人の趣味嗜好を咎めるな
第7章突入です。
大会が終わり俺はアルとボルゾイを連れて歩いているとシリウスがやってきた。
「マスター様、私もご同行する許可を頂けないでしょうか」
「断る」
「即決かい! 少しは考えてからにしてはどうなんじゃ?」
俺とアラスカ以外シリウスが女だという事は知らない。ましてやそのシリウスが俺に好意を寄せているとは思いもしないだろう。
何より秘密が多い俺たちの事をあまり話したくはなかった。
「ところでアラスカの姿が見えないようですが」
「ああ、俺が頼み事をしていて今はいないぞ」
シリウスが話をごまかしアラスカの事を聞いてきた。と、そこにこちらに神官衣姿のパーラメントが近づいてくる。
「サハラさん探しましたよ。あの後すぐに控え室に向かったつもりでしたが、姿が見えず慌てましたよ」
そんな事を言ってきた。まさか全力の勝負でも持ちかけられるのではないかと心配をしたが、どうやらパーラメントもまた俺に同行したいと申し出てきたのだ。
だが現状で俺にアラスカ、ボルゾイ、アル、ベネトナシュと5人が決まっている中に、シリウスとパーラメントまで加わったらずいぶんな数になってしまう。
「少し相談をさせて欲しい」
ちょっと離れたところでアルに時間を止めてもらい、どうするか相談し始める。
「良いんじゃないか? 旅は道連れというではないか。それにあの2人なら十分頼りになるじゃろ」
そう言ってボルゾイがヒゲを撫でる。
「わっちも賛成でありんすぇ。今回の相手は見えないところから攻めてきんす。仲間は多いに越した事はないと思いんす」
首を傾げて不思議そうな顔を見せるアル。
相談も何も反対意見ゼロで仲間に加える事に賛成されてしまった。そこで俺がフェンリルやアルのことなども話す必要があるかもしれない事も言ってみたが、木に求めていない様子で構わないと言われてしまう。
“サハラは自分の心配を優先しているだけじゃないのか?”
「はて、自分の心配とな。それは一体どういう事か、是非聞かせてもらいたいものじゃのぉ」
フェンリルにはズバリを言われボルゾイに追求され、しぶしぶシリウスが実は女で俺に好意を寄せていて、付いて来たがっている事を話す。
「何か問題ありんすか?」
「そうじゃのぉ」
“ウシャシャシャシャ”
コイツラ絶対に楽しんでやがる……
で、結局シリウスとパーラメントも一緒に連れていく事で決まってしまった。
「……というわけで、これから仲間として頼む……」
「ご、ご迷惑のようでしたら別に断っていただいて構いませんよ」
「よろしく頼みますマスター様、いえ、仲間なのですから今後はサハラと呼ばせて頂きます!」
両者別々の反応をしてくる。
ボルゾイとアルを見れば2人して含み笑いをしていやがった。
とりあえずベネトナシュを迎えに行かなければならないだろうと、公爵の館に連れ立って向かいヴォーグの部屋に入った。
そこにはヴォーグとベネトナシュの姿が当然あり……
「……こう?」
「いや、もうチョイこう見下したような感じでだな」
「……こう?」
「おおおぉお! それだ! その感じで頼むベネトナシュ」
「はい……
どうして欲しいのか……言ってごらんなさい……この変態野郎……」
「おおおぉお! 女王様!!」
思い切りどついた。脊髄反射で動いていた。
「ベネトナシュに何やらかしてやがんだこの変態野郎がぁぁ!」
「お、サハラ、やっぱりお前もセンスあるな」
この変態野郎は事もあろうかベネトナシュにSMプレイを教えていた。
当然引き攣るアルとボルゾイとシリウスとパーラメントの4人。そんな姿を見てヴォーグは恥ずかしげもなく4人に向かって言い放つ。
「人は、誰しも趣味嗜好を持つ。それを誰かに咎められる筋合いはない。そうだろう?」
「わっちにはさっぱり理解できんせん」
アルがそう言うと変態野郎はホォと勝ち誇った顔を見せる。
「俺は知っているぞ! お前が夜な夜なサハラの脱ぎ捨てたローブを手に取り、それはそれは熱心に匂いを嗅ぎながら……」
「ふぁ、ふぁあぁぁぁぁぁぁぁ! なんでそれを! やめてくんなまし、すみんせん、わっち が悪かったでありんす!」
アルよ、俺のローブの匂いを嗅いで何をしているというのか……
「一国の王ともあろうお方が、その様な破廉恥な……」
パーラメントがそこまで言ったところで、またしても変態野郎はホォと勝ち誇った顔を見せる。
「俺は知っているぞ! お前がこの大会で名を挙げ、嫁探しに来た事を‼︎ しかもだ! 物好きにも強い女子を所望している!」
「一国の王ともあろう御方が、そ、それを言いふらしますかっ! 」
パーラメントが挙動不審になりながら俺たちを見回し「違います、違うんです! うわぁぁああ!」といつもの冷静さを失い、顔を真っ赤にさせながらうずくまってしまう。
「わかったかぁ! 人にはそれぞれこういった趣味趣向というのがあるのだ! それを咎められる筋合いは無い!」
シーンと静まり返る。最もボルゾイとシリウスはまだ暴露されていないから大人しくしているだけかもしれない。
「儂も……少し、王の気持ちがわからないでも無いのぉ」
「なっ! ボルゾイ、まさかお前も!?」
「違わいっ!
……やはり性癖や趣味嗜好は誰しも持っているものじゃ」
つまりそれが人様に迷惑が掛からないのであれば見て見ぬ振りをするものではないかという。
「だけど、ベネトナシュは嫌だったんだろう?」
「……なんで? 結構新鮮で、楽しかった」
前々から思ってはいたが、この子は本当に何を考えているのかわからない。わかる事といえばフェンリルが好きで、ドルイドになりたがっているというぐらいだ。




