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麻薬

 学院が休日の間、女体化し侍女として働きながら俺はアリエルの視界を使い探る事が決まり、短い期間だが懐かしい王宮暮らしが始まる。

 割り当てられた女王の側の侍女長部屋を割り当てられ、そこで一晩明かす事になるのだが、1人きりになるとあの時の光景が蘇り涙が溢れてきた。



“サハラ……あれはアリエルの意思じゃないんだからあまり思いつめるな”

「分かってる、分かっているが……」

“それにアリエルもきっと辛いはずだぞ”


 フェンリルのその一言が俺の胸に深く突き刺さる。

 アリエルもまた辛いはずだ。あの時流した涙はまだアリエルに残る心の涙なのだろう。



「ありがとうフェンリル」

“おう”


 フェンリルが嬉しそうに尻尾をぱたぱた振った。




 それから休日の間、俺は女王に言われた通りに探るためにアリエルの視界で盗み見る。だがそれは、見れば見るほど吐き気を催す光景も多く見られた。



「大丈夫ですかサーラ?」

「はい、申し訳ありません女王様」


 グランド女王はそんな俺を憐れみ、実の娘のエアロ王女よりも面倒を見てくれる。



 そんな数日が過ぎ去り、明日から学校が始まろうとした日だった。

 これまでただ皆んなが集まりリバーシをしているか、アリエルを抱いているかしかなかったレグルスがアリエルを連れて家を出た。


 こそこそと移動していき、奴らの集まる家のちょうど裏手の、国を覆う壁の所まで行くと、なんと壁を越えるための穴が掘ってあった。狭く通るのにギリギリの穴を抜けると国の外に出る。

 出たところをレグルスは慣れた足取りでアリエルと進んでいくと近場の森へと入っていった。しばらく進んだところで足を止めると、アリエルに何か言い、よくわからない植物の一部から液体を集めだした。

 袋いっぱいに集めるとまた来た道を戻っていき家に入っていく。

 集めた液体をアリエルと一緒に乾燥させたり煮たりとわけのわからない行程を行った後、アリエルに何か煙の様なものを吸わせ始める。

 その直後視界が歪み、わけがわからない状態で、こっちも目が回りそうになったため、そこで視界を繋ぐのをやめた。



「あれは……まさか麻薬か!?」



 俺はすぐに女王にそれを伝えに行くと、女王が俺の顔を見て驚きの顔を見せる。


「サハ……サーラ、貴女、顔が血まみれですよ!」


 え? と思い、手で顔を撫でてみると手に血がべっとりついた。長い時間視界を覗きすぎたせいだろうか? べっとりとした血を見て気が緩んだのか、あるいは出血多量だったのか、俺の意識はそこでなくなった。




 目がさめるとベッドの上で、グランド女王とキャスが心配そうに見ている。


「よかった、やっと目が覚めた」

「そのまま、そのままでいいから、見た事をありのままを話してちょうだい」



 俺は今日の昼間見た事を話した。グランド女王はよくわからないようだったが、説明をすると理解したようで、キャスは深刻な顔をしている。


「僕も本で知ってる限りだけど、確かに大半の麻薬は植物から抽出して作るんだったと思う。

もしそれが麻薬であるなら、アリエルはどんどん危険な状況になっちゃうよ」

「なんとかならないのか?」

「なんとかと言われてもなぁ。むしろそういうのはサハラの持つドルイドの力の方が役立つんじゃない?」


 ハッとなってフェンリルを呼び出す。フェンリルが姿を出すとグランド女王は驚きながらも冷静に答えてきた。



「まぁ、氷の最上位精霊と契約しているなんてさすがサハラ様ですわね」


 フェンリルに説明し、なんとか方法がないか聞くと、溜息をつきながらこう答えた。


“大体の場所の目処は立っているんだろ? なら直接聞けばいい”

「聞くって……何に?」

“その植物に……って、やっぱり植物の匂いだったのか!”


 そう言えばそうだ。フェンリルは最初の段階で嫌な植物か土の匂いと気がついていた。


「植物に聞くってどういう事だよ」

“ドルイド魔法には一時的に植物と会話できる魔法があるんだぞ?”

「そういう事か! なら今すぐに行って聞けば分かるはずだな!」


 俺がベッドから体を起こすがフラついて目眩が起こる。


「無理したらダメだよサハラ!」

「そうですよ。それにもうこれで十分わかりましたから、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ」


 え?っと俺とキャスがグランド女王を見ると微笑みながら話し始めた。



「まず洗脳の方は魔法でもその麻薬と言うものでも無いのが分かりましたわ。間違いなく催眠術的なものでしょうね。

それと麻薬と言うもの。此方はおそらく洗脳が切れた時の保険と、レグルスが今後地位や権力を手にする為の道具でしょうね。

これまで聞いてきた話から、レグルスという転生者は非常に利己的で自尊心が強く、善人に見せるための嘘を平気で吐き、良心を持たず罪悪感を感じません。

となると、魔法という力を得ておきたかったために魔道学院に入り、足がかりとなる忠実な手駒を手に入れたかったといったところでしょうね」


 俺とキャスが感心した様にグランド女王を見つめる。女王にはサイコパスという事も話してなければそれがどういった奴かも話していない。にも関わらず全て見通したのだ。


 女王は続けて話す。


「アリエルさんを重宝しているのは、手にした手駒の中で最も有能と感じたからなのでしょう」


 そこでグランド女王が俺を見つめてくる。


「サハラ様、レグルスの催眠術的な洗脳方法は、おそらくリバーシという道具を使って2人きりという空間を作り出し、リバーシのルールを教えながらも密やかに規則を与えて従う様にしむけ、情報過多で疲れたところでリバーシをやりながら楽しませる。間違っていれば強く罰し、上手に出来たら非常に賞賛していき、規則に無意識に従う様に躾けていったのだろうと思います」


 これを聞いて俺は単純に何も考えないでアリエルをレグルスに与えてしまう結果になってしまった自分自身の愚かさにをひどく嫌悪する。


「サハラ様、ここで自分自身を追い詰めてしまう事もレグルスにとって思うツボになってしまいます。

サハラ様はこの世界を守る守護者の様な存在です。過去は振り返らず、常に先を見る様にして下さいね」


 頷いて答えはしたが、問題はアリエルの洗脳からの解放と麻薬による精神崩壊をする前になんとかしなければいけない。


「そうすると洗脳をまずどうするかだねぇ」

「ああ、俺そういう知識全く無いんだ」

「洗脳から解放するには狭くなった視野を広げてあげればすぐに解けますわ。今のアリエルさんはレグルスとリバーシだけに固執する様に仕向けられていますから、そこからの解放でしょうね」

「それをどうやったらいいのか……」

「時が来るまでは我慢して、今と思った時、サハラ様の想いをぶつけてあげてください。それできっと洗脳は解けますわ。

ただし、大変なのは洗脳が解けてからよ。アリエルさんは洗脳されていた時にした事全てを覚えているのですからね」

「グランド女王、ありがとうございます! なんとお礼を言ったらいいか……」

「まだ解決してません。解決したらアリエルさんといらしてくださいね」

「分かりました」



 話を終え翌日を迎える事になる。勝負の時が来た。俺は必ずアリエルを取り戻してみせる、そう心に強く決めた。




偶然にもタイムリーな話題がネタになってしまいました。

下書きの方は後10話先まで出来ているので、ある程度ぽんぽんと更新させていきます。

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