爆音
「なんだよあいつら……敵なのか?」
そんな声があちこちから上がる。
それもそのはず俺自身信じられない敵の姿だ。 ヨタヨタと歩みが遅く鎧もつけずに、手に槍だけを持って近づく軍団はどう見ても全員兵士でもないごく普通の老人ばかりだ。
「マズいな……一気に士気が低下している」
明らかに兵士達が戦うべきなのか攻撃するべきなのかと迷い、隣同士のもの達とボソボソ相談しあっている。
「ヴォーグ! 早くなんとかしろ!」
「なんとかったってよ……相手はじじばばだぞ……」
思い返せばヴォーグにとってこれが人生初の戦争だ。普通に兵士同士であれば普段の訓練などで問題なく戦えただろうが、このあまりにもありえない敵は想定すらしていなかっただろう。
「我がやるか?」
ルースミアが俺に言ってくる。 だがそれだとやはり赤帝竜だと人種の記憶に残ってしまう。
そんなことを考えているうちにも槍を手にした老人達は遅いながらも着実に近づいてきている。
……どうする、どうする、どうする!
「悪いなサハラ、うちの孫が迷惑かけちまってよ」
不意に肩に手を置かれ、そう声がかかり振り返るとそこには懐かしいマルスの姿があった。
「マルス、なのか?」
「俺のこと、もう忘れちまったのか? とりあえずのんびり話をしてる余裕もないな。
俺に任せておけ」
マルスが最前線に立つと、腰に下げたヴェジタリアンに友情の証で貰った国や世界を意味する剣、アルダをスラリと抜く。
「いいかお前ら! これは戦争だ! 例え相手が女子供であろうが敵は敵だ!
別に国のためになんざ戦わなくていいから、失いたくない守りたいものの為にだけ戦うんだ!」
突如現れて叫ぶ男が当然皆誰かわからず首を傾げている。 だが……知っているもの達もいた。 ヴェジタリアン率いるエルフ達やその他の長命種の冒険者達だ。 彼らが口々に英雄王マルスが降臨したと声を挙げだす。
それが次第に波紋のように広がっていき、英雄王マルスと声高々に上がり始めた。
「あれが……俺の爺様なのか?」
「そうだ、後世まで英雄王として語り継がれるお前の爺さんだよ」
ヴォーグがそれを聞いて悔しかったのか俺だって俺だってやってやるぜ! と、どうやらマルスの血が騒ぎ出したようだ。
「キャビン魔導兵これ以上近づかせるな!
殺さずに戦意を奪える魔法で攻撃しろ!」
ヴォーグの掛け声で一斉にキャビン魔導兵達が魔法を使い出し、動きを封じたり意識だけを奪える魔法を放ったようで、バタバタと倒れていくが死んではいないようだった。
敵の第一陣が全て倒れると兵士達から声が上がる。
だがすぐその後から後続の敵兵が姿を見せ、今度こそとばかりに手に持つ武器を握りしめて意気込み出したようだ。
そして気がつけばマルスの姿は既にいなくなっていた。
「俺を助けてくれるのは嬉しいけど……いなくならないでくれよ……」
思わず口から零れるように出てしまう。
「仕方なかろう、あれは貴様への想いだけなのだからな」
「わかっちゃいるんだけど、こればっかりは寂しいもんだ」
セッターの時もカイの時もそうだ。 俺を助けてくれるのは嬉しい、だがそのほんの僅かな間だけだ。
「敵兵! おおよそこちらと同数と推測!」
上空から見張る魔導兵の1人が報告に来た。
「数を同数にして、残った兵力はどう動くのかですわね」
グランド女王は先ほどからずっと必死に考えているようだった。
「何てことはねぇ! 近づかれる前に魔法と弓で撃退すればいいだけだろ?」
「おそらくそれを狙っているんだと思いますわ。 魔法も矢も数に限りがありますから」
ヴォーグがチッと舌打ちをしてならどうしたらいいんだと迫ってくる兵を睨みながら口ずさんだ。
ある一定の距離まで敵兵が近づくと、それ以上は近づこうとはしなくなり、なにやら忙しなくなってきている。
「敵さん一体何をしているんだ? わかるかサハラ」
「いや……ちょっとわからな……マズい! ヴォーグ! 早く兵を引け! 急げ急ぐんだ!」
言っている意味が全くわからないヴォーグの反応が遅れる。 そして上空を見るとキャスが同じように魔導兵に指示を出しているところから間違いじゃなさそうだ。
敵兵から矢が放たれ、一斉に矢が飛んできた。 通常であれば矢が放たれれば盾で防ぐなりするものだ。 その習慣というか当たり前の行動が裏目にでる。
「矢から身を守れー!」
何も知らないヴォーグが俺の命令を聞かずに撤退ではなく防ぐように指示を出してしまう。
「馬鹿野郎! 逃げろって言っただろうが!!」
しかし既に時遅く、射程の短い矢が次々と飛んできたかと思うと……
轟音と共に爆発しだしーー
大量の煙が出て辺りが見えなくなった。




