ルースミアの気持ち
麻薬の特効薬が出来た日から数日が過ぎた。
キャビン魔道王国から来ている魔導兵が偵察をしている様だが、敵影は未だ確認できず、焦りだけが募っていく中、戦いの準備だけがどんどん進められていった。
マルボロ王国の兵士達は臨時招集されたマルボロ王国所属の冒険者達と見張りをして待ち構えていて、7つ星の騎士団はシリウス、キース、アラスカなどの新たに作られた評議員により、王宮にいる要人警護を受け持っている。
ボルゾイは【鍛冶の神】2人と共にソトシェア=ペアハで武器作りに今はいて、キャスがそれを行き来して運んできていた。
ちなみにヴォーグは公式にベネトナシュと婚約を発表し、実質ベネトナシュは王妃となっている。 夜な夜な王の寝室から不気味な声が上がるらしいともっぱらの噂と、ヴォーグの変態が収まっているところからベネトナシュがしっかりと相手をしてくれているのだろう。
そして俺は……
「……主よ、こんなところにいたのか」
「赤帝竜か、どうした?」
「どうしたではないだろう。 【魔法の神】が寂しがっているぞ」
麻薬を無力化する薬が出来ていよいよ決戦が近づくと、俺はレグルスに復讐する事だけでいっぱいになってきていた。 特攻隊なんかももうどうでもよくなっていて、見つけ次第断罪して贖罪してやる、それしか頭になくなっていてエラウェラリエルの事もほったらかしになっていた。
「主は復讐者にでもなるつもりか?」
「またその話か?」
勝手に横に座りだし、赤帝竜が勝手にポツポツと話しかけてくる。
俺と別れた後、竜の聖域で傷を癒した赤帝竜は、一度だけ懐かしむ様に人に見られる覚悟で俺がいないとわかっていながらも飛び回ったのだそうだ。
そしてその後、俺との旅は全部夢だったと思い込むことにして、赤帝山に引きこもったと言う。
「我はな、いつしか1人が寂しいと思う様になっていた。 おかしいだろう? この赤帝竜ともあろうものが、主を思い出すたびに辛く寂しいと……」
俺を見ずに赤帝竜は話し続けている。 過去にもこんなに赤帝竜が身の上を話した事は一度もない。
「主と再会した時、我は喜んだ。 また一緒に夢の続きをしようと言われ心底嬉しかった……」
……俺は死にかけたけどな。
そこで赤帝竜が俺の方へ顔を向けてジッと見つめながら続けて話す。
「主のいない世界で生きるのはもう嫌だ。 もし主が復讐者に囚われてしまうのなら、我は主を殺して我も命を絶とう」
赤帝竜が真剣な表情でそう俺に訴えてきた。
「我は主と一緒にいたい、サハラの事が好きだ」
それは赤帝竜の告白だった。
しかし相手はドラゴン……いや、もう長い事この世界にいたせいか、正直ほとんど気にはならなくなってきている、だが俺にはエラウェラリエルという恋人がいるのはわかっているはずだ。
俺の気持ちを察してか、あの赤帝竜が顔を赤くさせて言い訳をしてきた。
「何も主を独占するつもりはないから安心するがいい」
「いやそうじゃなくてだな……俺にはエラウェラリエルがいるから……」
「だから独占するつもりはないと言っているのだ。 魅力的な雄に雌が集まるのは自然の道理というものだろう?」
首をかしげながら赤帝竜は不思議そうに答えてくる。
……コイツやっぱり思考が人種じゃないよな。
そう思いおもわず吹き出す。 それを何がおかしいと赤帝竜が怒ってきたが、不思議と可愛らしく見える。
「悪い。 気持ちはすごく嬉しいが、エラウェラリエルが許すかわからないぞ?」
そう言うと赤帝竜がスクッと立ち上がり、俺の手を取ると引っ張り出した。
「どこに連れて行く気だよ」
「もちろん【魔法の神】のところだ。直談判しに行くぞ!」
……マジスカ? これって修羅場の予感って奴じゃないのか?
そんな心配をよそに赤帝竜は嬉しそうな顔で、俺を引っ張ってエラウェラリエルの元に連れて行かせようとしている。 というより、赤帝竜の力に抗う事ができるはずがない。
部屋に引きづり込まれて中に入ると、椅子に座って窓から外を眺めているエラウェラリエルがいて、俺たちが部屋に入るとどこか物悲しそうな顔をこちらに向けてきた。
俺の姿を見てすぐに笑顔を向けてきたが、作った笑顔であろう事はすぐにわかり、ほったらかしにした結果だと気がつき申し訳ない気持ちになる。
「おい【魔法の神】よ、我もサハラの事が好きだ。 構わぬな?」
……ヲイッ!
事もあろうか宣戦布告のような言い方で赤帝竜が報告する。
「ウェラ、違うぞ! 勘違いするな!」
「勘違いなものか!
貴様もサハラが好きなのであるのと同じく、我もサハラが好きだと言っているのだ!」
その様子を見てエラウェラリエルが困惑の表情を浮かべながら、無言で見つめてくる。
……美人エルフの無言の視線、怖え!
「どういう事でしょう? 赤帝竜さんは、私にサハラさんを諦めろというんですか?
サハラさんはそれを承知しているんですか?」
「違うぞ! ウェラ」
「そうだ、貴様同様我もサハラが好きだと言っているのだ」
エラウェラリエルが困惑しながら一度落ち着きましょうと持ち掛け、経緯を話していくうちに納得がいったようだった。
「つまり、赤帝竜さんはサハラさんを好きで、私もサハラさんが好き、だから一緒にサハラさんを好きで良いかという事ですか?」
「うむ」
エラウェラリエル呆れたような顔を見せたが、それと同じぐらいに驚きもしていたようだ。
「その妥協案受け入れます。 サハラさんの争奪戦なんかしたくないですし、失いたくありません」
こうしてエラウェラリエルと赤帝竜はともに俺を好きで支えると決めたようだ。
もちろん俺の意思は聞かれる事はなかった。
いつも読んでくれている方たちへ
大変申し訳ないのですが、少し執筆が滞っております。 明日の更新分までは出来ているのですが、そこから先がまだ書き上がってません。
間に合わせるつもりではいますが、遅れたりしたらゴメンなさい。




