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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第二章 自問自答
18/56

◆8

 真鵬の二つの瞳が赤くなる。鼻が高くなる。肌色だった部分は黒くなり、毛が覆う。その容貌はまさに犬同然だった。


「地獄に落ちればいいんだ」


 誰が?


「お前が……っ。あああああ、お前、てめえ、くそっ、出ていけ、悪霊犬あくりょうけんめ!」


 出ていけと強く思えば思うほど胸のあたりでなにかが暴れ回り、憎しみが感情を支配していく。脳内は様々な情報や気持ちで溢れ返り、混線状態だった。


 墓地での記憶が脳内に映し出される。曇り空の中黒い棺の周りで嗚咽する人々を見て、とても悲しい気分になる。隣では背の高い男がハンカチを力強く握りしめており、真鵬はなぜかこの男が主人だと知っていた。


 ──主人?主人って誰だ?これはなんの記憶なんだ?


 肝試しをした墓地であることは確かだったが、棺の周りにいる人々や主人の服装を見ても、長い厚手のコートにシルクハットと現代離れしている。


 急に脳内映像が黒一色になり、回想が終わったことを知らせた。それでも混線は直らず、相変わらず真鵬はヘルハウンドの持つ憎しみに苦しんでいた。それは段々と真鵬自身が心にしまっていた憎しみを引き出し、混ざり合う。


 ──ああ、こんな気持ち、ずっと出さないようにしていたのに。どうして、どうして今ごろになって……。


 ヘルハウンドが憎い。それを抑えられない自分が憎い。他人を危険な目に合わせてしまった自分が憎い。そしてそれを止められる術を持たない自分が憎い。


 ──俺は、自分のことが、大っ嫌いだ。


 熱くなっていたへその下も高熱を帯びていたが、そんなことは気にならなかった。気にならないというよりかは熱に対する免疫がついてしまい、もうなにも感じなくなってしまっていた。


 ──もうだめだ、意識がぶっ飛ぶ……。


 どうにかギリギリのところで自分を保っていたが、それもかなり限界がきていた。ぷつりとなにかの糸が切れたように真鵬は大きく雄叫びをあげた。ビリビリと空気が震える。


 もはや真鵬は真鵬ではなく、人の形をした黒妖犬だった。


 鎌鼬を仕留めるべく獲物を狙うように低い姿勢を取る。足の動きを封じていた重みからはすでに解放されていた。

 黒妖犬は低く唸り、ずっとぐるぐると回っている鎌鼬の居場所を特定しようとするも中々定められない。


 しばらくそのままの体勢でじっとしていたが、動きのパターンがわかってきた。人の体に犬の(霊的存在ではあるが)動体視力が適応するまで時間がかかったが、慣れると動きがよく見える。タイミングを吟味した結果、次に鎌鼬が目の前に来た時に飛びかかることにした。


 しかし突然、左肩にトスッとなにかが刺さった。首を少しだけ左に向けると、見えたのは真っ白な矢だった。痛みは感じない。ただ肩に刺さっている。

 疑問に思ったのも束の間、体中からサーッと憎しみやらなにやら、いわゆる負の感情がまるで波が引くように去っていくのを感じた。少し息が詰まるような感覚とともに脱力していく。


 同時に鎌鼬も短く声を上げてもやになって消えた。鎌鼬がいたところを見ると一本の白い矢が地面に刺さっていた。その矢は少しの間形を保っていたが徐々に白い塵のようになり、サラサラと宙へ舞って消えた。


 負の感情とともにヘルハウンドもおとなしく体内へ戻り、正常と化した真鵬はなにが起こったのかわからなかったが、いつもの自分の意識が戻ってきたことに一安心した。矢が放たれたであろう屋上の方向に目を向けるも、誰もいなかった。


 ──一体誰がなにを……?


「真鵬!」


 校舎から数人の教師と生徒が真鵬に駆け寄ってくる足音を聞きながら、なにもない屋上から目を離すことができなかった。


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