城塞都市ヴァリューム領主ノーマ
まずはローラを落ち着かせる為、妖竜宿に向かう。
俺が宿に近づくとシャリーが待ち構えていて、既に部屋の準備がされていた。
「シャリーさん、いつも助かります。
此処なら絶対に安全だろうから、皆んなは此処で待機していてほしい。俺は……」
「サハラ王様ぁ、御託はいいので人数分の宿代を払ってから出かけてくださいねぇ」
まだ落ち切らぬ陽の中ヴァリューム領主の館に向かう。入り口で兵士に声をかけて領主に会いに来たと言うが当然怪しまれる。
「今のヴァリュームの領主はノーマでは無いのか?」
「貴様! 領主様を呼び捨てるとは……」
「そうか、ノーマがまだ生きていたか。ではノーマに伝えてくれ、サハラが会いに来たと」
俺が堂々と言った為か兵士は旧知の知人か何かと勘違いしてくれたのか取次に向かってくれた。
そしてしばらくすると、忘れもしない馬鹿でかい声と足音が近づいてくる。
「さぁぁぁはぁぁぁらぁぁぁ!」
さて、と俺は耳を塞いで待つと、ドワーフとしてはありえない2メートル近い姿が近づいてきた。
「久しいな! 久しいぞ! 何十年ぶりじゃあああああ!」
耳を塞いでいても貫通して響く馬鹿でかい声で俺の元に来た。
「久しぶりですね、ノーマ。久しぶりで話し合いたいところですが……」
「分かっておる! こいつのことであるな!」
そう言ってノーマの手に麻薬が握られていた。まさかノーマもと心配したのだが……
「こんなものの匂いを嗅ぐぐらいなら酒をかっくらっておった方が……数千倍いいのである!」
という事だそうだ。
早速ヴァリュームで起こった事を説明するとノーマは兵士に命じて麻薬の使用禁止令を発せられる。その一報は隣の町であるヴィロームの領主にも早馬が出された。
「間に合わぬものも多くいるであろうが、少しでも間に合う事を期待するほか無いのである」
時間は惜しかったが、どうしても一つだけ確認しておきたい事があった。
「ノーマ、一つだけ聞きたい事があります」
「なんであるか?」
俺はポットから聞いたレフィクルの事を尋ねてみた。するとノーマがため息をついた後、レフィクルの妻を手にかけたのは間違いなく神であると言った。
「しかし神は人を殺せないはずでは……それになぜ神だと証明できるのですか?」
「そうなのであるか?」
俺が頷いて答えるとノーマが思い出すように話し出した。
それによるとノーマはレフィクル専属の鍛冶師であったが、その日レフィクルの妻である王妃ラーネッドの護衛も任されていたという。最も護衛といっても王妃ラーネッドはノーマよりも腕が立つらしく、護衛とは名ばかりだったそうだ。
レフィクルが王都に戻った為、出迎えに少し王妃の部屋を離れた隙に王妃ラーネッドは大剣を持つ者の剣によって刺し貫かれていたのだそうだ。
「その相手が【勝利の神アロンミット】だったのである」
衝撃が走る。これがもし本当であれば、レフィクルが神に戦いを挑んだのも頷ける。俺でもきっと同じことをしたかもしれない。
神は、創造神はそれを知っていながら放っておいているのだろうか……
「そして儂はその時その場を離れていなければこのような事態にはならなかっただろうと、まぁとばっちりを受けたのである」
ガハハハハと笑いながら締めくくった。
「嫌な思い出を聞いてしまいました。お詫び申し上げます」
「ふむ、代行者殿よ、数十年ぶりで人が変わったようであるな。もう昔の話であり、今では儂を知る数少ない友。もっと気楽に接して欲しいものであるな」
「そう……そうか、じゃあノーマ、頼みたい事がある」
俺はノーマにここヴァリュームを最防衛戦にして最後の砦になるように守りを固めてもらうように頼んだ。快く了承してくれたところで急いで次の場所へ向かう。
ポットが無事であってくれればと願いポットの家に辿り着きドアをノックする。少しするとドアが開かれポットの娘のペーソルが顔を出してきた。
「どちら様ですか〜? あ、大口の人だ。
お父さ〜ん、大口の人が来たよ〜」
大口の人……
すると慌てた様子でポットが迎え入れてくれた。
中に入るなりポットが麻薬が横行しだしたことを話し出す。当然知っている事だが、違うところがあった。
「実はですね、こちらがサハラ様にいただいたサンプルで、こちらが今横行しているものです。精錬されて効果が上がっているようでして……」
俺には理解できない話が始まり出した為、慌てて止める。
「ちょ、待ってください。今日は成果を聞きにきたのではないんです」
そこで俺がマルボロ王国国王ヴォーグの王宮で守られながら研究をして貰いたいと言うと、ポットとペーソルが顔を見合わせたあと叫ぶ様に俺に聞いてきた。
「つまりそれは、私達親子は王国の……王宮専属の薬師になるという事でしょうか!?」
「まぁそうなる。のかな?」
飛び跳ねる様に親子が喜び、王都に向かう事を快く承諾してくれた。
必要な荷物を聞くとかなりの量があったが、俺の鞄の中にある魔法の袋を取り出してこれに詰める様に言って渡した。
「お父さん、これ……超高級品だよ」
「こらこらペーソル……うふぉ!
……サハラ様それでいつここを出るので?」
「今すぐに。安全な場所に移動します」
陽が落ちきり夕飯の頃合いになって、やっと全部詰め終わった様だ。家の中を見回せばほぼスッカラカンになっている。
「みんな大切な思い出の詰まった物なのよ」
という事らしい。
家を出て施錠をシッカリとした2人をフェンリルと俺で護衛するかの様に妖竜宿に向かいだす。
あまり気にしていなかったが、妖竜宿はこの町では結構有名なそこそこ高価な宿だったようで、ポットは入る事に躊躇しペーソルはもしかしたら噂の御飯食べられるかもと嬉しそうだ。
シャリーが宿屋の前で待っていて、2人を迎え入れると、しっかり俺から2人分の宿代を支払わされる。
「サハラ王様ぁ、この宿代高いと思わない事ですわぁ」
またいつもの様に全てを知っているかの様な事を言い出す。
「この宿代は私達従業員全員が、お客様が宿を出るまでシッカリと責任を持って対応させていただきますと言う、いわば契約の様なものですのよぉ」
チラッとシャリーが見た視線の先を見ると、真っ黒な目から悪魔とわかる者が数人ぶっ倒れていた。




