救うに値するのか?
支度をさっさと済ませ、恥ずかしがるウェラの着替えやらを見つめながら待っていると、隣の部屋に当たるレイチェルの部屋から大きな音が聞こえてきた。
「ウェラ! 先に行くぞ」
準備が終わりかけているウェラを置いて、レイチェルの部屋に駆け込んだ。
「レイチェル無事……か……?」
足元に何かが転がっている。ボロクズのように見えるそれは、見間違うことなくヴォーグだ。
「ヴォーグ? どうした! 誰にやられた!」
ウグゥと呻きながら、何かを伝えようとしてくる。力無くなんとか聞こえる声で……
「サハラか? やっぱ、婆様じゃ……漲らなかった……ぜ……」
体を支えて起こしていた俺も放り投げるように捨てた。レイチェルを見れば胸を押さえながら息を切らせている。
「ちょっとサハラ! コレ本当に私の孫なわけ!?」
「いや、見事なまでにマルスに似ているだろ?」
ハァーと溜息をつくとヴォーグに治療魔法をかけてしっかり助け起こすあたりは、やっぱり孫が可愛いからなんだろうか?
表向きは一応ヴォーグが国王であるため、食事の時は上座に当たる場所に座り、後は思い思いの場所に座って食事をしている。
「お父さん、宮廷料理だよ! 宮廷料理。 しかも朝っぱらから。 出世したね私達」
「こらこらそう言うはしたないことは言うんじゃない。それに成果を出せなきゃ私達がいる意味はないんだよ」
ポットはなれない王宮暮らしにアタフタし、ペーソルはウキウキの様子だ。
そして場慣れしていないボルゾイとパーラメントも朝から目にする豪華な料理に驚き、料理をポロポロこぼしながらアタフタしている。
「神様も飯食うんだな」
ヴォーグがレイチェルとエラウェラリエルが食事をしている姿を見てそう呟く。
「神界にいる時は食事とか要らなかったんだけど、追放されてからまるで人に戻ったみたいなのよねぇ」
「そうですね。睡眠もしたしお腹も空きますものね」
神らしからぬ返事が返ってきた。
そこで俺が気になった事を聞いてみることにする。
「2人は追放されてから、変わったところはないのか?」
「特にはないみたい。ただたぶん神の制限は受けてそうだから、人を傷つける事なんかはできないみたい」
「俺はさっき婆様に殺されかけたぞ!」
「あれは殺す気なかったし、神罰よ、ん?」
どうやら神の制限は受けているままのようだった。つまるところ俺に近いのだろうか?
だとするならば、ある程度の実力を持った存在である事には変わりなく、そこまでして守る必要もなさそうにも思うが……
食事が終わり今日の行動を決める。
まず所在のわかっている【鍛冶の神トニー&スミス】、それと【守護の神ディア】は、おそらくロメオ・イ・フリエタだろうとボルゾイが言う。
それ以外の神の所在の内、パーラメントが信仰する【旅と平和の神ルキャドナハ】は所在どころか神殿もなく不明。
【勝利の神アロンミット】は7つ星の騎士団領自治国に神殿があったはずだとシリウスが思い出し、最後に【商売の神ニークアウォ】はメビウス連邦共和国の地下墓地の町に神殿があると聞いたとポットが教えてくれた。
問題は誰が何処に向かうかだったが、それだけの距離を瞬時に動けるものが、キャスと7つ星の騎士団が使える転移装置でアラスカとシリウスと俺、そして魔法の神であるエラウェラリエルの4名しかいない。セーラムは全ての町を知っているわけではないため、数には入らなかった。
そして思い返せば、神の姿を知るものが俺と神であるエラウェラリエルとレイチェルの3人だけしかいない。
昨日はキャスとボルゾイにと言ったが、そういうわけにもいかなさそうだ。
「俺とウェラで連れて来る。皆んなはここでレイチェル達を守ってあげてほしい」
「神を守る、ねぇ……」
ヴォーグが突然そんな事を口にする。
「なぁサハラ、婆様やエラウェラリエル、それとボルゾイとパーラメントが信仰している神までならわかる。
だけどよ、それ以外まで面倒を見るっていうのは如何なもんかと俺は思うんだがな」
普段のふざけた態度ではなく、しかも少し怒気を含んでいるように見えた。
「今悪さしているレグルスだって神の見落とで、悪魔の出現に至っては神の責任だろうよ」
「ヴォーグ! 貴方それでも英雄王マルスと私の孫なの!」
我慢しきれなくなったレイチェルがヴォーグに噛みつく。だがヴォーグはレイチェルを蔑むように見て黙らせた。
確かに創造神によって追放された理由は、神が神威ばかりにかまけて責務を果たしていなかったからで、人からすれば助けるどころか迷惑をかけた事になる。
「なぁ婆様よ、もしもの話だが……婆様が神に殺されたら、爺様は如何しただろうな?」
そう静かに、しかし怒りが篭った声でヴォーグがレイチェルに言った。
「そ、それは……」
確かにマルスももしかしたらレフィクルと同じ事をしでかしていたかもしれない。
口ごもるレイチェルもおそらく俺と同じ事を思ったのだろう。
しんと静まり返った部屋の中、誰1人としてヴォーグの事を悪く言えるものはいなかった。
しかしこのままでは話が進まない。意を決して俺が声を上げた。
「ヴォーグわかった。とりあえず【鍛冶の神トニー&スミス】は連れてきても問題ないんだろう?」
ああと返事が返ってくる。それならばと俺はウェラを連れて居場所のわかる【鍛冶の神トニー&スミス】の元に赴くと伝え、後の事は残った連中に任せることにした。
広さ的に問題のない、この会議室でウェラに頼んで魔導門を開いてもらうよう頼む。
頷いて詠唱を始めるとキャスが早い! と驚きの声を上げた。
以前聞いた事だが、エラウェラリエルの先任であった【魔法の神アルトシーム】は魔法力が強く、そして混合魔法や同時発動を得意としていた。だがエラウェラリエルにはその技術はない。しかしエラウェラリエルには高速詠唱が得意であり、その速度はアルトシームの同時発動よりも早いという。
魔導門が開くとウェラが俺の手を握ってくる。「行ってくる」と一言そう言ってウェラと一緒に門をくぐった。




