特攻隊結成
第8章最終話です。
勝ち目がないーー
グランド女王すら神算鬼謀の才能の持ち主【商売の神ニークアウォ】が相手となると恐怖からか体を震わせていた。
そんな中ヴォーグが不思議そうな顔をしながら口を開いた。
「俺達の敵はレグルス、アロンミット、ニークアウォだけだろう。
兵士達はなんとか抑えて精鋭をぶつけて頭を叩く。それだけの話じゃないのか?」
この場にいる全員がヴォーグを見て何馬鹿な事を言っているんだコイツはとでも言いたげな顔を見せている。
そんな中、俺を含め数名頷く者がいる。
「確かにそうだな。俺の敵はレグルスただ1人だ」
「レグルスの背後には上位種の悪魔と悪鬼もいる。我が友サハラ、我も付き合おう」
「私ももう離れません」
「もおぉしょうがないなぁぁ」
“俺はサハラと契約で結ばれている。何処までも付き合うぞ”
それは俺を含め不死者の王こと不死王、【魔法の神エラウェラリエル】、ハイエルフの女帝セーラム、氷の最上位精霊の氷狼フェンリルだ。
「決まりだな、雑魚は俺が引き受ける。
サハラ、その時は……しっかりケリをつけてこい」
不安が残る中、第一陣は魔導兵達の天候操作で麻薬を抑えることできまり、本陣が来たら兵士達は俺達特攻隊以外で抑えることで決まった。
一度解散となった時に鍛冶の神であるトニーとスミスの2人に頼み事をするため呼び止める。
「2人に頼みたいことがある」
無駄になるかもしれない。だがいずれは役に立つだろうと2人にある武器の製作をお願いした。
「絶対に壊れないか。残念だが神鉄アダマンティンが俺らには限界だ」
「もっともそれ以上の硬度の金属は知らんぞい」
それで十分だと告げると、製作期間は1月だと言われた。良い炉が必要らしいためソトシェア=ペアハに行く必要があるらしく、護衛を兼ねてキャスにお願いした。
「サハラ、一体そんな武器を作ってもらってどうするつもりなの?」
「期待外れになるといけないからな。後で教えるよ」
キャスにはそう言ってその場を後にした。
次にヴォーグの元に行き、しばらくここを離れる事を伝えに向かう。
「まぁ本陣が来るまで出番はないから構わないが、一体何処に行くんだ?」
「まぁちょっとな」
ヴォーグは首をかしげていたが、好きにしろと言ってくれた。
残すは人選で、正直なところ俺1人で十分だと思っている。だが……エラウェラリエルは絶対についてくると言うだろうし、居ない間に何かあっても困る。そして何より特攻する仲間の強さも知っておきたいと思った。
「不死王、行きたい場所があるんだが、ついて来てくれるか? お互いの力もある程度知っておきたい」
不死王は友の頼みは断らない、と行き先なども聞かずに了承してくれる。不死王が何故にここまで俺に尽くしてくれるのかは不明だが助かることに変わりはない。
不死王がリリスに留守を任せていたついでに、レイチェルを守ってもらえるように頼むと「義理とは言え姉ですわ」と了承してくれた。
最後にセーラムを探していると駆け寄ってきてハイと袋を渡してくる。中を見るとエルフの携帯食がタップリ入っていて、どういう事か聞くとなんとなく必要な気がしたと言ってきた。
「セーラムもさすがエルフだな。お前も一緒に来てもらいたいが強制はしないぞ」
「それ私の分も入ってるんですけどぉぉぉ」
どうやらついてくる気満々のようだった。
これで特攻隊全員が揃った為、目的を俺が使っている部屋で話すことにした。
「明日、赤帝山に向かう」
「赤帝竜さんですか?」
即座にエラウェラリエルが答えてくる。頷いて答え、まだ竜の聖域から戻っているかは不明であるがウィンストン公国の冒険者ギルドで目撃情報があった事を話した。
「不明確だな。だが赤帝竜がいたらどうするつもりだ?」
俺と赤帝竜の関係を知らない不死王が、珍しく難しい顔を見せた。
「赤帝竜を味方につける。と言うよりも俺がこの世界に来た時一番最初に出くわし、いろいろと手を貸してくれたのが赤帝竜なんだ」
これには流石の不死王も驚いた様子で、そしておもむろに笑い始める。
「赤帝竜が、か」
そう笑いながら不死王が言った。なんでも不死王が不死の象徴だとすれば、赤帝竜は大惨事の象徴のようなものらしい。
「一応行き先は秘密にしておいて欲しい」
「中途半端な期待をさせたくないからでしょ?」
“俺がいて赤帝竜は大丈夫なのか?”
「説明すればわかってくれるさ」
「貴様といると飽きがこなくていい」
誰も反対意見は出ることなく決まり、明日隠密で向かうことになった。
打ち合わせも終わり部屋を出るとシリウスとアラスカとキース、そして7つ星の騎士団が待ち構えていた。
「サハラ、我らも準備はできている」
どうやら俺が仲間を連れて何処かに行こうとしているのに気がついたのだろう。あるいわヴォーグの奴が口を滑らしたか……
「すまないがお前達は連れては行けない。お前達にはここマルボロ王国をなんとしても死守して欲しい」
「理由は……聞いても答えてはくれそうにないな」
「シリウス済まないな。それと俺がいない間、新たな評議員を決めておいてもらいたい。3名はシリウス、キース、アラスカ、お前達がやれ」
「「「はっ!」」」
「残りはお前達が選抜して決めて欲しい」
7つ星の騎士達は俺に「マスター様と共にあらんことを」と全員が利き腕を背中に回し当て、残った片腕を胸に当て頭をさげると移動していった。
不死王は気がつけばいなくなっていて、フェンリルもピアスに戻った為、俺とエラウェラリエルとセーラムだけになった。
「あっ! そうだ。サハラ、私準備するものあったんだ!」
俺の返事も待たずにセーラムはどこかに行ってしまう。セーラムなりに気を使ってくれたんだろう。
「どう、しますか?」
俺と色違いのローブを着たエラウェラリエルが2人きりになって俺の顔色を伺うように聞いてきた。
「デート、と言いたいところだけど……王都はおそらく砕け散った水晶だらけだろうしな」
かといってこのまま王宮に留まるのも勿体無い。それとは別に俺にはひとつ気がかりなことがあった。それは最後の1人である【守護の神ディア】の行方だった。もしディアも敵に回っていたらと考えると、レグルスは戦力外としても、アロンミット、ニークアウォの3神を相手にすることになってしまう。そこに悪魔と悪鬼が加わるとなると、いくら赤帝竜が加わったとして5人で特攻はかなりのリスクがあるだろう。
手に持つ見た目にはなんの変哲もない杖を見る。トニーとスミスは断罪し贖罪する力があると言っていた。
「部屋に戻りましょうか?」
気がつかないうちに考え事で立ち止まっているとエラウェラリエルが声をかけてきて我に帰る。
ゴメンと謝ってからエラウェラリエルの手を取って、適当に広い王宮の庭を歩いて回りながらエラウェラリエルに相談する事にした。
「この杖、断罪と贖罪の力があるって言っていたよな、断罪……つまり罪を判決する事」
「贖罪は罪を償う事ですね」
「罪を判決し償わせるという事なんだろうか?」
「サハラさんらしい武器とも言ってましたよね」
エラウェラリエルが手を離して腕を組んでくる。腕に胸が当たって心地よい……
それでふと思い出した。以前一度ヴォーグの股間をこの杖で叩いた事がある。もちろんぶっ潰すような力じゃなく痛い程度だった、にもかかわらずヴォーグはぶっ潰れたかと思ったと言っていた。
「ウェラ、もしかしたらわかったかもしれない」
ハテナが浮かんだような顔で俺を見つめ返したが、すぐに笑顔を向けてきた。
結局夜まで王宮の庭を散歩したり、芝生で座って話をして過ごし、夜に部屋で2人きりになって俺からキスをする。
「ウェラ……」
抱きしめてベッドに押し倒したところでエラウェラリエルが俺に謝ってきた。
「気持ちの整理がついて、私の事をちゃんと見れるようになってから……それからじゃダメですか?」
「……わかった」
口ではそう言ったけど、心の中で泣いたのは秘密だ。
だけどウェラの気持ちを思えば当然の事だし、アリエルのケジメだけはしっかり取らないといけない。
……絶対にだ!




