約束を守りにヴァリュームへ
話も決まり戻ろうとなった所で、フェンリルが約束を要求してきた。
「約束ってなんかしたか?」
“ハンバングー♪”
あぁあれか。
とそこで思い出す。 イフリートをどうするかだ。 まさかこのまま町には入れないだろうとイフリートに何とかできないか聞いてみると、赤黒い肌のおっさんに姿を変えた。 衣装なんかを見ると上半身裸にチョッキを着て、白いぶかぶかのズボン姿でいかにもアラビアンな格好だ。
「じゃあウェラ、ヴァリュームに魔導門を出して……」
「主よ、待て」
何かとルースミアを見るといそいそと服を脱ぎ始めている。
「ああ、財宝浴びか?」
「うむ!」
財宝浴びが終わるのを待ち、やっと出発となった時に突然金銀財宝が消え、ルースミアが俺に袋を渡してきた。
「主に我の財宝の管理は任せる」
自分で持てよと思いつつも受け取って自分の鞄にしまいこみながら、広間が先ほどよりも更に広くなったのを見て、いったいどこから集めてきてるのか疑問に思ったが、嫌な予感がするため聞くのはやめておいた。
今度こそ魔導門を開き、ヴァリュームの近くに到着し、町一つを覆う高くそびえる外壁を抜けると、そこには殺風景な町並みが目に映る。
「随分と寂しいな」
俺の言葉を城門を守る兵士が聞いていたのか、冒険者は皆んな臨時招集がかかって王都に向かった事を教えてくれる。
どうりで閑散としているわけだ。
早速フェンリルの約束を守りに妖竜宿へ向かうと、案の定来るのをわかっていた様にシャリーが待ち構えていた。
「サハラ王様がそろそろいらっしゃる頃だと思ってましたわぁ」
「誰だコイツは!」
即反応したのは赤帝竜で、しかも何故か異様に警戒している。
「レイチェルの両親の後を継いで経営しているシャリーさんだが、それがどうかしたか?」
そう振り返ってみると今にも飛びかからんばかりの勢いを見せている。
「敵では……ないのだな?」
「当たり前だろ」
そう言うとルースミアはおとなしくなったが、警戒だけは怠っていない様だった。 となれば不死王はどうなのかと見てみると、不死王はルースミア程ではないがやはり警戒している様に見えた。
……まぁそう言う存在だよな、この人。
シャリーはと言うとのほほんとした笑顔のままで、フェンリルの姿を見つけると「今日だけ入る事を許しますわぁ」と馬小屋に行かずに済むどころか、食堂にまであげてもらえる。
食堂に入ると客は誰1人おらず、俺たちだけだった。
「いらっしゃいま……せ……」
「やあシア」
俺の応対に、え? あれ? と困惑した表情を見せてくる。 そんなシアの肩を叩いて耳元でそっと囁く。
「シア、もうすぐだ。 もうすぐアリエルの仇をとってくるからな」
「ひっ!」
なぜかシアが怯えた様な声を上げて厨房に逃げる様に下がってしまった。
さて席に着くのはいいが、俺の横に座る争奪戦が無言で始まり、俺の横にはプルプルと震えながらギリギリ落ちない様にお座りをしているフェンリルが既にいる。 空いたもう片方の椅子をセーラムとエラウェラリエルとルースミアが掴んで離さないで睨みを利かせている中、不死王とイフリートはさっさと少し離れた席に座って事なきを得ていた。
「面倒だから俺が決めるぞ!
ウェラが俺の横で、正面にルースミア、ルースミアの横にセーラムだ」
「やった……」
「ぶー!」
「主……ぐぬぅ」
グチグチ言うかと思ったが、それだけでおとなしく従ってくれた。 ニコニコなのはエラウェラリエルただ1人だけだ。
「不死王はどうする? メシ食えるのか?」
「いや、我は食事は……む?」
不死王が鼻をひくつかせて反応した先にはシャリーがいて、手に瓶を持って近づいてくる。
「こちらなんかいかがかしらぁ?」
そう言ってグラスを置いて注いだ色は赤……まるで血の様だった。
不死王がそのグラスを取って一口口につけて飲むと、あまり感情の出さない不死王が驚いた顔で「これは素晴らしい」と声を上げた。
シャリーがそれではこちらで、と瓶を置いて立ち去ろうとしたのを呼び止めて、あれの中身は何か尋ねてみる。
「秘密ですわぁぁぁ」
和かにそう言って戻ってしまった。 そうなれば不死王に聞くしかない。
「知らぬ方がいい事も世の中にはあるものだ」
余計に気になるやないかーい。 まぁもし血なら飲みたいとも思わないからいいか。
そうなるとイフリートだが、意外に普通になんでも焼却できると言ってくる。
……焼却するなら要らんだろう。
除け者にするとまたうるさそうなため、ハンバングー6人前にカレー6人前、食後にクレープ6人前を全部少なめでシアに頼んだ。
次々と料理が運ばれ、不死王以外が食べ始める。 フェンリルには俺が一口大にカットしてやる間、ヨダレが垂れない様にペロンペロンさせていて、カットが終わると行儀よく一切れずつ食べだした。
“ンマー!”
ほんと、コイツは馬鹿犬だがこういうところは可愛いと思う。
初めて食べるルースミアは無言になって口にかきこみ、口の周りを子供の様にベタベタにしながら、もう無理と残したセーラムとエラウェラリエルの分まで平らげていた。
この食事が終われば王都に行って戦場になる。 早ければもう第一陣が攻めてきている頃だろう。
そんな事を考え込んでいるとルースミアが俺をジッと見つめていた。




