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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第二章 自問自答
15/56

◆5

 なにかがおかしい、と目を開けると校庭にはつむじ風が舞っていた。サッカーの試合を見ながら黄色い歓声を上げていた何人かの女子たちは今や痛みで叫んでいる。彼女たちは腕や顔を抑えており、よく見ると血が滴り落ちていた。どうやらただのつむじ風ではない。


 状況を察した笹塚が生徒たちに逃げろと大声を張り上げる。そう言われなくとも校庭にいた同級生たちは蜘蛛の子を散らしたように逃げまどっていた。もちろん、危険を感じた真鵬も逃げることにした。

 縦横無尽に校庭を荒らしているかのように見えたつむじ風だったが、逃げているうちにあることに気が付いた。風は意思があるかのように人がいる方向に向かって動いている。つむじ風から距離を取ろうとする生徒たちに近づき、次々とその強風で危害を加えていた。その異常な光景に違和感を感じざるをえなかった。


 ──ヤバいやつだろこれ、どうすればいい!?


 とりあえず校庭から校舎に走りながら朦朧とする意識を繋ぎとめて脳を働かせる。以前テレビで見たニュース番組で突然発生するつむじ風の映像を何回か見たことがあったが、どれも長続きはしていなかった。数分経てば自然消滅するはずだ。それまでに校舎の中に入れれば問題はない。

 途中、真鵬の近くにいた生徒たち数人の皮膚がスパっと切れるのを目の当たりにした。鮮血が砂に染み込んでいくのと同時に校庭には叫び声が響き渡る。


 突然、視界の隅で鈍い光を捕らえた。しかし校庭には光を反射するものなど置いていない。なにが光ったのか気になった真鵬は辺りを見回した。


 真鵬の視界に入った光の正体はつむじ風だった。いや、これは正確な言い方ではない。つむじ風をまとった、鎌の形をした両腕を持ついたち。鈍く光ったのはその鎌だった。

 鎌に鼬の組み合わせでピンときたものがあった。幼いころに妖怪の本を読んでいた時にやたら印象に残っていた妖怪がいたのだ。人を斬る風は風ではなく、この妖怪の仕業だと信じていた。


 ──もしかして鎌鼬かまいたち……?


 しかし他の生徒の様子を見てもどうやら鎌鼬に気が付いていないらしく、皆ただただ必死に暴風から逃げるだけだ。

 もしかすると気付いていないのではなく、見えていないのか?

 しかし、と真鵬は思いとどまる。寝不足すぎて幻覚が見えているだけではないのか。あれが本当に鎌鼬という妖怪である確証はどこにもない。


 もやもやとした気持ちでいるといつの間にか男女数人の生徒とともに校舎の入り口の側までたどり着いていた。すると目つきに悪意を宿した鎌鼬は真鵬たちと校舎の間に滑り込み、校舎に近付けさせないようにその大きな鎌を振りかざす。

 シュパッという音と同時に真鵬の頬にピリッとした痛みが走ったかと思うと、冷たいものがツーッと滴るのがわかった。


 ──くそっ……。


 校舎に入ることを一旦諦めた真鵬は踵を返し、再び数人の生徒と一緒に校庭を走ることになった。正直体力も気力ももう限界だった。


「みんなばらけて逃げよう」


 息を切らしながらも走りながら力強くそう提案したのは政人だった。


「あの風、なんだか人を追いかけてるみたいに動いてるんだ。だからみんなそれぞれ違う方向に逃げて風の進路を増やせば固まって動くよりは被害を抑えられるかもしれない」


 今この場にいるのは真鵬と政人を含めて六人。これがばらければ鎌鼬は六通りの道を選べることになる。六人で一つの道を示すよりも、六つの道を与えたほうがどの道に進めばいいのかわからなくなるから怪我をしないんじゃないか、というのが政人の案だった。逆に言えば誰か一人がターゲットになる可能性が高く、その者はほぼ間違いなく被害に遭うだろう。


 そんなことよりも真鵬は政人の言葉に淡い期待を抱いた。政人も真鵬と同じく鎌鼬が見えているからこのようなことが言えるのではないかと。

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