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復讐者

 食事が済んで王都に向かおうと声をかけようとした時、ルースミアが先に声をかけてきた。


「主よ、ちと顔を貸せ」



 1分1秒を争うこの時に、只でさえフェンリルのワガママに付き合って余計な場所に来ているというのに、一体なんなんだと思っていると、手を掴んで引きずる様に連れて行こうとする。


「ちょっと待てよルースミア。 俺達は急いでいるんだぞ!」

「いいから黙ってついてこい!」



 抵抗しようにもルースミアの力に勝てるはずもなく、仕方無しについて行くことにする。

 向かう先はこれといった場所は決まっていない様で、妖竜宿(シェイディドラゴンイン)をとりあえず出てヴァリュームの町中を2人で歩いていく。



「いいか主よ、少し冷静になれ」


 しばらくしてやっとルースミアが喋ったと思ったら説教の様だ。


「俺は冷静だ」

「いや主は今、復讐にしか頭になくなっている。 我には分かるが今の主の顔は邪悪だぞ」



 確かにアリエルの死後、仇を取る事だけを優先にしてそれだけのために生きてきた。 だがそれの何が悪いというのか俺には理解できない。


「なんだよ、まさか赤帝竜(ルースミア)ともあろう者が、復讐はいけませんとでも説教する気か?」

「そうは言っていない。 主の復讐には我も力を貸してやる。 それよりも主だ。 復讐にとらわれた者は復讐者(アベンジャー)になってしまうのだ」

復讐者(アベンジャー)?」



 うむと言ってルースミアが復讐者(アベンジャー)の事を話し出す。

 復讐にとらわれて復讐者(アベンジャー)になると、周囲から畏怖の念を抱かせやすくなるのだそうだ。 その恨みや怨念で力が増幅されるそうだが、同時に負の感情がやがて精神を支配していき俺が俺ではなくなるらしい。

 俺の知る復讐者(アベンジャー)はクラスのはずだが……まぁ似たようなものだな。



「上等だよ、復讐者(アベンジャー)でもなんでもなってやる! レグルスだけは絶対に許すわけにはいかないんだ!

それに今の俺には断罪し贖罪する力もあるんだ!」

「既に主は復讐者(アベンジャー)に魅了され初めている様だな……

よく聞け、復讐は我もダメだとは言わん。 だがこれだけは忘れてくれるな、復讐するのは主がしろ、復讐者(アベンジャー)にやらせるな」



 ……復讐は俺がしろ? そんな事は当然だ。 赤帝竜(ルースミア)や不死王はその手助けをしてくれればいいだけだ。



 これ以上小言の聞きたくなかった俺は、素直に聞き入れたふりをしておく事にした。 だが赤帝竜(ルースミア)の視線は俺を見つめ続けていた。




 時間を無駄にしてしまったと急いで妖竜宿(シェイディドラゴンイン)に戻ると、俺の顔を見て全員が何か言いたげに見つめてくる。


 ……なんなんだよ一体。



「急いで王都に向かうぞ! ウェラ、王宮の中庭に魔導門(ゲート)を出してくれ」


 その視線にイラつきながらエラウェラリエルに指示を出すが、何故か躊躇していて詠唱をしようとしない。

 もう一度落ち着いてから言い直すと、エラウェラリエルは一度仲間を見回してから詠唱をして魔導門(ゲート)を出した。




 王宮の中庭に出るとシトシトと雨が降っていて慌ただしく兵士達が動き回っている。 もう第一陣の麻薬の散布が始まっているのかと、すぐに王宮の中に入ってヴォーグ達の元に向かう。 エラウェラリエルや赤帝竜(ルースミア)は何も言わず黙ってついてきた。



「サハラ!」


 俺の姿を見てレイチェルが駆け寄ろうとしたところで、赤帝竜(ルースミア)の姿を見つけ立ち止まる。



「ルー姉さま? ルー姉さま!」

「な!? レイチェル貴様……神になったのか」



 赤帝竜(ルースミア)に気づいたレイチェルは、俺ではなく赤帝竜(ルースミア)に飛び込んでいった。

 俺はそれを横目にヴォーグに戦況を尋ねる。



「それは後だ。 そこにいるのが、その……なんだ……」

「ああ、赤帝竜(ルースミア)だ」


 その場にいた全員がどよめく。 それだけ赤帝竜(ルースミア)の存在は大きいのだろう。




 戦況を聞く限りでは未だに第一陣すら来ていない様で、グランド女王も想定外のことだらけとなって困惑している様だった。



「という事は全軍総当たりで来るってところか?」

「おそらくとしか……神算鬼謀の神とレグルスの未知の攻撃に対抗する術が私には考えも及ばず……」



 グランド女王がそう言って、悔しそうに歯噛みしている。 キャビンが神算鬼謀の神の前では叶わないのが辛いのだろう。



「サハラ、頼まれた物だ」


 【鍛冶の神スミス】が俺に武器を手渡してくる。 それを赤帝竜(ルースミア)に渡した。


赤帝竜(ルースミア)用じゃったのか!」


 【鍛冶の神トニー】が声を上げて驚く中、赤帝竜(ルースミア)がマジマジとリストブレードを見つめた後、両腕に身につけてブレードの出し入れを試し、そしておもむろに自分の腕をブレードで斬りつけようと振り下ろした。


 誰もが息を呑んでその光景を見つめる。



「ふむ、折れなかっただけマシか」

「な……なんだと!」

「儂等の作った武器じゃぞ!」


 赤帝竜(ルースミア)の腕は僅かに血が出ている程度で止まっていた。


「【鍛冶の神】とやらの武器もこの程度か」



 その言葉にガックリと肩を落としている2人の神が少し哀れに見えた。



「そうなると兵力では大きく俺たちが勝ったようなものだろうな!」


 ヴォーグだけは嬉しそうに今の光景を見ていた様で、赤帝竜(ルースミア)の強大さを感じたようだ。




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