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キャビンの名にかけて

 キャビン魔道王国の魔道兵に連れられて行く中、自身の状況を把握し打開策を考える。心配するものは当然牢屋に入れられるのだから荷物の心配だ。時間的に見ても明日にならないと話も取り次がれないだろう。


 ふと辺りを見回しフェンリルを探すが姿が見当たらない。おそらくピアスに戻ったのだろう。


 そして王宮まで連れて行かれたところで、魔道兵に声をかける。


「キャビン魔道学院の学長を呼んでもらえませんか?」

「もう寝ている。明日にしろ!」


 聞く耳を全くもって持つ気配が感じられない。


「じゃあ、キャビン=グランド女王を呼んで欲しい」

「貴様何様のつもりだ! 女王陛下を呼ぶだと? ふざけるのも大概にしろ!」

「後悔しますよ? 今日の俺は非常に機嫌が悪いですからね」

「後悔なら牢屋で勝手にしていろ!」


 そう言って俺の荷物を剥ぎ取ろうとする。先ずは鞄を取り、中を調べようとするが手を入れられず驚く。


「これはセキュリティつきのホールディングバッグか? なんでこんな物を……」

「学長か女王を呼んで貰えば分かりますよ」

「うるさい! 次はその手につけている指環だ!」


 俺の小指につけている、エラウェラリエルとお揃いの指環を引っ張り出した。



「なんだ? 抜けないぞ……」


 その時指環が光る。指環を掴んで引っ張っていた兵士は驚き手を離す。こんな事は今まで一度もなかったため俺も驚き、何事かと思っていると1人の老いた女性が現れた。



「いきなり呼び出されて来てみれば……ここは兵舎ですか? 一体なぜここに……」

「じょ、女王陛下!?」


 魔道兵達が一斉に敬礼をする。そんな中女王が俺を見つけると一度大きく目を見開いた後、俺の方へ近づいてくる。


「女王陛下! その者は罪人です!」


 その言葉を聞くとグランド女王は立ち止まりその兵士を睨みつけた。



「このお方が罪人とは……知らなかったとはいえお前は万死に値しますよ」

「は?」

「この方は序列第1の【自然均衡の神スネイヴィルス】様の代行者サハラ様です。この方を怒らせたら、この国を始原の魔術で吹き飛ばすのも造作でもありませんよ!」


 いや、いくら怒ったからといっても、誓ってそこまでしませんってばーー


「お久しぶりですサハラ様。あの頃と全くお変わりがないようで。それと兵が無礼を働き、失礼をいたしましたことを深くお詫びいたしますわ」

「いえ、こちらこそ助かりました。しかしなぜここへ?」

「このような事は生まれて初めてでよく分かりませんが、直ちにここに行くようにと【魔法の神エラウェラリエル】様から神託が来たのです」

「そう、ですか。

ウェラありがとう……」

「そう言えば確か、サハラ様は【魔法の神エラウェラリエル】様とは神前、恋仲だったそうでしたね。納得です」


 俺と女王の会話がもはやとんでもない内容で、兵士達全員が呆然とし、俺を引っ捕らえてきた兵士に至っては泡を吹いて倒れ出してしまっていた。


「とりあえず助かりました。それと……俺の事は内密にして欲しいのですが……」

「なるほどそうですね。分かりました」


 言うなりグランド女王が魔法を詠唱し始める。


忘却(オブリビオン)

この方は私の客人です。そして今日この事は忘れなさい」



 そう女王が言うと兵士達は何事もなかったように通常任務に移り始めた。


「さすがはキャビンの血を引く者ですね」

「お褒めにあずかり光栄ですわ。さぁ王宮の方へ参りましょう。そして話をお聞かせください」


 俺は女王に手を引かれながら王宮へと誘われて行った。


 女王の部屋らしい場所に連れて行かれると、もう夜も遅いというのにお茶や菓子が用意される。



「念の為、どういう経緯かはお聞かせくださいますね?」


 俺は頷きグランド女王に事の経緯を説明した。


「なるほど……転生者でしたか」

「転生者の存在を知っていたのですか?」

「もちろんですわ。だってーー」

「僕の生まれ故郷だからね」


 そこへ学長(キャス)が姿を現した。


「なんでキャスが? 極秘だかで何処かに行ったと聞いたぞ?」

「なんでって、エラウェラリエルさんにサハラを助けてあげてって言われたし、知っていればすぐにでも行ったよ?」

「そうか……キャスありがとう。それとウェラには感謝しても仕切れないなぁ」



 これはきっとウェラがくれた機会だろう。キャビン魔道学院の学長でもあるキャスに、キャビン魔道王国のグランド女王が味方につけば……あのサイコ野郎もおしまいだ!



「うんー。それにしてもエラウェラリエルさんの寵愛を受けてるサハラを、エラウェラリエルさんのお膝元でこんな事したら、レグルスは大変な事になるなぁ」

「そう、なのか?」

「おそらく、レグルスは魔法を使えなくされるでしょうね」

「だねー」


 それを聞いてウェラを怒らせるような事をするのは絶対に辞めようと心に誓ったのは言うまでもない。


「それで、こうなってくると何か策でも講じているんですか?」

「いえ、考えるのはいつも俺よりもアリエル……に任せることが……多かった……っぐ……っく」


 アリエルの名前を言った瞬間、不意に涙が溢れてしまう。


「サハラ……」

「……ではキャビンの名にかけて最高の策を講じて見せましょう」


 グランド女王が目を瞑りながら考え出し始め、時折俺とキャスに目を瞑ったまま尋ねてきてまた黙って思案している。


 あれからどれぐらいの時間が経っただろうか? 深夜になるにも関わらず2人は俺に付き合ってくれる。


「ダメ、ですわね……」

「そうですか……」

「サハラ様に負担を与えないようにすると、どうしても穴があいてしまいます」


 え? と聞き返すと、グランド女王がニコリと微笑み策を話し始める。


 先ずは洗脳されているアリエルと、同じく洗脳されていると思われる4人の身柄の安全を確保すること。次に洗脳する術が何によるものか。ここでどうしても俺がアリエルの視界で探ってもらわないといけないのだそうだ。


「それなら魔法の目を使えば良いんじゃない?」

「これは一度であっても監視されている事が見つかると上手くいかないのよ。おそらくアリエルさんは彼を守る為に見つければ報告してしまうでしょうね」

「分かりました。俺が、俺が見ます」


 そう言うとグランド女王が頷く。


「見るのはまず朝、次に適度にちょっと覗くだけで良いわ。その時移動した場合は移動先を覚えておいて頂きたいの。

それとサハラ様は兵舎に連れてこられた時に暴れて、独房に入れられた事にさせて貰いますわ」

「え? では俺はただ待っていろという事ですか?」


 そう言うとニコリとグランド女王が微笑み、魔法を詠唱した。


「え?」


 姿見を持ってこられると、そこには女になった俺がいた。


「その姿懐かしいね、サーラ?」


 笑いながらキャスが言ってきた。それはもうかれこれ60年以上前に女体化した時の姿で、一気にあの頃の事を思い出して吐き気を催す。


「これがもう一つのサハラ様の負担です」


 そう言って説明してくる。俺が逮捕され独房に入れられたことで所在を遮断し、そして初めて出会った姿を見せ、アリエルの動揺を誘う事で洗脳が弱まるかもしれない事と、もしかしたらレグルスが俺に手に入れようとしてくる可能性もあると言うのが理由だ。


「キャス様には特Aクラスの割入生として休日明けからサハラ様を入れてください。サハラ様は無理にレグルスと接触を試みなくて結構です。いるだけでおそらく効果は十分あるはずですから」


 わ、割入生……そうか、転校するような場所なんてないもんな。



 まずはこの休日、とにかくアリエルの視界で洗脳に使った術を何とか探るように言われた。グランド女王の話では必ずこの休日中にレグルスは何かをするはずだと言い切った。



「老いた私に最後の最後に代行者様のお役に立てる事、非常に嬉しく思います。亡き母、アテンダントもきっとお喜びになってくれる事でしょう」



 話がまとまり、俺は休日の間女王の侍女として王宮にいる事になった。



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