鼓舞する歌
開戦とはいえいきなり俺達が突っ込むわけではない。 まだ敵であるレグルスの居場所は不明だからだ。 その為最初はヴォーグの考えに従い通常通りの迎撃戦となる。
最前線となる王都から少し離れた場所に向かうと、マルボロ兵とウィンストン兵、ドワーフ達動く城塞が隊列を作って迎撃の体制を整えていた。
臨時の冒険者兵は隊列も組まずばらけて各々の仲間と打ち合わせている。
「よう来たか、遅かったな」
俺の姿を見つけてヴォーグが声を掛けてくる。 驚いた事に最前線で指揮を取るのは王であるヴォーグ自身のようだった。
「相手がどんな攻撃をしてくるかもわからないのに普通一国の王が最前線に立つか?」
「なに言ってんだ。 兵士は捨て駒じゃない、国王だからと言って背後でコソコソと自分の身の安全なんかしてられるかってんだ!」
言っている事は格好がいい。 通常の戦争であればそれでもいいかもしれないが、相手はあのレグルスで一体どんな手を使ってくるかもわからない。 一抹の不安を覚えながら待ち構える事になった。
「サハラ様、敵兵の姿が視認できるまで歌を歌っていいでありんすか?」
吟遊詩人の力を使うのかと思い、頷いてアルに任せる事にした。
敵を待ち構える兵士達をすり抜けていき、兵士達に見やすいぐらいの位置まで前に向かって俺達の方、兵士達の方をむくとペコリと頭を下げてくる。
アルの折りたたまれた弓は弦を張ることで楽器になる。 それをポロロンと鳴らすと兵士達一同静まり返って注目しはじめた。
歌姫ブリーズ=アルジャントリーの歌う歌は以前に一度聞いたことがあるが、その声は澄んでいて非常に通る。
数万はいる兵士や臨時招集された冒険者達にもその歌声は届き、もっとよく聴こうと息をひそめるように辺りは静まり返っていった。
歌の内容はと言えば……俺がアルを庇って死んで、それを嘆いて時を遡ったというアルの気持ちを歌ったものだ。
歌い終わりペコリと頭を下げると拍手が贈られている。
「サハラさん未来でアルジャントリーさんに随分と愛されてますね」
不意にエラウェラリエルが俺の腕を掴みながらムスッと嫉妬心を隠さず言ってくる。
「あれは俺の知らない俺のことだ。 前に話を聞いた限りじゃ今の俺とはかけ離れてたよ」
「その未来の主とやらは、どういう人物か興味があるもんだな」
サンドイッチされるように反対側にルースミアが立つ。 ルースミアは告白した後も、特に甘えてきたり抱きついてきたりという行為をしてこないため、今まで通りといったふうにしか感じられないが、まぁその方が一緒にいて苦にならなくていい。
“俺っちも一曲歌って踊ってくるかぁ?”
“せっかくの歌が台無しになるからやめておけ”
そして仲が良くなったんだか悪いままなのかわからないが、契約している以上俺から離れられないオッさんと狼がゴタゴタやっている。
そして不死王なのだが、やはり感情があまりないのか無表情のままだ。 だが、じっと静かに聴いているようだった。
……このメンバーの中で不死王がある意味で1番まともに思えるんだよな。
そうしているとアルが2曲めの前奏を始めだした。
「むっ!」
「ぬっ!」
即座に不死王とルースミアが反応を示したが、その理由は次の曲が吟遊詩人としての効果があるものだったからのようだ。
その歌はこれから戦地において戦う戦士達に贈るもので、帰りを待つ家族や恋人、友人知人そしてその大切な人たちを守るために戦うんだという内容で、平和のため、輝ける世界のため未来に繋げるためといった、歌で鼓舞するものだった。
歌い終わるとアルはササっと俺たちの方へ挨拶もなく戻ってくる。
先ほどのような拍手も起こらず、不思議に思っているとあちこちから「そうだ俺はやるぞ!」「家族のためにも勝って生きて帰るんだ」そういった意気込みの声が聞こえ出してくる。
「未来で死地に向かう戦士達に捧げる歌でありんすぇ。 苦しい時辛い時、なんのためにわっちらが今ここで死ぬかもしりんせん戦いをしんせん事にはいけありんせんのかをこれで思い起こしてくれると思いんす」
ニッコリとしながら俺に言ってきた。
良くやったと俺はアルの頭を撫でてやると嬉しそうな笑顔を見せてきた。
……しかしこれって死亡フラグって奴じゃないのか?
「余計なお世話かも知んせんがサハラ様にこれを初めて聞いてもらいんした時は、死亡フラグだって言われんしたけどね」
思ってる矢先にアルに言われてしまうと、嫌でも未来の俺は同一人物なんだなと改めて思ってしまう。
「敵だー! 敵が来たぞー!」
そんな声が聞こえた。
「敵の第一陣! ……な、なんだよありゃ!?」
最前列にいる兵士達から動揺の声が上がりだす。 そして俺たちの目にも敵の姿が見え出した時、ありえない相手が近づいている事に戦慄を覚えるのだった。
ここでつまづいてしまいました。
愚かにもブリーズ=アルジャントリーの最初の自身の気持ちを歌った歌と鼓舞する歌を作詞しようとしてしまいました……
雰囲気出るかなぁとか思った自分が馬鹿でした(^_^;)




