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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第三章 新門
27/56

◆9

「こいつっ」


 その顔を見たサイ面男が真鵬を危険と判断したのか、再び斬りかかろうとした。が、真鵬の横にいたエンが炎の手でそれを制した。


「ヨウ、この子は悪霊じゃないよ。言ったろ、猩々緋に仲間が増えたって」

「そんなもん知らねえよ」

「知らなくないだろ!俺がエン通信で送ったじゃん!」


 エンの悲痛な叫びが虚しく玄関に響く。ヨウと呼ばれたサイ面男は少し思案した末に、心当たりがあるようだった。


「エン通信……?ああ、メールのやつか。携帯の電池切れてて見てない」

「え!?非常用充電器は?」


 ミディアムロングヘアの少女は信じられない、というようにヨウを見る。


「使い切った」

「充電器の充電はした?」

「そんなことする暇なんてなかった。ったく相変わらずごちゃごちゃうるせぇな」


 苛立ちを隠せないヨウは暑いと言わんばかりに仮面を取った。不機嫌そうに眉をしかめてはいたが、それも様になるぐらいの美少年だった。予想していなかった美しい顔立ちに思わず驚いて見つめていると、切れ長の細い目で「なんだよ」と言いたそうにギロッと真鵬を睨んだ。


「にしてもヨウ久しぶりじゃん!随分ボロボロになって帰ってきたね。今回ハードだった?」


 テンション高めでヨウに話しかけるエンだったが、ヨウの対応は冷たいものだった。


「別に。それよりあんたいつ目覚めたんだよ。俺が出発した時にはいなかっただろ」

「先週かな?いやあ、二年ぶりの娑婆の空気はうめえうめえ」


 かかかっと笑いながら答えるものの、ヨウの目は冷ややかなものだった。この二人の馬が合う様子がないのは部外者だった真鵬から見ても明らかだ。


「俺がいない間に猿が犬を拾ってきたとかただの笑い者だろ」


 ふん、と鼻でエンを笑うヨウにエンもなにも言えないらしく、ただ苦笑していた。


「それみんなに言われたよ。まあそれでも今日からちゃんと仲間なんだから」

「どうだかな。俺には悪霊にしか見えない」


 出会った時からしつこく悪霊扱いしてくることに不満があった真鵬は「悪霊じゃないです。大鉄真鵬です」と反論した。

 しかしヨウは「そうやって噛みついてくるところも犬かよ」と真鵬の言葉を一蹴した。


「おいおい、喧嘩するなよ。まあヨウはさておき、マホウは派手な顔になっちゃって……。ニュースで見たよ、つむじ風のこと。小猩々も教えに来てくれたし。あれのせいでここに来たんだろ?」

「ニュースになってたんですね。やっぱりあれ鎌鼬ですか?」

「そうだろうね。なんとなく見当は付いてるけど」


 なんの見当が付いているのか気になったが、「のんびりしてる暇はないな」とエンは有無を言わせずにマホウの首根っこを掴んで階段の下へ引っ張っていく。地下へと続く薄暗い螺旋階段にあちこち体をぶつけるはめになったマホウは後ろ向きのまま歩くことになった。幅が狭くて至極歩きにくい長い螺旋階段に苦労しつつも、なんとか転ばないだけのコツを掴む。


「いたた、なんですか急に!」

「これ以上君の中のヘルハウンドをほったらかしに出来ないんだよ。ヒロナが君に付けた、悪霊を制御する魔法陣ももう消えてるから効力はないし。おへそ見てみ?」


 言われるがままTシャツの裾をまくってみるとへそのあたりにあった魔法陣は綺麗さっぱり消えていた。校庭で耐えられないぐらいに熱くなった時があったが、あれが消えていく痛みだったのだろうか。


「今はかろうじて小猩々が放ってた霊気れいきがヘルハウンドの邪気じゃきを相殺してる。それと僅かに残った君の理性が『オオガネマホウ』を保ってるんだ」


 エンの話によると小猩々は『霊気』と呼ばれるものを体から若干放っていて、これは弱い悪霊なら寄せ付けないない力があるらしい。真鵬の元に案内役兼監視役として一匹つけたのもその効果で真鵬を外敵から守って精神状態を安静に保つためだったそうだが、「まさか鎌鼬が来るとはね。予想外だった」と苦々しい顔をしていた。


 エンの読みではヒロナの魔法陣と小猩々の霊気で当分の間、少なくとも今週いっぱいまではそれでなんとか真鵬を霊の手から防げるはずだった。しかし小猩々の霊気では太刀打ちできない鎌鼬という強力な妖怪が現れたことと(校庭に現れた時点で小猩々はエンに助けを求めに戻ったらしい。そもそも真鵬は小猩々がこっそり真鵬の後を尾けて学校にいたことすら気が付かなかった)、そのせいで鎌鼬と接触してしまった真鵬がヘルハウンドと真鵬自身の自我のバランスを崩してしまい、解放されたヘルハウンドの力がヒロナの魔法陣の力を上回ったことにより真鵬がヘルハウンドに呑まれてしまった、ということだった。

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