人の恋路を邪魔するな!
続いて指環の方を調べる事になり、はずそうとすると2人に止められそのまま識別することなる。
「ふむ、なるほどな」
「フム、そうじゃな」
頷き合うだけで、まったくわからない。
「コイツはお前を助けたいと思う者たち全ての想いが集まって出来ている物だ」
「お前さんが本当に助けが欲しい時、形となって助けてくれるじゃろう」
これが本当であればやはりあれは本当にセッターだった事になる。
「お、お父さん……」
アラスカが涙を流しながらそう呟いた。その呟いた意味まではわからないが、悲しんでいる様子ではなさそうだ。
答えあわせが終わったのはいいが、問題は7つ星の騎士団達のことだった。
まず間違いなく7つ星の騎士団領はアロンミット達の手に落ち、支配していることだろう。
俺達が杖と指環の事を話している間に、現状7つ星の騎士団のトップになるシリウスが指示を出していたらしく、1人の7つ星の騎士が慌てた様子で戻ってきて報告をしてきた。
「報告します! 転移装置は全て破壊されていました!」
「やはり……か」
慌てる様子もなくやはりなとシリウスは頷き、ヴォーグに向き直りある提案をしてきた。
「ヴォーグ王、情けない話であるが、我ら7つ星の騎士団は評議員全員を失い壊滅状態と言っていい。
そこで提案がある。いずれは7つ星の騎士団の再建はするが、今現在は共通の敵と共闘する為皆の住居を賄ってはいただけないだろうか?
その期間のみであるが、我ら7つ星の騎士団はマルボロ王国に忠節を誓おう」
7つ星の騎士団は見返りも求めず、正義と平和の為だけに戦う中立的存在だ。その7つ星の騎士団がマルボロ王国に忠節を誓うという事は、いくら一時的とはいえその忠義に反することになる。
シリウスの提案は生き延びた7つ星の騎士達にも動揺が走った。
「シリウス卿! この中では確かに貴方が最高位になる。しかしだからと言って7つ星の騎士団の教義に反する様な行為は認められないですぞ!」
7つ星の騎士の1人がそう叫んだ。
だが、7つ星の騎士団の住居は敵の手に落ち、転移装置は破壊されて各地への移動と連絡手段が困難となり、実質身動きが取れなくなった状況にある今、他に何か考えがあるかとシリウスが言うと納得はいかない様であったが黙るしかなかった様だ。
だが……
「悪いがその提案は断らせて貰う」
シリウスが相当な覚悟を持って望んだ提案をヴォーグはバッサリと切り捨てた。
「何故だ! 我らが忠節を誓えば……」
手を挙げてヴォーグがシリウスを諌める。
「忠節なんかいらない。いやむしろ7つ星の騎士団を味方につけたなどと思われて、残った諸侯がアロンミットにつかれでもしたらそっちの方が面倒だ。
だからこう言うのはどうだ?
評議員のいなくなった7つ星の騎士団は、一時マスター様に付き従って行動することにした」
ニヤァと悪い顔をしながら俺を見て言ってきやがった。
「ヴォーグ、お前!」
そこまで言いかけた所でババッと整列して足並みを揃える音が聞こえ、恐る恐るシリウス達7つ星の騎士団の方に顔を向ける。
全員が利き腕を背中に回し当て、残った片腕を胸に当て整列していた。
「「「「「我ら7つ星の騎士団、マスター様と共にあらんことを!」」」」」
……俺はフォースかよ。
で、結局見放すことのできない俺は、生き残った7つ星の騎士団を率いる将の様になってしまうわけだ。
その時点で陽が傾き始めれば宿の心配をしなくてはならない。7つ星の騎士団は中立的立場を尊重する為、よほどな理由でもない限り王宮での宿泊はありえない。
「そこは安心してくれ。マルボロ王国で神を保護しているその護衛、という名目でここにいるってことにしておけばいいだろ?」
なるほどなとシリウスが頷いた。
7つ星の騎士団を1つの国が抱えるというのは問題だが、国ではなく神を護衛しているという名目であれば文句は付けられない。
7つ星の騎士団には手狭になるが、賓客用の部屋を1部屋片付けてそこで厄介になることになった。片付けは侍女にとヴォーグは言ったが、それをシリウスが自分達の事は自分達でやると断った。
その日の夜、夕飯も終えて侍女長室に戻った俺とエラウェラリエルは、ベッドに2人腰掛け寄り添い合う。
「ウェラ……」
ようやくこの時が! と思ったその時ノックする音が聞こえてくる。
俺があからさまにガッカリした表情を見せると、ウェラはクスクス笑いながら俺の頭を撫でてくる。
苛立ちを抑えて扉を開けると、そこにはシリウスとアラスカ、それと他3人の女性が勢ぞろいしていた。
「どうしたお前ら」
「まさかサハラは我らに男が集まるあの部屋で一緒に寝ろとでも言うのか?」
「今まで騎士団領ではごちゃ混ぜじゃなかったのか?」
「マスター幾ら何でも流石にそこまではないです」
もうだいたい予想はついたが、確認の為に聞いてみる。
「それでどうしろと?」
「マスターの部屋で休ませてはいただけないだろうかと」
大正解である。しかしだからと言ってハイどうぞとはこっちも言えない。
「俺も一応男なんだが?」
「サハラであれば皆も構わぬそうだ」
アラスカは置いといて、初めて見る3人の7つ星の騎士の女性をチラッと見るとペコリと頭を下げてきた。
……ぅおのぉれぇぇ。
ちょっと待ってろと言って一度扉を閉める。素早く服を脱ぎ捨て変幻自在で女体化し、侍女長の服に着替えてから扉に向かい開け放つ。
「それでは参りましょう」
シリウスは勿論、アラスカや3人の7つ星の騎士の女性達が、え? え? となりながらも俺の後に続き、1つの賓客用の部屋の前でノックする。
「はい、何でありんしょう?」
そこはアルに割り当てられた賓客用の部屋で、他に一緒にベネトナシュとローラもいる。一応アルとベネトナシュがローラの警護という形らしい。
「……サハラ、さん?」
「部屋の広さには余裕があると思うので、こちらであと5人お願いします」
「あ、はい。わかりんした?」
突然の事でアルは勿論の事シリウス達も呆気にとられて、はぁと素直に従って中に入っていく。
じゃあ、あとよろしくーと言わんばかりに逃げる様にさっさと戻ろうとすると、シリウスに掴まれ止められてしまう。
「私は、サハラの部屋がいいのだがな?」
「俺はウェラと2人きりになりたいんだがな?」
邪魔すんじゃねーオーラ全開で言い返してやる。
「シリウス卿無理はやめませんか? マスターも困ってますから」
アラスカが何お前1人だけ抜け駆けしようとしてんだオーラを出しながらシリウスに詰め寄る。
話のやり取りを聞いていたアルが首を傾げながらボソッと爆弾発言をする。
「シリウスさんはパーラメントさんが好きなんではないんでありんすか?」
シーンと静まり返り、全員の目がシリウスに集まる。当の本人、シリウスは何故!? という顔をしていた。
「そうでしたか」
「どういう事だサハラ!」
「詳しく知りたい様でしたら、こちらのブリーズ=アルジャントリーにお聞きすれば宜しいかと」
納得する回答を得れなかったシリウスはアルに詰め寄り出し、その隙に俺は部屋に戻るのだった。
「ウェラ待たせたな……」
だが、既にエラウェラリエルは気持ちよさそうな顔で深い眠りについていた……
神と言ってもウィザードであるエラウェラリエルの睡眠を邪魔すると翌日の魔法の記憶に影響が出る為、俺は泣く泣く静かに眠りにつくのだった……




