追放された神の行方
創造神の神殿を出た俺はその足で【愛と美の神】の神殿に向かう。それはただの直感だったが、神々が追放される場所はシンボルとなる神殿だろうと踏んでいたからだった。
「レイチェル!」
神殿に踏み込むと不安そうな顔を浮かべた町娘の格好の懐かしいレイチェルの姿が見える。
「サハラ!」
そう言ってレイチェルが俺に飛びついてきた。
「いの一番に私の所で良かったのかしら、ん?」
「来てやってそれはないだろう」
「言葉使いが汚いわよ、サーラちゃん?」
ハッと今の自分の姿が女性である事を思い出し佇まいをなおした。それを懐かしそうに眺めてレイチェルがニヤついている。
「と、とりあえずついてきてください!」
「はーい」
まさか誰も本物の神だとは気がつかず、レイチェルを連れて堂々と王宮に戻った。
中庭ではヴォーグとベネトナシュとローラがいて、ローラがベネトナシュにしきりに何かを説明をしている姿をヴォーグが眺めていた。
俺に気がついたヴォーグが手を挙げて近寄ってくる。
「よぉサーラ、後ろにいるベッピンさんは誰だ?」
「わぁ、サーラちゃん、ベッピンさんだって」
「ヴォーグ様、【愛と美の神レイチェル】様です」
「はぁ!?」
「ですから、レイチェル様です」
ヴォーグがレイチェルをジロジロ眺めて、おもむろにレイチェルの胸を掴んだ。
「うっきゃあっぁぁぁぁぁぁぁあ!!
何? 何? 何なのこの子は!? これが私の孫ぉ!?」
「ご存じのはずかと」
しばし間があり、ヴォーグとレイチェルが見つめ合う。
ヴォーグは俺に顔を向け、レイチェルを指差しながら「俺の婆様?」と聞いてくる為頷いて答える。
「マジか!? 婆様が何でいるんだよ!」
「その件でお話が御座いますので、中に入っていただけますでしょうか?」
「婆様……」
王宮の中にベネトナシュとローラも連れて入り、応接間に向かって歩いているとレイチェルが懐かしそうにあちこちを見ていた。
応接間でお茶を出し、落ち着いたところで3人に創造神の逆鱗に触れて神々が神界から追放されたこと説明をすると、また3人が驚きだし話が進まなくなる。
「とりあえず、そう言うわけで神々が追放されたから、一旦ここでかくまっておいてもらいたい。
俺は今すぐにウェラを迎えに行かなきゃいけないんだ」
混乱している3人にどれだけわかってもらえたかわからないが、後の事はとりあえずレイチェルに任せて部屋を出て準備を済ます。
ここからキャビン魔道王国までかなりあるが、7つ星の騎士団の転移装置を使えばすぐに辿り着ける。
王宮を飛び出た俺は、真っ直ぐに転移装置のある場所を目指すとパーラメントとアルに出くわした。
「サハラさんそんなに急いでどうしたんですか?」
「説明は後だ。今すぐにキャビン魔道王国まで行ってくる」
「サハラ様待ってくんなまし、キャビン魔道王国は今結界が張られていて入れなかったはずじゃなかったでありんすか?」
……そうだった。すっかり忘れていた。
「今キャビン魔道王国にはキャスさんが行っているのですから、何も心配ないと僕は思いますよ」
そう言うわけじゃないが、説明していないから当然の答えなんだろう。
俺の慌てている姿にパーラメントが何か感じたのか聞き返してきた。
「それとも、何かあったんですか?」
あの話をこんなところでするわけにはいかないため2人を王宮まで連れて戻り、レイチェルに合わせたところでアルが「あっ」と声を上げた。
「サハラ様なぜレイチェル様がここにいるんでありんすか?」
「えっ! 【愛と美の女神レイチェル】様!?」
「アルがこの事態を知らないのか?」
アルが首を振って答える。
そこで創造神の逆鱗に触れた神々が神界を追放された事を話すとヴォーグ達の時の様に2人が驚く。
「まだ……まだ早い……未来はこれでまた変わったのかもしりんせんけど、こなたの事はもつとも後に起こるはずでありんす……」
特にアルが驚き、この事態が今起こる事じゃないと口にした。どうやら少しづつ変えていった事でアルの知る未来はどんどん大きく変わってきている様だった。
どちらにせよキャスがいない以上キャビン魔道王国に入れそうもない。仕方がないとはいえイラつきながらキャスが戻るのをただただひたすら待つしかなかった。
日が暮れかけた頃、1人を除いてみんなが揃っている中、最後にキャスが戻ってきた。
「キャス! 今すぐ俺をキャビン魔道王国まで連れて行ってく……れ……あ……」
キャスの後をついて俺と色違いのローブを着たエルフが姿を見せる。それは見間違う事などありえない。
「ウェラ! 何でここに?」
「サハラぁ、僕はこれでも一応【魔法の神】の代行者だよ?
大体の話はエラウェラリエルさんに聞いたからわかってる。遅くなったのもグラント女王に話をしてきたからなんだ」
キャビン魔道王国が結界を張って部外者が入り込めないのを知っていたエラウェラリエルは、ちょうどキャスがいるのに気がついて呼び出したのだそうだ。
有無を言わさずウェラの無事に喜び抱きしめる。ウェラも恥ずかしそうにしながらもそっと軽く腕を俺の身体に添えてくる。
「ウェラぁぁ! 実に、実に久しいぞ!」
そしてもう1人エラウェラリエルを懐かしむ声を上げる者がいる。もちろんボルゾイだ。
顔からは懐かしさから涙、鼻水、そして何故かヨダレまで垂らしていて、はっきり言って気持ち悪い。
ウェラは俺から体を離しはしたが、手を繋がれてボルゾイの側まで行き、懐かしむ様に話し出した。
やっぱりキモいからなのだろうか? そして何か悪寒のようなものが走った為振り返ると、すぐに視線を逸らしたが一部女性達から睨まれている様に見えた。
落ち着いたところで話を始め、もう一度今度はしっかりと先の大戦の原因に神が関わっていた事、神威を高める事を優先しすぎたあまり、麻薬の事をおろそかにした事で神々が神界を追放された話をした。
「ねぇサハラ、あの事は言わなくてもいいの?」
レイチェルがワールドガーディアンの事を聞いてくる。これに関しては理由はないが何となく黙っていたい。
「その話は俺自身の問題だから別にいい。それよりも……」
「サハラさん! 僕は【旅と平和の神ルキャドナハ】の神官戦士として【旅と平和の神ルキャドナハ】様をお救いしたいです」
「儂もじゃ! 【鍛冶の神トニー&スミス】の神官戦士としてお守りせねば!」
当然2人が言ってくるだろうというのは想定していた。だが問題があり、【鍛冶の神スミス&トニー】はドワーフの国“ロメオ・イ・フリエタ”にいると分かっていたが、【旅と平和の神ルキャドナハ】の所在が掴めない事だった。
「【鍛冶の神スミス&トニー】の2神は明日にもボルゾイとキャスで迎えに行ってもらうとするか。だがもう1人の神は……」
「ルキャドナハは旅の神でもあるから特定の場所が無いのよね」
レイチェルが後を続けて言った。
ヴォーグの提案でとりあえず全ての所在がわかる神だけでも保護しようという事で話は決まった。
だがこの時ヴォーグはあまり良い顔はしていなく、どこか嫌そうにも見えた。




