ブラッデェマスク
グランド女王の言葉に騒つく。
一度収まるまで待ってからグランド女王が言葉を続けた。
それによると既にグランド女王は大局を見据えていて、7つ星の騎士団自治国及びメビウス連邦共和国はレグルスの手に落ちているだろう事を話す。加えて草原の民と言われる遊牧生活の蛮族達も含まれていて、レグルスの口車に乗せられてしまっているとグランド女王が言った。
「それはつまりキャビン魔道王国とセーラム女帝国以外全てが敵に回ったという事かなグランド女王?」
「いいえ、サハラ様のお陰でロミオ・イ・フリエタのドワーフ王国は場所を変えたので無事ですわ。
ウィンストン公国も今はフィリップ侯爵が主導を取って国の防衛に尽力しています」
ウィンストン公国は防衛に適さない国なので降伏する可能性が高いですが、とローラをチラッと見て付け加えた。
「そうなるとセーラム女帝国とキャビン魔道王国は安全を確保したわけだ。 となるとウィンストン公国の次はここって事か……」
「ええ、ですからこうして私が参ったのですのよ」
「策がある、という事か……どうしたらいいので?」
グランド女王が言うには、ここマルボロ王国まで攻め寄せるまで少なくとも一月、だが相手も俺たちがいる事を知っている。そして本隊が来るまで三月は掛かるだろうと言う。
「最初に侵攻してくるのはおそらく捨て駒よ。そこできっと麻薬を使ってくるわ。
そして疲弊したところを見計らって本軍が到着するといったところでしょうね」
「ふむ、とりあえず俺らはその第一陣をどう対策をとるかか」
グランド女王が俺を見てくる。
「サハラ様の力を頼るしか無いわね」
これはきっと始原の魔術の事を言っているのだろう。今の俺は【自然均衡の神スネイヴィルス】の代行者ではなく、創造神の執行者で世界の守護者だ。
その為グランド女王に始原の魔術が使えるか分からないとその成り行きを説明すると、さすがに予想外だった様で考え込みだしてしまった。
「一つ案がありまする……」
ポットがそう言うと皆んなの目が集まった。
ポットが考えたのは難しい事じゃなく、雨を降らせ続けられればほぼ効果はなくなるというものだ。しかも土砂降りである必要はなくシトシト雨程度で良いらしい。
「あとはこうして手ぬぐいを濡らして口元を塞いでおけば簡単に防げますです、はい」
「ほぉ! さすがだ宮廷薬師ポット」
「お褒めに預かりありがとうございます」
そこで俺はある事を思い出し、創造神に心の中で謝罪してからポットのあとに続いて口を開く。
「ならば、落ちたりしない様にマスクをする様にさせよう!」
俺のこのマスクの発言で皆んなが首をひねる。通常マスクと言えば舞踏会などで顔を隠すものを指す。その為首を捻られるのは当然の事だ。
物は試しと鞄からブラジャーを取り出し、予め先にあくまでイメージだぞと念を押してから、カップを重ねて口と鼻を覆い紐で結んで固定してみせる。
「サ、サハラ……さん」
「サハラ……」
「うわ……最悪」
「あらまぁ……」
「変態の所業だな」
一斉に女性達から非難やら変態だのの声が上がった……
そんな中ヴォーグが聞いてくる。
「それサーラのか?」
「レイチェルが付けろとうるさかったからな」
「思った以上にデカいんだな」
「そっちかよ!」
するとやっと飲み込めたのか、俺が女体化した時のものだとわかって納得はした様だが……
「その発想はさすがに変態チックよ、ん?」
ウンウンと頷かれてしまい、ウェラすら少しひいている。
しかしここでめげたら本当にただの変態で終わってしまいかねない。その為、ブラジャーを水で濡らして呼吸もしっかり出来て防げる事、そしてあくまでブラジャーは形だけの代用である事を力説するしかなかった。
もっとも2つ重ねて水に濡らすと少し苦しかった為、そこは改良が必要になってくるだろう。
「……という感じで、つけたまま戦闘も可能なんだぞ!」
シーンとなったままの空気に耐えきれなくなってくる。
それを救ってくれたのが未来からやってきたアルことブリーズ=アルジャントリーだった。
「それが原型でありんしたことには驚きんしたが、未来の戦士の中には確かに身につけてありんす人もいんした 。 砂塵を吸うのを防いだり、中には水中呼吸の魔法効果が付与されたものもありんしたよ」
アルの事を知る者はおおぉおと声を上げ、知らない者もなるほどと声が上がった。
「ほ、ほらな、だからコイツを改良してやってマスクを作れば、子供から老人まで安心だ!」
この波に乗るんだとばかりに付け加え、汚名挽回を図るように必死になる。ポットとペーソルが調合の時にも役立ちそうだと言い始めたことで何とかなりそうな雰囲気になった。
「よし! 直ちに命じて作らせよう。どこをどう改良したら良いか説明してくれ」
ヴォーグがそう言った事で何とかなったようだ。改良ポイントを説明していき、それを早速製作に入らせるように命じる。
一息つけたところでウェラが俺をつついてきた。
「もう外した方が良いと思いますよ?」
口を指差してそう言ってきた。
その数日後には次々と生産されていき、不要な時は顎の下に下ろして歩く人が目について行くようになっていったのだった。




