贖罪の杖
第9章に突入です。
翌日早朝、王宮の庭に俺とウェラ、フェンリルにセーラムと不死王が集まり、魔導門を使って城塞都市ヴァリュームの近くに出た。
特に城塞都市ヴァリュームに寄る用事もないため、そのまま赤帝山に向かって移動を開始した。
「そういえば今更なんだが、不死王は日光を浴びていて平気なのか?」
「そんな事か。確かに不死族の定めで日光を浴びれば損傷を被るのは我も例外ではない。
だが、それ以上の速度で再生されているから問題ないだけだ」
なんかとんでもないことをサラッと言ってのけた。そういえば昔読んだ本に出てきた不死王は、自らが消滅を望まない限り消滅する事はないとあった。まさかなとは思ったが一応聞いてみると「よく知っているな」と返事が返ってきた。
……チートだ。
だが不死王は痛みは被るし永遠の孤独が付き纏い、存在自体が嫌になる事もあると笑いながら教えてくれる。
……それで共を大事にするのかもな。
そんな事を話しながら4人と1匹で歩いていく。
山の麓までの道のりは、しばらくは平地で魔物は特に出てくる事もなく順調に進んでいるかのように思えた。
だが麓近くの森が見えてきた辺りで姿を現した。
30人程が一斉に矢を番えて取りかこんできて、その中の1人が一歩前に出ると卑下た笑いを浮かべながら口を開いてくる。
「死にたくなけりゃ女と荷物全て置いていけ!」
……本当に定番だよな。
間違いなくあいつがこの集団のリーダーだろう。縮地法で真後ろに一息で移動して腕を締め上げると悲鳴をあげた。
「お前らのボスを離して欲しければ、武器を捨てて手を上にあげろ!」
これで終わりだと思っていたが誤算だとすぐに気づかされる。
ボスだと思った奴を捕まえても矢を番えたまま平然としていた。
「馬鹿め! 俺はボスじゃねぇ」
それと同時に「撃て」と声が上がった。
マズいと思ったが既に矢は放たれ、一斉にエラウェラリエル達に向かって飛んでいく。
エラウェラリエルに飛んでいった矢は、見えない何かに遮られ力無く落ちていき、セーラムに向かっていった矢も同じ様に落ちていった。盾の魔法を使ったのだろう。そしてフェンリルに飛んでいった矢は、純白の毛並みに突き刺さることはなくことごとく弾かれていた。最後に不死王……全矢が体に突き刺さったまま平然と立っている。
その光景に俺と野盗達が驚いていると、不死王が俺の方を向いてどうするのだと言わんばかりに見てきた。
先に手を出してきたのはあっちだ。不死王への返事は俺が捕らえていたボスと思っていた男を杖で昏倒させた事で示す。
「了解した」
言うが早いか不死王が動き出し、正面の位置に立つ男を伸びた爪で首を搔っ捌き、血飛沫を上げる首を手で押さえながら男はゴボゴボと声にならない悲鳴をあげながら絶命した。
フェンリルも己の正面の男に向かってひとっ飛びして首を噛み切り、ボトリと音をさせて首が地面に落ちて立ったままの体からは血が噴水のように噴き出させた。
その光景は魔法で倒しているエラウェラリエルや、俺のように白兵戦で槍を持って戦うセーラムとは違い、人種から見ればまさしく魔物の成せる所業だった。
それはともかくとして、不死者の王と氷の最上位精霊、魔法を司る女神に英雄のハイエルフと執行者の俺の前ではたかだか30人程の野盗は敵ではなく、一瞬にして沈黙させた。
不死王とフェンリルは殺戮しまくっているが、加減のできない魔法を使うエラウェラリエルは別として、セーラムと俺は殺しはせず、無力化させるよう努める。
ボスらしい男のそばまで俺が近づいて引っつかんで、その顔を覗き込むと俺の脳裏にこの男がこれまでやってきたであろう行いがまるで自分が経験したかの様に浮かんだ。
俺は手を離して一歩下がってその非道な行いを垣間見えたことに驚く。
……今のは一体なんだ!
エラウェラリエルが俺の異常に気がついたのか近寄ろうとする。それを手で制して杖を構えーー
「己の行為に後悔しやがれ! このゲス野郎」
殴りつけた。
そこで物凄い光景を目にすることにる。
殴られて仰け反る様に倒れた男の身体に無数の穴が開いたり切り傷などが次々と出来ていく。それは俺が見たこの男の非道な行い全てが自身に降りかかっている様だった。
苦しみもがき、すざましい悲鳴染みた声が収まると、見るもおぞましい肉塊に成り代わった。
俺自身が驚く中、今の光景を目の当たりにした生き残った野盗達は悲鳴をあげて次々と痛む箇所を押さえながら命乞いをしてきた。
「サハラさん今のは……」
うん、俺これ知っているのと少し違うけどわかる。最強の凶悪技じゃん。確か最強モードの緑の巨人とか、惑星を崩壊させてその時発生するエネルギーを食う魔神にすら通用するって言うあれだよな。
本当は目を見ただけで本人が今までに犯した罪がいっぺんに降りかかるんだけど、俺の場合はこの杖で叩かないといけないみたいだ。まぁ相手の目を見なきゃいけないのは一緒だな。
欠点は一度俺の脳裏にもやらかした罪を見せられるから、精神崩壊とかしなきゃいいが……
しかし創造神はとんでもない杖を俺に託したものだ。
「この杖の力みたいだな」
生き残った野盗達には2度とこんな事はしないように約束させて、開放してやることにして先を急ぐことにした。
移動しながら杖の力を考えてみる。
確かにこの杖の力は創造神が想像しただけあって非常に強力だ。俺が相手の目を覗き込み罪を垣間見て断罪し、杖で殴りつければ贖罪される。
つまり罪が重ければ重いほど確実に死ぬ。そして罪なき者には効果がないとなると、無意味に殺さないで済む。
それでも倒さなければいけない相手であれば通常通り戦えばいいだけだから問題ないだろう。それに通常通りの戦いにおいて折れる心配もなければ、重い一撃も衝撃なく受け止められるのも十分すぎる力だ。
……罪が重ければ重いほど効果が増す……か。
「ねぇサハラ、何かいい事でもあったの?」
「ん、何でだ?」
「なんか嬉しそうな顔してる」
気がつくとニヤついていたようだ。
……レグルス、貴様がどんな死に方をするのか今から楽しみだ。




