金目の悪魔
アラスカと合流したのは陽が落ちた頃だった。キャスも来てくれたが、普段のように軽い雰囲気ではなく切羽詰まった顔つきだ。
学院の生徒達はキャビンへと戻し、その足で女王と会い門を固く閉ざさせたそうだ。
「今は代行者の僕達や7つ星の騎士団ですら入れないように結界が張られたよ。
それで僕が呼ばれたのは、そう言う事なんだね?」
「ああ、詳しい話は後でする。今は急いでヴァリュームに行かないといけない」
すぐに魔導門を開いてもらい、ヴァリューム近辺に移動する。
「全員いるな?」
「……9人、全員いる」
ベネトナシュが指差しながら数えて確認してから答えてきた。
城塞都市ヴァリュームに急ぎ足で向かい、手薄になっている町一つを囲う城壁の門を越えて町中に入ると、ヴァリュームの町中でも麻薬に手を出した者がいるようで、あちらこちらで水晶化した人が砕け散ったであろうと思われるものが散乱していた。
「こりゃ酷いわい!」
「これが今世界各地で起こっているというのですか……」
砕け散った破片の前でうずくまって泣いている者や愕然とした表情で立ち尽くす者がいる中、何かを拾い集めている者が目に止まる。
「アル、あそこの男が入る範囲で時間を止めろ。俺とアラスカとシリウスとパーラメントはあの男の捕縛、残りでローラ姫を守ってくれ」
「わかりんした」
代表のようにアルが返事をし、時を止める魔法を使う。
時が止まったのを確認して男に向かって行くと気がついた男が逃げ出そうとするが、時が止まっているせいで不変の壁に遮られる。
「なんだこれは!」
男が叫び、その正体を明かすように金色の目になって俺達を睨みつけてきた。
「もう逃げられはしない、悪魔よ、おとなしく質問に答えろ」
「訳わからぬ事をしおって……まぁいいだろう、殺す前にお前らの質問に答えてやろうではないか」
これだけの人数を見て怯むどころか余裕の表情を見せてきた悪魔は、睨みつけながら答えてきた。
「それを集めてどうする気だ!」
「これか?」
そう言って手に持つマナ結晶を見せてくる。そしておもむろに口に放り込むと、ボリボリと食べ始めた。
「これが答えよ。んん、この魂はなかなかの美味よ」
しっかりと咀嚼すると満足そうな顔を見せた。
「人の魂を食っているというのか!」
「なんという……」
アラスカとシリウスが悪魔に斬りかかる。だが余裕の表情のままその剣をその体で受け止め無傷でいる。
「なに!?」
「なんだと!」
「7つ星の騎士か。言われていたほど……大した事はないな!」
女らしからぬ声で2人が驚きの声を上げ、反撃の拳が届く前に距離をとった。
そこに鎖鞭が伸びて、俺の動きを封じた時のようにパーラメントが悪魔を捕縛するが、それでも余裕の顔を見せている。
「なんだこれは? 死極で使うものからすれば、ただのオモチャでしかないな」
そう言うと簡単に鎖鞭を引きちぎってバラバラにしてしまった。
「僕の鎖鞭を引きちぎった!?」
7つ星の騎士とパーラメントの攻撃は一切通じず、悪魔は勝ち誇ったようにその場に座り込むと、袋に回収していたマナ結晶をまるで菓子でも食べるように食べ始めた。
「威勢だけはいいが、その程度で勝てると思うな。どれ、他に聞いておきたい事は無いのか?」
桁違いの強さを見せつけられた上に、次々と人の魂とでも言うマナ結晶を口に放り込んでは食べていく。
パーラメントは皮の鞭を取り出すが、あの悪魔にはおそらく役には立たないだろう。
「どうした? 質問が無いのならそろそろ殺すぞ?」
どうするといった顔で俺を見る仲間の顔を見ながら、俺は一つの答えを導き出した。
「では質問だ。お前は、お前の体は魔法の力がなければ傷つかないのだろう」
菓子でも食って汚れたと言わんばかりに手を払うと拍手をしてくる。
「正解だ。ただし多少程度の魔力でもこの体は傷つけられんぞ?」
どうやらこの悪魔は上位種のようだった。そして悪魔の言葉から騎士魔法の聖剣でも傷つかない可能性があった。
どれ、と立ち上がると悪魔が突進し、一番近かったシリウスに攻撃を仕掛けてくる。だが、予測で動きがわかるシリウスは素早く避けて、聖剣を使って青白い輝きを放った剣で斬りつけた。
だが俺の予想通り硬い体に弾かれ傷一つ付けられない。
「化け物が図にのるな!」
シリウスが女らしさのかけらもなくそう叫ぶと、高速移動で滅多斬りにあらゆる箇所を攻撃するが、いずれも傷つく事はなかった。
「そこに特に美味そうなマナ結晶を隠しているだろう?」
咄嗟にローラが父親の魂であるマナ結晶を抱え込むようにして守る。
それを見た悪魔がそいつをよこせとローラに向かいだし、修道士特有の呼吸法をし、予測の準備ができた俺が間に入って対峙する。
「邪魔をするな虫けらが!」
突進してくる悪魔を気を通し、神鉄アダマンティン化させた創造神に賜った杖で殴りつける。
自分の頑強さに自信のあったからか、悪魔は避けることなく直撃を受けて吹っ飛び、不変の壁に当たって倒れた。
「さすがマスターです!」
アラスカがそう喜び叫ぶが、それ以上に俺はこの杖の想像以上の威力に驚いていた。
今の一撃は確かに力いっぱい殴りつけたが、棍術式のセンター持ちで殴ったため、あんなにぶっ飛ばすほどの威力は出ないはずだったからだった。
悪魔は苦しげな表情こそ見せるが、ゆっくりと起き上がり俺を睨みつけると、今度は油断なくにじり寄ってきた。
「レグルスは、何処にいる」
「そうか! 貴様【自然均衡の神】の代行者か!」
そう吠えると突然口から炎を吐き出してきた。避けようとしたが、俺の後ろにはアルとベネトナシュ、ローラがいるため避けれない。
殺られると思った瞬間、俺の前方に向かって吹雪のような風が吹き抜けて炎を消し飛ばした。
“俺もいるのを忘れるな”
フェンリルが口から吹雪のブレスを吐き出して炎を消し飛ばし、悪魔をも凍りつかせた。
「何処から……いやそれよりあの狼は」
「狼が、喋った!」
初めて見るシリウスとパーラメントが驚きの声を上げ、ローラは……ぐったりと気を失っているようだった。
このチャンスをみすみす逃す手は無い、杖をフルスイングして氷像となった悪魔を叩き割って粉微塵となった。
「サハラさんその狼は……」
「コイツはフェンリル、俺と契約を結んだ友で氷の最上位精霊だよ」
パーラメントとシリウスは珍しそうにフェンリルを見つめながらホォと返事を返してきた。
「時を動かしんす」
砕け散った悪魔とパーラメントの鎖鞭の鎖が散乱した状態で時が動き出した。




