イラつく新たな仲間
俺達が休憩を取っている間もフェンリルとイフリートの言い争いは続き、果てし無く続くかの様に思えてくる。
「サハラさん終わりそうにないですよ」
「そうだな……」
見ている限りではフェンリルとイフリートは単にいがみ合っているだけで、来る来ないの話をしているわけではない。 これでは決して交わることのない2精霊だけに終わりようもなかった。
不死王の言う通りイフリートの態度や口調はイラつくが強かったのは事実だ。 もしも赤帝竜がいなかった場合の保険にはなるかもしれない。
「フェンリル戻れ」
俺の呼びかけに反応するか心配したが、フェンリルの忠犬っぷりだけはこんな時でもしっかりしていて、すぐに俺の元に戻ってきた。
“どうしたサハラ”
言い争いで疲れたのかハァハァと息を切らせている。 イフリートはと見れば、酸素ボンベの様なものを口に当てて、酸素を取り込んでいる様な仕草を見せていた。
「お前は気分悪いだろうが、あいつを連れて行く事にした」
“ガーーーン!!”
……そういうのは口で言うもんじゃないぞ。
先ほど俺が思った事を伝えると渋々ながらも応じてくれた。 しかしフェンリルが珍しく条件を出してきた。
“ハンバングー喰わせる約束をするなら我慢する”
……やはりコイツも馬鹿だった。
フェンリルにはわかったと言って納得させた後、溜息と深呼吸をしてから覚悟を決めてイフリートに話しかけに行く。
「イフリート、一緒に来るのなら条件を飲んでもらう。 聞けないのであればここでお別れだ」
ウンウン頷いて見せ、どこから取り出したのか、メモ用紙とペンを取り出してよく聞こうと耳を象の様にでかくしだした。
「俺の出す条件はたった1つだけだ。 俺の命令に絶対に従え」
“俺の命令に絶対に従え……っと……”
イフリートが自分でメモしたメモ帳をいろんな角度から何度も眺め俺のそばまで来ると、軍服姿の兵士の様な姿になり敬礼をする。
“サーイエッサー!! ……と言いたいのでありますが、いくつか従えない命令がありまっす”
そこで姿を変えて顔を近づけてくる。 はっきりいってぶっ飛ばしたい。
“えー、自害と自害に等しい行為の命令には応じられませ〜ん。
よぉ、わかったかい坊や”
本当にいちいちイラつく事をしてくる。
そういう命令はしないと約束をすると、イフリートは自分に書いたメモ帳とペンを俺に手渡しサインを要求してきた。
契約書の基本はその内容に間違いや騙しがないことが大事だ。 小さい文字で書かれたりしているものまで全てチェックしてやろうと見ると、『俺の命令に絶対に従え』だけしか書かれていない。 一番下に棒線があり、そこにサインを書いて渡した。
するとおもむろにメモ帳を口に入れて飲み込み、目に受理の文字と了承いたしましたと返事をしてきた。
“それじゃあ出発進行、突撃開始ー!”
言うなり突撃ラッパを吹き鳴らし出した。
「イフリート、最初の命令だ。 それをやめろ」
しょぼ〜んとして見せ、景気づけは大事だとか言っていたが無視を決め込む。
何はともあれ、これで先に進めると思ったところでイフリートが赤帝竜の所在を知るか聞いてみると、つい最近戻ってきたといちいち面倒なポーズや仕草で伝えてきた。
……やっぱり、赤帝竜は竜の聖域から戻っている!
懐かしい記憶が蘇り、初めて出会った頃を懐かしむ様に思い浮かべる。 赤帝竜が居なければ、出逢えなければ今の俺は存在していなかったはずだ。 震える思いを抑えながら仲間に声をかけた。
「行くぞみんな!」
エイエイオー! とイフリートが叫び、さらなる奥深くへと目指して進み始めた。
しかしそれでも赤帝竜のいる場所は遠く、さらなる日数がかかり魔物との遭遇もあったりしたが、暑さで引きこもったフェンリルに変わり、イフリートが率先して戦ってくれるためかなり楽になる。
もっともその戦いぶりは強いのはわかるが、頭を悩まされるような戦い方だったのは言うまでもない。
そんな数日後、休んでいる俺達にイフリートが車掌のような格好で“えー、まもなく赤帝竜の住処、赤帝竜の住処、停車時間は不明でございます”と伝えてきた。
……コイツ実は転生か転移してきた精霊じゃないよな?
本気でそう思った。
“それで一つだけ伺いたいんですけどよろしいですかなぁ? よろしいですよねぇ?
赤帝竜のところに行ってどうしようって思ってるんざんしょ?
まーさか戦う〜なんてこと言わないっしょ?”
「ああ、お前には言ってなかったな、赤帝竜を仲間にしに来た」
目玉を3段ぐらいに飛び出させながら飛び上がり、泣きすがる様に俺の足元にしがみついてくる。
“悪いこたぁ言いませんぜ旦那、今ならまだ間に合います帰りましょう”
「安心しろ、絶対に大丈夫だ」
イフリートは十字を切って“おお神よ”と祈りを捧げるポーズを取り出したが、当然無視し気にしない事にした。
だが1つだけだわかった。イフリートですら赤帝竜を恐れるという事を……
赤帝竜の住処に近づいたら皆んなには決して喋らず、俺の指示に従う様に何度も注意をしておく。 特にイフリートだが、自分の口にチャックをして静かになった。
……せっかくならギリギリまで顔を隠して驚かしてやるか。
ローブのフードを深く被り、杖も鞄にしまう。どういう反応を示すか今から楽しみだ。
やがて巨大な空間がが目の前に広がる。 そこには山の様に積まれた金銀財宝が出来上がっていて、その頂には距離があっても何がいるか分かるほどの超弩級サイズのドラゴンの姿がジッとこちらの様子を伺っていた。
次話は明日になります。
ついに、ついに……と思わせておいて、というオチはやりません。
明日の更新でルースミアが出てきます。
そして凡人の異世界転移物語から見てくれている人には思わずニヤッとする場面もあったりします。 たぶん……
お楽しみに




