憧れの人
第9章最終話です。
そんなわけで2人目の恋人……いや、アリエルを入れれば3人目の恋人ができてしまう。
違う、アリエルは俺の嫁だった。 とそんな事はどうでもいいとして、これで人間、エルフ、そしてドラゴンと多種多様な恋人が出来てしまった。
……そのうち獣人とかまさかドワーフとか言わないよな。 獣人はまだいいとしても、髭子ちゃんを好きになる事はまずあり得ない!
そして赤帝竜はというと、エラウェラリエルに俺が復讐者になりかけていることまで話してしまう。
そうなれば必然と2人からの説教が始まってしまい、最終的には俺が復讐者に囚われるようなら死ぬとエラウェラリエルは言い、赤帝竜は俺を殺して自分も死ぬと宣言され、後は俺の好きにしろとでも言わんばかりに部屋を放り出されてしまう。
……なんで?
何はともあれ2人の意思を聞いた俺は、考えを改めなければいけなくなった。
「はぁ……」
もう何度目になるかわからないため息を吐く。
“恋煩いか? ジョークジョークそう怒るなって、あら怒ってらっしゃらない?
ため息つきすぎると鬱になっちまうぞサハラ”
そしてイフリートが現れてたぶん心配してだろうとは思うが、相変わらずウザい言い回しをしてきた。
「お前を見ると余計にため息が出る」
特効薬が出来たと報告があった後、イフリートの願いで契約を結んでしまっていたのだ。
“俺がいるのにこんな奴と契約するからだぞ”
そしてフェンリルも姿を現して文句を言ってきた。 つまり今俺は両隣りにサンドイッチされるようにキモいおっさんと狼がいる状態だ。
「……はぁ」
「あ、フェンリル……と、サハラさん」
「俺はオマケかベネトナシュ」
“名前を言われただけマシマシ。 俺っちなんか名前も呼ばれない”
……そもそもお前に名前ないだろう。
そこに王宮を1人でうろついていたベネトナシュが俺……ではなく、フェンリルに近づき横に座ってフェンリルを撫で始めた。
「サハラさん、だけ……」
「ん?」
「……変わらず接してくれるの」
「なら婚約解消でもすればいいだろ?」
「……サハラさん、意地悪……
ヴォーグ様の事は好き、だけど……私がわからなくなってくる……」
ベネトナシュはヴォーグの事は好きだが、結婚すれば王族となると自分自身じゃなくなりそうで不安でいっぱいな様だった。 既に王宮の中でも接し方が変わっていく周りの人達、そしてレイチェルには孫娘の様に可愛がられ、そういった事が今までと変わって行き過ぎてついていけてない様だ。
「……サハラさんは?」
「何が?」
「ため息……やっぱりレグルス、の事?」
「そうみたいで、そうじゃないみたいだな」
「……教えて?」
なんでかわからないが、気がついたら元同じクラスメイトだったからなのかはわからないがベネトナシュに愚痴をこぼす様に、復讐者の事やエラウェラリエルと赤帝竜が言った事を話していた。
「……言ってる事が凄すぎて……よくわからない。
けど……今のサハラさんを見たら、アリエルさん、きっと喜ばないと思う……」
俺が黙り込んでしまったため気まずくなったのか、立ち上がって頭を下げてくる。
「ごめんなさい、偉そうな事……言っちゃって」
そういうと小走りに去っていった。
俺はただベネトナシュが言った、アリエルが喜ばないと言われた事に思わず黙り込んでいただけだったのだが……
……サハラさんはあたしの憧れの存在だよ。
ふと脳裏にそんなアリエルの言葉が思い浮かんだ。 他にもアリエルが俺に言った言葉や色々な思い出が次々と湧いて出てくる。
そうだ、俺はアリエルが憧れていた俺でレグルスを倒さなくちゃいけない。
思えばいつからだろう……仇うちがいつしか復讐に変わり、仲間を駒のように見ていた。 きっとその頃から俺は復讐者に囚われだしていたんだろう。
アリエルがいつも髪をリボンの様に結ぶのに使っていた紐に真円の指環を通して首から下げる。
……一緒に戦うのは復讐者とじゃない、アリエルとだ。一緒に仇を取ろう、なぁアリエル。
ベネトナシュにお礼を言おうと王宮を歩いて探しているとエラウェラリエルと赤帝竜が俺に気がつき声をかけてきた。
「サハラさんその首につけてるのは……」
「なんだ指環か?」
この指環の事を知っているエラウェラリエルは、俺の顔をジッと見つめてきてなぜか微笑んできた。
「ウェラ、ルースミア、俺はアリエルと一緒に仇を取ることにした」
その言葉を聞いてルースミアがほぉと声を上げる。
「主、復讐者を振り払ったか。 わかった、我もどこまででも主に付きあおう」
「私もです。 4人で一緒に立ち向かいましょう」
1つの踏ん切りというか、迷いの様なものが取り払えた気がする。 レグルスを断罪して贖罪する事に今も変わりはないが、今はアリエルのために、そして何よりもこの世界を守るために倒さなくてはいけない。
4人と言った意味のわからないルースミアは、エラウェラリエルに聞いて納得したようだった。
ちなみにその日の夜、ベネトナシュにお礼を言いに部屋の前まで行ったのだが……
中から聞こえてくる世にもおぞましい宴の声にサッサと撤退したのは言うまでもない。
第9章最終話でした。
次回更新は早ければ明後日の日曜日に、遅くても6日の月曜日にはします。
それまでにまた書き溜めておきます。
楽しみにしてくれている方達にはご迷惑をおかけします。
一応問題は解決したので、現在書き進めています。 愚かにもブリーズ=アルジャントリーの歌う詩を真面目に考えてしまいまして、止まってしまいました……
次話から第10章に入ります。




