アロンミット武闘大会閉幕
第6章最終話です。
決勝戦当日になり、同室しているベネトナシュと顔を腫らしたアルに応援され、会場に向かい控え室へ入った。
控え室にはヴォーグが待っていて俺が入るとよぉと手を上げてくる。
「どうした? まさか応援に来たわけじゃないだろ」
「おいおい、お前さんまさかとは思うが、本来の目的を忘れたわけじゃないよな?」
すっかり忘れていた。俺はこの大会に勝って誰に喧嘩を売ったかをレグルスに知らしめてやるかどうか決めるはずだった。
「その顔じゃすっかり忘れていたってとこだな」
「忘れていたのは確かだが……公表する気はない。それにわかる奴はわかるだろ」
「確かにそうだな」
俺の横を抜けながら肩を叩きながら控え室を出て行った。
“どちらにせよサハラはこれで有名人だからな”
「そういう事」
呼び出しがあり、鞄から創造神に賜った杖を取り出し控え室を出て会場に出る。
会場から割れんばかりの声援が送られ、少しばかり恥ずかしい。ニヤけそうになる顔をフードで隠しながらデュエル場に上がった。
そして間もなくしてパーラメントもこちらに向かってくる。手には鎖鞭を持ち、フードも被らず素顔を大衆に晒しながらの登場だ。初めて見るパーラメントの素顔に観客の女性達からため息がこぼれている。
武闘大会で嫁さん探し、か。
「やはり貴方と戦うことになりましたね」
「シリウスではなく俺だと?」
頷いて答え鎖鞭を掴み構えを取る。俺も最初から修道士特有の呼吸法を使って全身に気をめぐらせ、杖を逆手で構える。
そして会場が静まり返り、デュエル開始の合図が出された。
初っ端からパーラメントは得意とする衝撃波を放つ振りで仕掛けてくるが、見切りのお陰で俺にはその範囲が見て取れ、範囲外に体を避けて躱した。
「やはりこの程度は話になりませんか、それでは遠慮なく行かせてもらいますよ」
そう言ってガルナ戦で見せた太刀のように鞭を振るって攻撃を仕掛けてくる。当然太刀筋のように見えるものは全て鎖鞭が実際に空を切っているためで、これを杖術で反撃は厳しかった。そのため素早く杖の中心辺りを掴む棍術の持ち方に変えて、俺を叩きつけようとする鎖鞭を全て弾いた。
「驚きの連続ですね、僕の攻撃をことごとく躱しますか?」
「だが、これで終わりじゃ無いんだろう?」
ニッと口元をさせて鎖鞭を叩きつけてくる。特別な攻撃の仕方には感じず避けて通り抜ける。だが、俺の身体が跳ねるように反応してその場を飛び退くと、通り過ぎた鎖鞭の先端が俺のいた位置に襲いかかっていた。
パーラメントが微妙な手首の動きを加えると避けた俺の方へと鎖鞭の先端が向かってくる。それはまるで蛇のようで、躱しても躱しても追いかけてきた。
杖で叩き落としてやろうと、未だ勢いの落ちる事なく俺に向かってくる鎖鞭の先端を杖で殴りつけると、驚いたことに鎖鞭が杖に絡みつきながらまるで生き物のように動き続け、俺の身体に巻き付いて杖ごと身動きを取れなくされてしまった。
驚く俺を他所にパーラメントは一気に間合いを詰めてきて、抜き放ったスティレットでとどめを刺そうと刺し貫いてこようとする。
「取りました!」
勝利を確信したパーラメントがそう叫ぶ。
全身に絡みついた鎖鞭は俺の動きを封じていて、スティレットを避ける為には転がるしか無い。加えてよく勉強をしているのか、足にも鎖鞭が絡みついている為高速移動もままならない状態だ。
縮地法を使えば回避どころかそのまま攻撃に転じられるが、さすがに命の奪い合いでは無いデュエルでそれは大人げないだろう。
「参った。降参だ」
俺の肩を狙って貫こうとしたスティレットがそこで止まる。
「優勝者! パーラメント!!」
次の瞬間そう声が上がった。観客席から猛烈な大歓声が上がり、パーラメントコールが起こり出した。
パーラメントが鎖鞭を微妙な動きで操ると簡単に捕縛から解放される。
「まだ反撃できたでしょう? ……代行者のサハラさん」
コイツ……知ってやがったのか。
「いや、限界だったよ。あそこから巻き返すには人外の力が必要だった」
嘘ではない。鎖を断ち切るにも捕縛から逃れるにも、この世界では人外に近い修道士の力が必要だった。
パーラメントが手を伸ばし差し出してくる。
「ではそういう事にさせていただきます」
大抵の女なら惚れてしまいそうな笑顔でそう答えてきた。
デュエル場から降りて退場し控え室に向かって歩いていき。会場は未だ冷めぬ熱気で湧いていた。
控え室に戻って少しすると息を切らせている事から走ってきたのだろう、アルとボルゾイとアラスカが姿を見せ、代表するようにボルゾイが声をかけてきた。
「ワザととまでは言わんが勝負を投げたじゃろう?」
「いや、全力は尽くしたさ。人としてはね」
そう答えると3人が納得したように頷いた。
「それより武闘大会もこれで終わったんだし、俺は……俺たちにはやらなきゃならない事が待っているだろう」
「そうじゃな、手はずは決まったのか? 儂はお主の指示に従うぞ」
「わっちもでありんす」
アラスカも頷いて答えた。
事は出来るだけ早く済ませたい。そう考えた俺はアラスカにキャビン魔道学院にいるキャスの元に向かってもらう事にする。
やはり魔導門を使えれば一番手っ取り早く、かつ安全に事は済むだろう。
「頼めるかアラスカ」
「では早速向かいます!」
そう言うとアラスカは足早に控え室を出ようとする。
落ち合う場所は公爵の館は多分もう使えないだろうから、町の宿屋で待っていると伝えておいた。
こうしてアロンミット武闘大会は幕を閉じ、第一回優勝者はパーラメントとなった。
明日から第7章になります。
1話1話が長く書くようにして、書き溜めるのに時間がかかっています……