杖の秘密
マルボロ王国に戻り、事の成り行きをすぐにヴォーグ達に報告する。
【勝利の神アロンミット】が敵に回った事と7つ星の騎士が壊滅状況で逃げてきた事に驚きの声が上がる。
特に【鍛冶の神トニー&スミス】の2人と【愛と美の神レイチェル】の驚きようは凄かったが、これにより俺が告げたレフィクルの妻を殺したという話も信憑性が増した事だろう。
「しっかしよく【勝利の神アロンミット】の追跡から逃げ切れたな」
これは魔導門が消えるまでにアロンミットがついてこなかった事を言っているんだろう。
「……父が、セッターが助けてくれました」
アラスカが事実を答えるが、実際に目の当たりにした俺とアラスカとキース以外は、何バカな事を言っているんだとでもいう目を向けてくる。
「気持ちはわかるけど、セッターはもう昔に……」
レイチェルが事実を述べる。何しろレイチェルはセッターの死を迎えた場所がこの部屋だからだ。
「そうよ、お兄ちゃんはもう……」
そして同じくその時その場に居合わせていたセーラムは思い出す様に涙ぐんだ。
「イヤ、アラスカの話は本当です」
アラスカと同じく目にしたキースがアラスカの肩に手を乗せ真実だと告げ、俺を見てくる。
あまり言いたくはなかったが、指環の事を話す事にした。
「レイチェルとエラウェラリエルとトニーとスミスは知っていた事なんだが……実はな、俺はもう【自然均衡の神スネイヴィルス】の代行者じゃないんだ」
当然知らなかった面々が驚きの表情を見せてくる。その中にアルも含まれている事から、未来との違いが生じているのだろう。
「俺は今、創造神の執行者である、世界の守護者になっているんだ……」
ええっ! えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえっ!
部屋中に驚きの声が上がり、俺に全員の目が集中してくる。
「で、その世界の守護者って言うのは何なんだ?」
ヴォーグが正直に聞いてくる。他の連中もわかっていない様で、ジッと俺が答えるのを固唾を呑んで待っている。
どうやら創造神の執行者と世界の守護者という言葉だけで驚いただけの様だった。
「……正直なところ、よくわからないんだ」
一斉にため息がこぼれた。
ただその後に創造神に賜った指環と杖を見せ、それが俺の為だけに創造してくれたものだと話す。
「ちょっと杖の方を見せて貰えるか?」
指環と杖の話を知らなかったスミスが杖に興味を持ち、見せて欲しいと言ってくる。
俺も杖の性能を知らなかったため、良い機会だろうと手渡した。
「ぬ……ぐおぉぉぉぉお!」
カタンッと杖が地面に倒れて転がる。
「オイ、スミスよ、何をやっとるんじゃ!
人の武器を落とすなんぞ鍛冶職人しっかぐうぅぅぅぅぅうおぉぉぉぉぉおおっ! ウゴッ!」
床に倒れて転がる杖を持とうとしたトニーが声を上げ、事もあろうか腰が悲鳴をあげた様だ。
「レ、レイチェルさんや、その、治療をだな……」
「まったく、なにやってんのよ」
治療魔法を使いながらレイチェルがトニーを詰っていた。
ボルゾイが続いて持ってみようとしたところでスミスに止められ手を止めた。
「どうやらそいつはサハラ、お前以外は持てない様だ」
それはおかしい。コイツはエラウェラリエルが俺に持ってきたはずだ。
エラウェラリエルも首を傾げているようで、俺が拾い上げた杖を持ってみようとしてきた。
「え、えぇえ! きゃあぁぁ!」
杖と一緒に倒れかけたところを片腕で抱き支え、もう片手で杖を掴む。
「大丈夫かウェラ」
「あ……はい、ありがとう」
顔を赤くしながら見つめ返してくる。それを治療を終えたレイチェルが咳払いをして止めてきた。
杖を机に置いてトニーとスミスがそれを眺め、手で触れるとハッと手を離す。
「何かわかったのか?」
「うむ、まずコイツはこの世界には存在しない物質だ」
「そして、とんでもない代物じゃ」
何かわかったのかと思ったのだが、トニーとスミスはそれ以上は聞いても答えない。ただ2人共杖から距離をとりだした。
「解放手段まではわからない」
「じゃが、この杖は断罪し贖罪する力を持っておる」
「断罪? 贖罪? 一体……」
トニーとスミスが俺を見つめて勝手に頷き合っている。まったくわけがわからず聞いてみると、俺らしい俺が持つべき様に創造されているとだけ教えてくれた。
「俺らしい武器……」
トニーとスミスが言うには、この杖の力が解放できたらとんでもない力を発揮する、それだけは間違いないと教えてくれた。
名付けるとするなら、贖罪の杖だと言った。
そして肝心の指環に移ることになる。




