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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第二章 自問自答
16/56

◆6

「政人」

「うん?」

「あの風、風に見える?」

「なんだそれ。風は風だろ」

「そうじゃなくて、なにか他のもの見えない?」

「他のものって?」と政人は少しの間考えを巡らせたが、返ってきた返事は「見えない」というものだった。


 ──やっぱり見えていないのか……。


 淡い期待はあっけなく打ち砕かれ、真鵬は肩を落とした。しかし政人は謎のつむじ風に追われて逃げながらも観察し、どのように動けばいいのかまで自論を展開した。切羽詰まったこの状況下での頭の回転の速さには舌を巻くほかない。真鵬は鎌鼬が見えているものの、見えているだけだ。なんの役にも立っていない。


 だが政人の「人を追いかけてるみたいに動いてる」というのを聞いて真鵬はあれが自身の疲労による幻覚ではなく、本当に妖怪であることを確信した。でないと説明がつかない。通常のつむじ風が意思を持っているかのように人を追いかけたり、先回りして妨害をするだろうか?


 六人は政人の案通り、六手に分かれて逃げることにした。


 六人で一つだった標的が六つに散ったことで鎌鼬は誰か一人に定めなければならない。ほんの一瞬まよったかのように動きを止めた鎌鼬が新しく狙ったのは真鵬と同じく一年二組の福見帆夏ふくみほのかだった。


 自分が標的にならなかったことでほっとした真鵬だったが、それと同時に福見を助けなければという気持ちも生まれた。あれはつむじ風ではない。鎌鼬なのだ。妖怪を相手にできるのは自分しかいない。


 問題なのはどうやって立ち向かえばいいのかだった。こっちは丸腰の状態だ。それに撃退法なんてわからない。

 唯一思いついたのがお清めの塩から連想した「塩を撒く」というものだったが、塩なんて持ち歩いているわけもなく、即却下した。そもそも鎌鼬に塩が効くのかすら不明だ。


 とにかく、と真鵬は自分に言い聞かせた。


 ──とにかく、福見さんを鎌鼬から離さないと。


「福見さん!」


 今出せるありったけの声量で名前を呼びながら駆け寄ると、涙を目いっぱいに溜めた福見が振り返った。


「大鉄くん……」


 消え入りそうな声で真鵬の名前を呼ぶ福見に胸が痛んだ。


 ──そうだよね、怖いよね。俺も怖いよ。


「俺がこいつを引きつけるからその間に校舎まで行くんだ」

「引きつけるってどうやって?」

「それは……わかんないけど……」


 もごもごと口ごもっていると後ろから鎌鼬が福見を目がけて鎌を振り下ろした。真鵬はとっさに福見の腕をつかんで引っ張り、間一髪でそれをかわしたが、自分自身の反射神経の良さに疑問を感じた。普段運動しない真鵬はこんなに素早く動けるような体ではないはずだ。


「だめだよ、やっぱりわたしにしか反応しない。引きつけることなんてできないよ」

「……一緒に走ろう」


 このまま引き下がって福見がやられるのを黙って見過ごすわけにはいかない。福見とともに行動していればそのうち鎌鼬の興味の対象が真鵬に移るかもしれないと考えた真鵬は、福見の腕をつかんだまま半分やけくそで走ることにした。とにかくこの妖怪から距離を置くのが先決だ。


 だがものの数歩走ったところで急に重くなった右手に驚いて振り向くと、福見は真鵬に引きずられる形になっていた。


「大丈夫!?」


 しゃがんで福見の状態を確認すると引きずった時に膝を大きく擦りむいたらしく、両膝が真っ赤に滲んでいた。福見はただただ痛みで顔を歪めている。とてもではないが自力で立ち上がることは難しいだろう。


 その間にも鎌鼬は近付いてくる。福見をこの場から動かすことはできないと判断した真鵬は鎌鼬から守る盾のように福見の前に立った。とりあえず深く息を吸って、吐く。このままだと間違いなく福見も斬られることになる。それだけはなんとしてでも避けたいが、どうすればいいのか相変わらずなにも思い浮かばなかった。


 ──今まではこんなもの見えたことなかったのに、一体どうなってるんだ?

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