断罪の力
麓の森に入り、木々に遮られて近寄るものの姿も平地のように認識ができなくなる。
「俺とウェラの感知で接敵する存在がいないかは探るが、一応自分達でも注意していてくれ」
そこで仲間を見回し、必要なさそうな心配だなと呟いた。
絶対死なない不死王におそらく魔法の武器でなければ傷つかないフェンリル、この中ではむしろセーラムが一番危険に見える時点で異常なことだろう。
エラウェラリエルも危険かもしれないが、仮にも神なのだから生前よりも強くなっているはずだ。
チラリとエラウェラリエルを見ると、ん? と見返してくる。
「ウェラは、神になって……えっと」
ヤバい、神になって強くなったのかなんて失礼な事を聞くところだった。
「何でしょう、今何か良からぬ事を聞こうとしませんでしたか?」
「うっ……い、いや〜……その何だ。神になってだな、変わったところは無いかなぁって思ったんだ」
エラウェラリエルがジト目で見てくる。
……あれ? こ、これは……俺の脳裏にウェラの罪が流れ込んでくる。それはほとんど全てが俺に対してで、自分のせいで俺を苦しませてしまったことや迷惑ばかりかけてしまっていることが大半だった。
そして他にはアリエルに対してほんの僅かだが、いなくなってよかったと思った自分に対する嫌悪などもあり、今も理由をつけて俺を避けていることなどもわかってしまう。
……この力は神だろうが御構い無しか。
俺が視線を逸らしてエラウェラリエルに謝る。
「わかればいいんです!」
そうプリプリしながら許してくれたが、本心というかウェラの罪が見えてしまった。断罪……罪を判決する事だが、これは、これがはたして罪なのだろうか。
「いつまでぼーっとしてるんですか? もう許してあげますからしっかりしてください」
「ん、あ、ああ……」
不死王とセーラムとフェンリルが気を使ってか、俺とウェラ2人から距離を置いてついてきてくれている。
俺はウェラにだけ聞こえるように小さく呟いた。
「ウェラ」
「はい?」
「俺の為に苦しまないでくれ。君は何も悪くは無いんだ」
エラウェラリエルがビクッとさせ、青ざめた顔で俺を見てくる。
「私の……その見たん、ですか……」
「見たくて見たわけじゃ無い、それは本当だ。 だけどさっき言い争っている時に目と目があったら勝手に脳裏に浮かんできたんだ」
「その……軽蔑しました、よね……」
「軽蔑なんて! 立場が逆なら俺だって同じように思ったはずだ」
エラウェラリエルがションボリと元気がなくなり、自己嫌悪に陥っているように見える。
もしかしたらと思った事をダメ元で試しにやってみる事にした。
「ウェラ、いや、エラウェラリエル。エラそうな事言うようでごめん。
……君の罪は、この俺……世界の守護者が全てを許す」
俺がそう告げるとエラウェラリエルが、え? あれ? と声を上げた。
「ウェラどうした?」
「なんか……気持ちが軽くなった気がします」
どうやら効果があったようで、やはり俺には罪の有無の決定権まであるようだった。
条件はあるようだが、今後他人の目を見るのが末恐ろしくなってしまう。
「ん、来るか?」
「え?」
不死王が突然そんなことを言い出す。
「こちらの存在に気がついて呼吸が近づいてくる」
……呼吸が近づくっておかしいだろ。しかもまだ感知の範囲外だぞ。
“来るな”
……こいつもかよ。
「こ、このメンバーだと魔法の神の名も、台無しですね……」
「私なんかなんにもわからないし!」
「そうだな……んっ!
来るぞ!」
杖を構え戦闘態勢を取り近寄ってくる者の方を向くと、セーラムも俺に習ってわからないなりに構えをとりだした。
ガサガサと音がしてそれが姿を見せた。
10メートルはあろうかと思われる巨大な蛇だった。
“サハラ、あれ俺が殺る”
珍しくフェンリルが率先して戦うと前に出る。
「大丈夫なのか?」
“あいつは……食いでがある!”
どうやら食い意地が張っていただけのようだった。
フェンリルが飛びかかって巨大な蛇に向かっていく。だが一瞬で蛇に捕らえられぐるぐる巻きにされてしまった。
「まったく何をやってるんだか……」
そう思い杖を構えたところで大きくサイズを変えてフェンリルが蛇を逆に引きちぎり、ビチビチと跳ね回る千切れた蛇をムッシャムッシャと食べ始めた。
“貴重なタンパク源ウマー”
そう言いながら次々と口に運んでいき、ペロッとたいらげ満足そうな顔を浮かべた。
コイツの事を少しでも心配した俺がやっぱり馬鹿だったようだった。
森を抜けると丘陵には入る。まだ山までは距離はあるが順調に進んでいった。
先頭を行く俺は黒いローブのフードを深く被り、手に杖を持って進む。その後を純白の毛並みのフェンリルが後を続き、不死王、エラウェラリエル、セーラムが後に続いた。
ついにこの日が来た、とても長い長い時間に思える。
待っていてくれルースミア、もうすぐ会いに行くよ。




