドナハ、霊峰のゴールドドラゴンとオル。
シリウス、キース、アラスカ達の7つ星の騎士団、あとはパーラメントとブリーズ=アルジャントリーと世界樹のエルフの兵、そして冒険者達しかなく、この僅か1万に満たない数で撃退するしかなかった。
この事を集まってもらった冒険者達にこれから戦う相手の説明をしたが、たったこれだけの兵力に冒険者達からは当然不満の声が上がる。 ヴォーグやグランド女王も上手い言葉が見つからず、ただ理解してほしいと言うばかりで納得する者は殆どいない状況だった。
「困りましたわ……軍隊と言っても臨時のしかも冒険者達では強く命令もできないですわね」
「動ける兵だけで対応するしかないのか……」
諦めかけたように言う2人を見兼ねた俺は、2人に任せろと一声かけてから冒険者達に叫ぶように言った。
「いいか冒険者諸君! これから戦う悪魔や悪鬼の中には、珍しい魔法の品を持つ者もいる!」
その一言で冒険者達が静まり返り俺に集中してきた。
まず持ってきておいた盾を取り出して見せ、これが貴重なミスリル製の盾である事を教える。
そして鞄から一振りの剣を取り出し、片手で軽く振り下ろして紙でも切るようにミスリル製の盾を真っ二つに切り裂いて見せると、おおお! と声が上がり冒険者達がざわつき始めた。
あらかじめ頼んでおいた通り、すぐに不死王が俺から剣を取り上げた。
「この剣は鍛冶の神によって破壊の剣と名づけられた物だが、悪鬼が所有していたものだ。
残念ながら非常に強力な武器だが、コイツには狂気に陥らせる呪いのようなものがあって扱う事はできないのだが、武闘大会優勝者のパーラメントが持つあの鞭は、呪いもなく優れた武器として使う事ができる」
パーラメントが鞭を一振りしてみせると炎が舞い上がり、先ほど真っ二つに切り裂いたミスリル製の盾に叩きつけると、あのミスリルがジュワッと少し焼け溶けた。
それを見た冒険者達が物欲しげな顔を見せはじめる。
「どうだ? これから戦う相手を倒せばこの様な物が手に入る、かもしれない。 冒険者だったら喉から手が出るほど欲しいとは思わないか?」
冒険者達は仲間同士でヒソヒソ話し始め、しばらくするとあちこちから戦う意思を表示してきて、最終的には臨時兵の冒険者全員がやる気を起こしてくれた様だった。
「サハラ様、さすがですわね」
グランド女王が冒険者の欲に呆れながら言ってきたがそれは違う。 冒険者は全員が全員と言わないが、困難を乗り越え、より強い武器や力を得て、皆一攫千金を夢見てなるものだ。
こうしてなんとか無事に想定通りの兵力となって、戦いに挑める状態に持ち込む事ができたのだった。
都合により明日の更新はお休みさせていただきます。




