浮かび上がる邪な心
再生ですっかり楽になり、立ち上がって全員いるのを確認する。
「心配かけたな、もう大丈夫だ。 それより……カイは?」
「主……今、治癒魔法を使ったのか?」
「大丈夫じゃないよ!」
「死ぬところだったんですよ!」
「赤帝竜が攻撃の手を止めたら消えていった」
一斉に声をかけられわけがわからない。 とりあえず不死王が消えていったと聞いてそうかとガックリとなる。
「きっと貴様の助けになる以上はいられないのだろうな」
「少しぐらい話がしたかったな」
「サハラッ! それよりさっきの治癒魔法はどうしたのだと聞いているのだ!」
こういう自分優先なところがルースミアらしくて懐かしい。 だがとりあえずドルイド魔法の事を話すよりも先にやるべき事がある。
「それよりまず先に服を着ろよ!」
「無い!」
なんか初めて出会った頃と似た様な事をさっきからやっている様な気がする。 鞄から下着やら服やらローブを取り出して渡すと、案の定誰の下着なのかと聞いてくる。
俺もいろいろあったんだと内容を話さないでいると、セーラムがニマニマしながら「サーラちゃんの時用だもんね」と口にしたため頭を叩いておく。 そしてなんとなく察したのかルースミアが「サハラが身につけていたものか」と嬉しそうな顔を見せている。
ドラゴンであるルースミアがどういう意味で取ったか分からないが、おそらく俺のお古という事で喜んでいるだけだろう。
「ん? このローブは我がレイチェルにくれてやったやつではないか?」
「そのレイチェルがルースミアに返してといって渡されたんだ」
「そうか……」
きっと死んだと思ってるんだろうな。 後で会ったらどういう反応するか楽しみだ。
ジッとローブを見つめた後全てを身につけ終えると、忘れずしっかりと治癒魔法の事を聞いてきた。
「怒らないで聞いてくれよルースミア。 フェンリル出てきていいぞ」
フェンリルが姿を現したところで、この精霊と契約をした事でドルイド魔法が使える様になったと説明する。
「氷狼の精霊……しかも最上位精霊か、随分と珍しい精霊と契約したのだな? それが我が怒る理由と何の関係があるのだ?」
「フェンリルはカイの父親の形見の剣にいた奴なんだ」
ルースミアが一度目を見開いたあとフェンリルを睨みつけたが、特に何も言ってはこなかった。
そしてひと段落したところでルースミアがコイツらはと聞いてくる。 どうやら今の今まで一緒にいてまったく眼中になかったらしい。
「こっちのエルフ、覚えてないか? セーラムだよ」
「あの時の小娘か」
「こっちのエルフは護衛で一緒にいた冒険者パーティのエラウェラリエルだ」
「忘れたわ」
興味無い事は本当に覚えてないんだな。 よし、ならば!
「で、今の俺の恋人だ」
「何だと! 主よ、今何と言った!」
「だから、俺の恋人だ」
エラウェラリエルを抱き寄せて見せる。 エラウェラリエルは何故か必死にルースミアに謝る様にぺこぺこしている。
「……まぁ良い」
そうは言ったが赤帝竜の目が爛々とエラウェラリエルを睨みつけていて、恐怖からかエラウェラリエルが俺に体を押し付けてきて俺得だ。
「そして俺の友になってくれた不死王だ」
「お初にお目にかかる、大惨事の象徴、赤帝竜よ」
俺が紹介すると貴族らしい挨拶をしたが、大惨事の象徴はつけなくてよかったのでは無いだろうか?
「ほぉ貴様が不死だか不滅の象徴の不死王か」
対する赤帝竜も似た様に返してきた。 お互いに象徴を知っているという事は何らかの繋がりがあるのだろうか?
そこへエラウェラリエルがくっついている反対側からクイクイと肘で突いてくるキモいおっさんが、俺俺と言わんばかりにアピールしてくる。
「以上だ」
“わぁお! 俺っちのけもの最高! いくら何でもそれは酷いぜサハラ”
“ウシャシャシャシャ”
ルースミアが真面目に「そうか」と終わろうとしたため、仕方がなくイフリートも紹介してやると、また例によって歌と踊りでアピールし始めたが、アッサリと無視された。
紹介が終わるとルースミアは目を細めながら俺を見つめてくる。
「それで、不死王に【魔法の神】、最上位精霊2人にハイエルフ。 これだけの連中を連れて我に会いに来たのは、再会の為だけではないだろう?」
どうやら仲間のメンツから何かを感じた様だ。 というより、言ってもいないのにエラウェラリエルが【魔法の神】だとわかった事に驚くと、神威ですぐにわかったらしい。
長くなるが何も知らないままというわけにもいかず、ルースミアと別れてから今まであったレフィクルの事、悪魔や悪鬼の事を話し、となれば当然女体化やアリエルとの出会いも話す事になる。
「それで雌用の服を持っていたのか!」
俺の女体化の話で大爆笑をかましてきた。
そしてレグルスの話になっていき、今に至る処までを話し終えた。
話し終えたところでルースミアの反応を見る。
「人種の神の追放とは、創造神めもなかなか粋な事をしたな。
しかし主よ、安心するがいい。 主には我が手を貸してやろう」
どうやらルースミアは嫌がる事なく戦いを手伝ってくれる様だ。 しかし敵にも冒険者がいるとなれば如何に赤帝竜と言えど、以前のようにやられないとも限らない。そこは俺達でカバーしなければいけないだろう。
なんにせよ……赤帝竜が加わったことで、手駒はこれで全て揃ったな。




