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炎の魔人

 赤帝山の中に入る洞穴を見つけ出して中へと進んでいく。

 これだけのメンバーであれば赤帝山も余裕かと思われたが、意外にも苦戦を強いられてしまう。


 まず俺だが、確かに魔物相手でも断罪だけは効果がある。だが、贖罪する為に杖を当てても食物連鎖程度では倒せるほどの効果は得られず、ほとんど通常通りの戦闘になってしまう。元よりの戦い方で殴りつける戦いになるのだが、別段破壊力が強力な杖ではなく大型生物も多いため、なかなか倒れてはくれない。


 次にエラウェラリエル、魔法には日に記憶分しか使えないという制限があるため、無闇に乱発もできず抑えながらになってくる。 そうなると他の誰かが守る必要が出てきて、白兵戦が出来るのは常に2人だけになってしまう。

 だが適材適所で使う魔法を知っていたかのように記憶してあったり、数が大量に出た時や接敵するまでの間に間引いてくれるのでかなり助かっている。


 セーラム、マナで紡ぐ事でオールレンジな戦いを見せるが、意外にも攻撃力の点でいくと一撃では仕留められない事が多い。そのため手数で勝負しているが、逆にそれが見惚れるような戦い方に見えることもある。 また俺やエラウェラリエルのように感知(センス)が無い分、目視してからでないと行動に移せないため、俺たちと比べると1テンポ遅れて行動していた。

 それでもハイエルフは記憶も詠唱も必要としないで魔法を使い、リングオブマナによる紡いで戦う事で存分に力は発揮していた。


 不死王、人種で言うところの死系統を扱い、伸縮自在の鋭い爪による白兵を行って戦うスタイルで、高速移動をして華麗に敵を切り裂いていくが、敵に打撃を与えるほどの強さはセーラムよりもないように見える。

 だがさすがはヴァンパイアだけあり、傷を負った魔物は麻痺させたり毒を与えたりと特殊効果がバリバリに発動しているようだ。 加えて怪我自体を全く気にしない戦い方で、たまに腕が食いちぎられたりしながら戦っているが、すぐに腕が再生されていく。 倒される事がない分これで十分すぎるのだろう。

 そして、意外な事に破れた服を直すソーイングが得意な事には驚かされた。


 フェンリル……こいつがこの中で思った以上に役に立たず、洞窟内部に入り始めてしばらくすると地熱の影響か、蒸してきた時点でピアスにサッサと引きこもりやがった。


 “暑いのはダメ”じゃねぇよ……



 洞窟を進んでいく上で特に強敵なのが、下級の(ファイヤー)精霊(エレメンタル)(ファイヤー)巨人(ジャイアント)で、他にも火を吐くトカゲなんかも厄介だった。

 理由はフェンリルは役に立たず、不死王は弱点属性である炎と聖属性の攻撃を受けると再生が極度に落ちるためだった。

 そして、(ファイヤー)精霊(エレメンタル)(ファイヤー)巨人(ジャイアント)などは会話するチャンスもあったが、どいつもこいつも俺らをただの侵入者としてしか見ず、聞く耳など持たずに攻撃してくることにもあった。



「流石にきついな」

「まったく聞く耳を持ってはくれませんからね」

「カイお姉ちゃんのお父さんって相当凄い冒険者だったのね」



 カイとは俺がルースミアの次に知り合い、この世界の生活やらを教えてくれた犬獣人の娘だ。病で亡くなってしまったが、その父親が持っていた剣がフローズンデスと言って、フェンリルが俺の前に契約し、カイの父親の剣に宿って力を貸していた。


 だがいくら凄腕と言え俺達より強いなんてことはありえない。 きっと俺達がハイペースなのと、全く魔物を回避しないで先を急いでいるためだろう。


 こうやって一息ついて休んでいると、不死王は決まって黙々と破れた箇所を繕っている。 貴族の嗜みなんだとか……





 かなりの日数が経ち、先を急ぐ俺達の前に、まるで大広間のような空洞が広がっている。



「ここは……」

「もしかして到着した?」

「それは無い。あいつはこの程度じゃ足らないぐらいの財宝を床に敷き詰めているはずだからな」



 大広間を進んでいくと目の前に炎で明るくなっている場所がある。 その炎は筋肉質の巨人が発しているもので、真紅の皮膚にくすぶるような目、小さい黒いツノが生えている。

 その姿は(ファイヤー)精霊(エレメンタル)(ファイヤー)巨人(ジャイアント)とも違い、俺の脳裏にも強敵だと警笛が発せられた。



“イフリートだ!”


 ピアスに引きこもっていたフェンリルが突然飛び出して、牙をむき出し身構えながら言った。



“警報警報! 侵入者だ、侵入者が来たぞ〜!

ワァオ可愛らしいわんちゃんだと思ったら、氷狼が紛れ混んでんじゃん”



 イフリートがフェンリルを見て反応を見せてきた。 俺は会話ができるならうまくやり過ごせるかもしれないと思っていたのだが……何なんだコイツは!


“そこを大人しくどけば殺しはしないぞ、筋肉ダルマ!”


 ……そしてフェンリルがケンカを買ってしまう。



“はいはーい、可愛らしいわんちゃんがオウオウ吠えたところでどうとも思わんよぉ。

イッツショーターイム! さぁ試合開始だぁ! さ〜ぁあどいつからかかってきやがる、かかってこいこ〜の侵入者共めぇ”



 どうやら引きこもり狼の所為で戦う事が決められてしまったようだ。 しかしどうにも気持ち悪い相手だ。

 イフリートが腕まくりでもする様な素振りを見せ、振り回しながらこちらに向かって行動を開始しだす。



「雹よ降り注げ! 雪よ(みぞれ)よ嵐となれ! 氷嵐(アイスストーム)!」


 俺の気持ちとは裏腹に、エラウェラリエルは気にする様子もなく魔法を使い、広間の温度が少し低下したかと思うと、イフリート周辺に雹が降り注ぎ出した。



“助かった! これで少し楽になる!”


 広間の温度が下がったからだけではなく、いつにも増してフェンリルが好戦的に感じる。おそらく炎と氷、ウマが合わないのと同じで敵意を抱いているのだろう。



 接近するとイフリートの纏う炎で火傷を負いかねないためか、不死王も疑似魔法を使うことに決めたようだが、詠唱を必要としないはずの疑似魔法にも関わらず、何やら複雑な印字やらを組んでいる。



「な、なんだ! 急に温度が下がった!?」



 そう、不死王の疑似魔法と思われた魔法が発動すると、広間全体が極低温まで下がって蒸し暑かったはずが今は寒くさえ感じる。 それはまるで仲間も問わず魔法をぶっ放したように思えた。 だがそれはイフリートを見る事で違うとすぐにわかる。

 先ほどエラウェラリエルが使った氷嵐(アイスストーム)とは比較にならないほどそれは強力で、イフリートのいる辺りの床が氷だし、氷と雹で覆い出した。



「なんだこの魔法は!?」

「こ、これは……失われた、太古の……原初の魔法!?」


 魔法の神であるエラウェラリエルですら驚くものらしい。


 イフリートが苦しんでいる様子に、不死王は禍々しいまでに真紅の目を爛々と輝かせ、邪悪に口元を曲げている。



 ……これが不死王の本当の力か? っとそんな場合じゃないな。 今ならイフリートに接敵しても炎による火傷を負いそうになさそうだ。


「セーラム! 今のうちだ!」

「うん!」


 縮地法で一気に接近し連撃を叩き込み、四方八方から杖や拳、蹴りなどでフルボッコにしてやると、イフリートの顔がひしゃげ、くの字に体を折り、俺の攻撃から身を守ろうと必死に腕でガードしている。



「サハラ、じゃ、まぁぁあ!!」


 そこへ声が聞こえて振り向くと、マナで紡いだ黄金の翼で飛翔したセーラムの姿があり、紡いで投擲した槍がバリバリと物凄い放電をしながら飛んできた。



「うおわっ、危ねぇ!!」



 慌てて縮地法でその場から移動して退避した。 どうやらセーラムの奴は不死王に感化されたのか、とんでも無い攻撃をしでかした。

 その一撃は一瞬時が止まったかと思えるほどだ。


 イフリートがその直撃を受け、全身に電撃が走り苦しみもがく。そこに待ち構えていたようにフェンリルが飛び掛かり、イフリートの首に喰らいついた。



“待った、待った、ちょいタイム! 参った、降参するからやめてくれぇ”


 イフリートの首が僅かに氷だし、目から炎の涙をボロボロこぼしながらの悲鳴のような声を上げて降参してくる。

 フェンリルが迷ったように噛む力を止めて俺を見てきた。



「フェンリル、やめてやれ」


 ため息を吐くようにフェンリルがイフリートから離れて俺たちの元まで戻ってくる。 入れ替わるように俺がイフリートに近づいた。




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