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数時間前まで戦っていた跡地にエンをはじめとする猩々緋の四人がたどり着いたのは夜が明けてからほどなくしてのことだった。
なるほど、確かに真鵬たちが来た逆方向から国道を歩けばそこは一面割れて潰れて中身が飛び出たかぼちゃだらけだった。力を入れて歩かないと種やわたに足を取られて転びそうである。
一歩一歩慎重に歩いているとエンが三人に対して地の利がどうのとか死角がどうのと話を進める。素人に毛が生えたような真鵬にとってはいまいちピンと来ない内容だった。
「まあ真鵬は俺の言うことを聞いてれば大丈夫だよ」
エンがそう言うも一人明らかに面白くなさそうな人物がここにいる。
ちっと舌打ちしたヨウは「役立たずが」と毒づいた。
「ちょっとヨウ!」
言葉が過ぎると思ったサトがたしなめたが、ヨウはお構いなしだ。
「んだよ。俺間違ったこと言ってるか?そもそもそこの犬っころ、お前が今生きてるのはエンの慈悲だ。その慈悲に報いるようにもっと努力するとかやることあんだろ」
一方的な物言いにムカッときた真鵬はなにも考えずに反撃に出た。やられっぱなしでは真鵬も気分が悪い。
「俺だってなんの考えもなしにただ着いて回ってるわけじゃないです。確かにまだ基礎すら出来てないですけど──」
「そういう奴が足手まといで役立たずっていうんだよ。エンに聞いたが力にムラがあって使いこなせないんだろ?そんなやつは帰れ」
「まあまあ、二人とも落ち着いて。喧嘩してる暇なんてないんだから」
エンが二人の間に入って事態を収めようとするも睨み合いが続き、両者とも一歩も譲らない。
そこで動いたのはサトだった。サトはヨウの後ろに長く垂らした三つ編みを思いっきり引っ張ると、「いい加減にして」と諫めた。
「ってぇな!なにしやがる!」
「さっきから役立たずとか足手まといとか、そんなことばかり言って。エンさんも言ってたけどマホウくんは耳が良くなったんだからそこを頼れば心強いじゃない」
「……耳だけ良くても意味ないだろ」
サトには強く出れないのか、顔を背けたヨウは短く「くそっ」とつぶやくとスタスタと先を行ってしまう。あっという間にその姿が見えなくなり、エンはやれやれ、と頭を振った。
「いつもあんな感じなんですか?」
「そうだよ。取っ付きにくいでしょあいつ。勝手に敵作っちゃうタイプ。ああいう性格だからあんま気にすんな」
俺たちも急ぐぞ、と肩をぽんと叩き、ヨウの後を追うように歩みを速めた。
しばらく歩くと昨日見かけた墓標とはまた別の墓標が目に入った。数種類の花が手向けられているその墓標の前ではヨウが腰を落とし、両手を合わせて祈っている。
「事故で亡くなった人のものね」
サトは悲しそうにそう言うとヨウの横にしゃがみ、同じように手を合わせた。
人魂改めジャック・オー・ランタンは夜にしか動かないというだけあって、朝方は昨晩のような不穏な気配は一切なかった。木が飛んでくることもない。ただし動きがないだけでやつらはそこにいる。それはその場にいる全員が感じ取れたことだった。
「この木にぶつかって亡くなった、と……」
真鵬とエンも犠牲者に祈りを捧げたあと、エンが興味深げに近くの木を見上げた。
崖に面している側の脇道にある大木は当時の傷を受けたままで、表面が少しえぐれていた。木の横は真鵬とエンが藪漕ぎをしたのと同じ崖が続いている。心なしか大木からは他の場所と比べても怨恨が強いような気がしていた。
「俺が思うに」とエンはおもむろに自分の考えを述べ始めた。
「二週間前に目撃された悪事を働く人魂は培覧の言う通り、火災で亡くなって成仏出来てない人たちのものだと思う。二十人ちょっとだったか。でもなぜか十年も経ったあとで急に怨みが爆発してこんなことをするようになった。それは今年、その怨みをたきつけて煽った誰かがいるからだ。そして肉体を持たない人魂にジャック・オー・ランタンっていう体を与えたのも同じ人物のはずだ。その『誰か』はなにかしら理由があって散水町を混乱に陥れるのが目的なんじゃないか」
エンは立ち上がり、培覧が毎日欠かさずに花を供えているというもう一つの墓標へ向かった。真鵬たちは黙ってその後をついていく。
「ここで育てられているかぼちゃに邪気が溜まっていることを考えても、あのジャック・オー・ランタンのかぼちゃは散水町産に違いない。霊的存在である人魂に霊媒となっているかぼちゃの組み合わせは単なる偶然じゃないはずだ。そんなうまく事が運ぶわけがない」
くるっと三人に振り返ったエンは、「誰かが仕組んでる」と宣言した。




